おジャ魔女わかば
特別編[翔の章]
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 ソーシャーク号の食堂でつくしが工具を広げて何かしている。
「ツクシ、何やってるカ?」
 そこに蘇雲が入ってきた。ブッリジの管制は交代制で行っていて、今は手空きなのだ。
「タップの改造」
 さらりと言うつくし。手元ではつくしのリズムタップが分解されていて、内部構造が露わになっている。つくしはピンセットで細かい部品を丁寧に外しながら続けた。
「たぶん、バレたら怒られるやろな…。魔女界では違法や思うから」
「違法っ。ぞくぞくするネ」
 違法と聞いて、何故か蘇雲は嬉しそうにしている。そんな蘇雲に苦笑いを送りつつ、つくしは言う。
「うちら、水晶玉を盗まれた時に、それを取り戻す為にってロイヤルパトレーヌの光をこのタップに授かったんや」
 言いながら、タップ内部の回路基板に貼りついている小さな水晶玉を指さすつくし。その水晶部分は淡い光を発していた。
「これはロイヤルパトレーヌ形態を発動させる為のスイッチであると同時に変身する為のエナジーを供給してる訳なんやわ。さらに最初にタップに取り込んだ時にインストーラーとしてタップの機能の一部を書き換えてるみたいなんや」
 つくしは分解したタップに携帯端末を接続し、画面に表示されている魔法文字のプログラムを眺めていた。
「つまり、どういう事カ」
 よく理解できない蘇雲は結論を求めた。
「光は残念ながら複製出来ないけど、プログラムの書き換えは手動でも出来る思うんやわ。そしたら、あんたらのタップのプログラムをロイパ用に書き換えれば、あとはうちらのタップの光をスターターとすれば、ロイパに変身できるんじゃないかって思うんや」
「なっ、ロイパがたくさんネ」
 蘇雲は興奮して立ち上がる。
「それぐらい準備しておかな、月魔女とやりあえへんからな」
「でも、まだ問題はあるわ」
 食堂にあずさの声が響いた。つくしは頷きながら答える。
「ああ、わかってる。うちらのロイパには時間制限がある……でもな、これはプログラム的に回避できたんや。うまく誤魔化して活動時間を30分まで引き延ばせる予定や」
「そう……なら、ディフェンスは何とかなりそうね。敵の攻撃はロイヤルパトレーヌのドレスが跳ね返してくれる。あとはオフェンス。私達はリースポロン専用の魔法の実ロイヤルシードを切らしてしまっている」
 あずさはそう言って俯いてしまう。蘇雲はあっけらかんと二人に告げる。
「ここは海賊船ネ。お宝の中にあるかもしれないヨ」
「それだっ」
 つくしは蘇雲を指さして賛同するけど、あずさは……。
「そんなに上手く行くかしら」
 楽観視は出来ずにいた。

***

 ブリッジではみると達が退屈そうにしている。
「何か異常があったらマジョローズさんに伝える…それだけだもんね」
「みると、気を抜いてはいけませんわ」
 さくらがみるとに言う。そこにゆうきとかぐらがやってきた。
「当番ご苦労さん」
「まだ交代には早いですわ」
 ゆうきの挨拶にさくらは疑問を投げかける。
「…あの、皆さんを巻き込んでしまって、すいません。私、謝りたくて…ゆうきちゃんに一緒に…」
 いきなり、もじもじとかぐらは謝罪した。みると達はいきなりでぽかんとしている。
「そんな事、気にする事はありませんわ」
「さくらの言うとおりだよ、突然ビックリしたよ」
 さくらとみるとは微笑む。
「仲間を助けるのに理由は要らない。それだけでしょ。わかばちゃんは当然だし。かぐらちゃんも大切な仲間だからね」
 みるとは照れ臭そうに言う。
「ありがとう」
 かぐらはそう言うのが精一杯と言った感じだった。
「だから、そんな心配はいらないと言ったでしょ…それでも全員と話すの?」
 ゆうきはかぐらを気遣う。かぐらは強く頷いた。

***

 つくし、あずさ、蘇雲は艦長室の前に来ていた。その無機質な扉をつくしがノックする。高い金属音が響く。
「誰だ?鍵は開いている」
 中から声がする。つくしはそれを聞いて、扉を開いた。そこは小さな部屋に大きなパイプオルガンが置かれた部屋だった。
「…どうしてパイプオルガン?」
 つくしは予想外の物を見て徐に呟いていた。
「そんな事を言いに来たのでは無いだろ」
 マジョローズは呆れて言う。あずさがつくしの前に出て進言する。
「マジョローズさん、もしロイヤルシードをお持ちでしたら、譲っていただきたいの」
 “ロイヤルシード”、その単語にあずさ達の考えをほぼ理解したマジョローズは険しい表情を見せた。そして問い質す。
「ロイヤルシードの価値をわかって言っているのか?」
「ええ。だから、あなた程の海賊ならばと思って」
 あずさはひかない。
「ああっ、勿体ぶってぇ。持ってないのとちゃうカ」
 二人の駆け引きに蘇雲が苛立って言う。するとムッとしたマジョローズが徐にオルガン横の机の引き出しから、革製の巾着袋を取り出して、中身を手のひらにあけてみせた。そこには光り輝く王冠と音符が合わさったような形をした種があった。
「私が所有しているロイヤルシードは6個。でもこれをあなた達に譲る義理はないわ」
「でも、私達には……わかばを救うには、それが必要なの」
 あずさはマジョローズを真っ直ぐに見つめる。
「強情ね。なら、こうしましょう」
 何かを思いついたマジョローズはそう言って不敵な笑みを浮かべるのだった。

***

 かぐらとゆうきはあずさ達を探して艦の格納庫にやってきた。
「あと、見てないのここくらい……って、いたけど、何これ」
 ゆうきは格納庫の異様な雰囲気に驚く。そこにはあずさ達とマジョローズが居たのだが、マジョローズと蘇雲が互いに足元の床に書かれた直径2メートルくらいの円の中に立ち、睨み合っているのだ。
「あれは……対決魔法の陣」
 かぐらが呟く。首を傾げるゆうきにかぐらは続ける。
「魔法界ではポピュラーの対決方法よ。競技用にも使われるわ。お互い魔法を使用し、相手を円の外に出した方が勝ちなの」
「なんで、そんなんを蘇雲とマジョローズが」
 ゆうきは信じられないように呟く。