おジャ魔女ひなた91
第4話「とんだ9級試験」
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“姉さんは教育者として優秀だった。私なんかよりずっと…。そして優しく、生徒からの人気もあった”
 マジョミカは姉のマジョミィナを誇りに思っていて、自らの目標にしていた。しかしある日唐突に…。
「学校を辞めるってどういう事」
 長い廊下で姉を追いかけながらマジョミカは叫んでいた。マジョミィナは振り返って笑顔で言う。
「私、人間界で商売がしてみたくなったの」
「姉さん、人間界に行くって、魔女ガエルの呪いがあるのよ」
 マジョミカは必死に引きとめようとする。
「だからこそよ。このままじゃいけなのよ」
“時々、姉さんの考えがわからなくなる。魔女界の教員としての地位を捨ててまで、どうしてリスクの高い人間界に行かなくてはならないのか…”
 マジョミカは溜息をつく。マジョミィナはおっとりした性格だが、決めた事は遣り通す性格だった。それを妹であるマジョミカが一番良く知っているからだ。
「…私は反対だからね」
「わかってる。ごめんねミカ」
 そのマジョミィナのすまなさそうな表情にマジョミカは切なくなる。そんなマジョミカをマジョミィナは抱きしめる。この瞬間だけ、ただ姉に甘える妹を思い出すマジョミカ。そして何も言わずマジョミィナは人間界へ行った。

 マジョミカはひなたの顔を見つめながら、少し昔の事に想いを馳せていた。あの時、マジョミィナと別れて…そして今、魔女ガエルの姿となったマジョミカと再会した。そして自分の目の前には姉を魔女ガエルにした人間が居る。想いは複雑だった。
「では、試験を始める」
 マジョミカはそう言って、指を弾いた。魔法で二つの風船が出現する。そして空へ舞い上がっていく。ひなたとななみはそれをただ見つめていた。風船はどんどん小さくなっていく。
「9級試験は箒に乗って空を飛ぶこと…箒でさっきの風船を取ってきてもらう」
「ええっ!」
 どんどん小さくなっていく風船に二人の魔女見習いは声をあげる。ひなたは急いでタップから箒を取り出すが、跨る事に躊躇する。ななみはひなたと同じように箒を取り出してから、ひなたの行動に首を傾げる。
「ひなた、どうしたの?」
「9級合格しないと…箒って上手く扱えないらしいのよ」
 ひなたの言葉にななみは困ったような顔を見せる。そうしている内にも風船は米粒ほどに小さくなっていく。
「9級合格前の魔女見習いが箒に乗れないのは、魔力の強さがそれを制御するに達していないからだと言われている。今後、魔女を目指すのであれば、いろいろな魔法アイテムを使わなければならない場面も出てくるだろう。そんな時、自分の魔力がそれを扱うのに足りないからと言って、諦めるのか?足りないなら足りないなりに何とかしようと考えないか?……まぁ、今回は試験だ。諦めるのであればそれでも構わないが…」
 マジョミカは動かない二人に厳しく言う。
「諦めたりなんかしないよ。諦めたら負けだもん!」
 ひなたはそう言って、思い切って箒に跨り魔力を込める。箒は浮かび上がり勢い良く飛び出していく。
「ひょぉぉぉぉええええ〜っ」
 ただし明後日の方向に…。ななみはそれを見ながら、自分も箒に跨ってみる。しかし飛ばない。
「あれっ?」
 ななみは首を傾げた。
「急いだ方がいいぞ、ある高度に達すると風船は割れるから」
 マジョミカはそう言って空を見上げた。その隣にパレットで飛んでいるマジョミィナがやってくる。
「さすがミカね。面白い試験をやってくれますね」
 マジョミィナはいつもの笑顔で微笑みかけてきた。それは魔女ガエルの顔だったが、マジョミカはそれに懐かしさを感じた。
「最近の9級試験の傾向は“試験官の指定する物を魔法を使って出す”って物が主流なのにね」
 ゆきがマジョミカを見上げて言う。マジョミカは訝しげにゆきを見つめる。何処かで会った事がある感じだが、教育現場に携わって、魔女見習い試験もいくつか担当しているマジョミカすら知らない魔女見習いだったからだ。
「あっ、ピュアレーヌのゆきさんよ」
 マジョミィナがマジョミカに紹介する。
「お姉さんを魔女ガエルにしてしまった、魔女見習いを試しているんですね」
 ゆきはお見通しとばかりにマジョミカに言う。
「そうね…箒で、なんて大昔の試験だものね…ミカお得意の愛のムチなのね」
 マジョミィナは依然嬉しそうだ。そう、姉の魔女見習いだからといって、私情を挟まず、厳しく扱ってくれるのが嬉しいのだ。しかしマジョミカは…。
「私は反対したはずよ…だから」
「わかってるわ。でも…ありがとう」

■挿絵[120×120(4KB)][240×240(16KB)]

「この試験の攻略ポイントは、暴れ馬の様な箒を何とか、思う方向に飛ばして、風船をキャッチする事…ただ、風船とあんなに距離が開いてしまっては、かなり難しいわね」
 もう肉眼では見えない風船を見上げながらゆきが言う。ひなたは依然、全然違う方向で箒に振り回されている。ななみは地上で飛ばない箒に困惑している。
「ダメみたいね…所詮人間はこの程度…こんな魔女見習いを育てる為に……」
 マジョミカは悔しそうに言う。
「ふふ…そうね」
 マジョミィナはそれでも微笑んでいた。

「やっぱりィィーっ、今の私にはぁァァー、扱えないよ…魔法の箒は〜」
 ひなたは高速にデタラメな飛行を続ける箒にしがみ付いているのがやっとだった。
“んっ…扱えない?……という事は…”
 何か思いついたひなたは考え出した。でもひなたを振り落とそうと激しく動く箒のせいで気が散って考えがまとまらない。
「ええぃっ、私はあんたの主人なんだぞっ」
 ひなたは箒を叩いた。箒の動きがますます激しくなる。