おジャ魔女わかば
特別編[翔の章]
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 ノコギリザメの形をした宇宙戦艦ソーシャーク号は月を目指して星の海を最大船速で泳いでいた。そのブリッジではあずさ達、7人の魔女見習いが作戦会議を開いていた。
「私達はわかばを月より救出に行く訳だけど、まず敵の戦力が知りたいわ」
 あずさがかぐらと妖精シロに話をふる。
「そうですわね、かぐらさんを含めた13人の女王候補について情報が欲しいですわ」
 さくらも、そして他の魔女見習い達も同意してかぐらの方を見つめる。一呼吸おいてシロは語り始めた。
「説明しよう。まずここにいらっしゃるのが第1女王候補“月影かぐら”ことカグラ・エイプリィ様。言うまでも無く魔女界で魔女の資格を得た姫は一番女王に近い存在と言える。ただし戦闘向きの性格ではない。従って月においては他の候補のエジキでしかないだろう。次に第2女王候補アルテ・ジュラィ。月の軍を牛耳っていて、さらに下位の候補をまとめ上げアルテミス5と言う私兵にしている。今、月で一番の実力者だ」
「…今回の拉致事件の首謀者ちゅー事やな」
 つくしの確認にシロは頷いた。
「あの時、森の中で見たオレンジ色の目をした黒い魔女見習いは、そのアルテミスファイブの一人と言う事なのね」
 あずさが静かに怒りを燃やしながら呟く。
「それはおそらく、アルテミス5のサティ・フェブリィ第8女王候補だろう。アルテミス5はあと、第9候補のハルフ・マーチィ、第11候補フリル・セプティと第12候補ネオル・セプティの双子、そしてリーダーでアルテの右腕、第6女王候補ミィズ・ジュンリィで構成されている」
「かぐらちゃんをいれて、これで7人ね、残りは?」
 みるとが指折り数えながら尋ねる。
「第4女王候補トワイ・ノベンティはアルテと対立している。彼女には第10候補ホルプ・ディッセンティが賛同している。さらに最近、未確認だが第5候補マリア・オーガスティを味方につけたようだ。マリアは女王選には興味は無く、金で動く傭兵的立場をとっていた」
「それでは、アルテさんのグループとトワイさんのグループが対立していると言う事ですわね」
 さくらがまとめてみる。
「両者の直接対決は……おそらくかぐら様の問題を片付けた後だろうと思われる」
 シロは重々しく述べた。そしてシロに替わってかぐらが口を開いた。
「第7女王候補パルナ・メィリィは私の幼少の頃からの友達。今はアルテの妨害で怪我をして入院中なの。第3女王候補クリス・ジャーニィは私のお姉さん的存在なんだけど……完全に中立の立場をとっているの」
「つまり、現状でかぐらの味方は居ないと言う事ネ」
 蘇雲の言葉にかぐらは辛そうに頷く。
「……あれ、説明はこれで12人だよね。もう一人いるんじゃ?」
 数えていた数を確認してみるとが不思議そうに口にする。
「もう一人は…幼い時に行方不明になっている。故、すでに候補からは外されている」
 シロは答える。
「それでも敵は多いな…」
「一人一人倒していけば、何とかなるネ」
 ゆうきの不安に蘇雲は簡単に答える。
「お前達、月の魔女、しかも女王候補に勝つつもりで居るのか?」
 シロは驚いて声を上げた。
「…わかばを救うためには避けては通れそうに無いから」
 あずさは戦う意思を見せる。
「地球とは違うんだぞ、月で月魔女の魔力は無限大だ。お前達魔女見習いでは一人たりとも倒す事は出来ない」
 シロはそれは無謀だと力説した。
「でも、何とかせなあかんやろ、そのための作戦会議やで!」
 つくしの言葉にあずさ達は皆、頷いた。マジョローズは艦長席でこのやりとりを静かに見ている。一切、口を挟まずに。

***

 6級魔女見習い試験の最中のウララは魔女図書館に訪れていた。この試験、マジョドン屋敷の裏にある銀色の封印された扉を開く事が課題なのだが、期限が一週間あった。しかも何をしても良いと。しかし、その場で思いつく限りの事はやりつくしたウララは扉に書かれた魔法文字をノートに写して、それを解読する事を始めたのだった。しかし、広大な魔女図書館の片隅で本とノートと交互に睨めっこしてうんうん唸るだけで、ちっとも前に進めないでいるのだ。
「あかん、無理だよ」
 ウララは思わずグダーとのびてしまう。本は魔法文字の文法が解説された本なのだが、この本も当然ながら魔法文字で書かれているので、読めない。
「ウララ、ずっと7級魔女見習いのままなのかなぁ」
 小さく呟いてしまう。ウララは9級試験の時に躓いていて、かなり長い事無級魔女見習いだったのだ。その時の悪夢が甦る。ウララは自身の母親を魔女と見破ってしまい魔女見習いをしているので、母を元に戻せないと思うと、悲しくなってくる。ジワジワと涙が溢れそうになる。そこに……。
「どうしたの、お腹でも痛いんですの?」
 上方から箒に乗ってスッと降りて来たのは金髪の若い魔女だった。ウララより1,2歳年上くらいに見える。そんな彼女の顔をウララは涙を堪えながら見上げる。
「看護士の知り合いがいますけど、呼びましょうか?」
「ち、違うんですっ。試験問題、解けなくて……困って……悲しくなって」
 慌ててウララは説明する。金髪の若い魔女は尋ねる。
「試験って、魔女見習い試験?」
 頷いたウララは経緯を彼女に説明し始めた。

「へぇ、それは変わった試験なのね。でもその条件からすると、結構、大変なのよね」
 と言いながら、金髪の若い魔女はウララのノートを手に取る。そこに扉に書かれている魔法文字が写されているのだ。
「その試験、扉さえ開けば方法は問わないんでしょ。私はマジョナスカ。ナスカで良いわ」
「えっ、えっと……私は椰下ウララ」
 ウララは良くわからないが名乗ったナスカに対し、自分も名乗ってみる。
「今日は気分転換で暇を持て余していましたの。だから、手伝わせてもらうわね。まずは、これを読めば良いのかしら……“真に若き魔女の祈りを重ねよ。さすれば銀の道が魔力の源に導くだろう”って書いてるけど」
「おおっ」
 難なく魔法文字を読むナスカ。魔女なので当然なのだが、ウララは思わず感動してしまう。
「前半部分が方法で、後半部分が扉の向こう側の情報っぽいですわね。“真に若き魔女”って私みたいなヤングな魔女か魔女見習いかしら。“祈りを重ねる”はマジカルステージを指しているって解釈で良いのかしら」
「おおっおおっ」
 どんどん解読されていく問題にウララはまたも唸ってしまう。