おジャ魔女わかば
特別編[天の章]
3/10
 わかばは首を傾げて、
「おーっほっほっほっほっほ〜って笑えば良いのかな?」
 わかばは頬を赤くしながら言ってみる。それがあまりにも不似合いなので、ホルプは吹き出してしまった。
「それっいい!それ最高!」
 わかばもそれにつられて吹き出した。わかばは思わぬ所で月魔女の女王候補の一人とゆっくり話す事が出来た。しばらくして落ち着いてからわかばは尋ねた。
「ホルプさんはどうしてトワイさんを支持しているの?」
 明るいホルプの顔が一瞬曇った。
「私ね…本当に役立たずなんだ…自分より下位の候補のフリルとネオルにも、二人がコンビを組んだら勝てないし…。誰にも相手にされなかった。でもトワイ様は違ったの。トワイ様は私を…何の役にも立てない私を拾ってくれたの。私はそんなトワイ様に何かお返しをしなくちゃって、出来る事を一生懸命…でも、やっぱり出来る事少ないから…」
「トワイさんって良い人なんだね」
 わかばは優しく言う。
「トワイが良い人か…それは誤った認識だな」
 いきなりの鋭い声にわかばとホルプは振り返った。わかばはホルプの耳元で尋ねた。
「誰?」
「第5候補のマリアさん。あの人の蘇生術で、かぐらさんは一命を取り留めたんだよ。でも…誤った認識ってどう言う事ですか?」
 ホルプは心酔するトワイが悪く言われたようで聞き返した。
「トワイは冷酷で手段を選ばない…そして月の頂点に立って、月の民を完全に自分の支配下に置くつもりだ…独裁が望みさ」
「そ…それは……でも、アルテも同じでしょ!」
 事実らしく、ホルプは言葉に困る。そこでアルテの名を出すが。
「アルテがそこまで考えているかは分からないが、最高委員会と評議会の過激派は。月を支配した後に、魔法界全土と人間界を攻撃し植民地とするつもりだろう…。トワイは、今の所、他所を攻撃するつもりは無い様だからな…内を固めるらしい。だから私はトワイを選んだ。私は傭兵だが、自分が納得でいかない勢力には加担できない」
 マリアは一気にまくし立てる。
「…マリアさんは結局、トワイ様の事……」
「安心しろ、私は味方だ…今の所はな…」
 マリアはホルプにそう言い聞かせて、今度はわかばの方を見詰める。わかばは思い出したように口を開いた。
「あのっ、助けてくれてありがとう」
「本業は傭兵だが、傍ら医学も学んでいた。礼など要らん…トワイはお前を利用する気だからな」
「私を?」
 わかばは首を傾げた。自分に何の利用価値があるのか見当がつかないのだ。
「それについては、私から説明しよう」
 いつの間に部屋にいたのか、第4女王候補のトワイが話しかけてきた。

***

 月王宮の女王の間には、すでにアルテがついていた。現時点で実質的に王宮を支配しているのだから、無理は無い。そんなアルテにアルテミス5のリーダーであるミィズが残りの4人の失踪について報告していた。
「そうか、未だ行方はわからずか…」
「はっ」
「まぁ、良い。ミィズ…あなたが5人分の働きをしてくれれば済む事ですわ。最大の壁であったカグラも既に存在しないしな…あなたが消したんでしょ…老人達が焦っている」
「御意」
 アルテの言葉にミィズまったく動じないで、頭を垂れる。
「後は、トワイ派がどう動くだが」
「…依然、アルテ様が優位な事に変わりありません」
 ミィズは淡々と言う。
「そうだな。トワイ派の動きを待つ。向こうにも、もう余裕はないからな…それまで待機していなさい」
「はっ」
 ミィズは女王の間を後にした。その後ミィズは自室に戻ってきた。そこには一人の少女が待たされていた。
「待たせたな」
「カグラの死の真相を教えてくれるって…」
 少女はミィズを睨み付け言う。
「病み上がりなんだろ、あまり無理をするな」
「カグラは生きているの?…それとも」
 少女は必死だった。
「そう慌てるな…パルナ。ついて来い」
 少女はパルナ・メィリィ第7女王候補で、月に居た頃のかぐらの唯一の親友だった。そしてミィズとは幼馴染。しかし、カグラ派とアルテ派に分かれた事から、二人は敵対関係あった。パルナは無言でミィズについて行く。二人は王宮の地下へと降りていった。
「王宮にこんな地下があったなんて…」
 パルナは不思議そうに呟いた。
「アルテも知らないだろうな。知っているのは最高委員会の極一部の魔女だけだろうさ」
 ミィズはあっさりと言う。
「ミィズ、何を企んでいるの?」
 パルナはミィズに問う。
「それは、至極当然の事だと思うのだが……」
 ミィズの回答にパルナは首を傾げた。二人は地下深くにある一つの部屋に入った。そこの床には魔方陣が描かれていた。
「この魔方陣は…」
 パルナは何の魔方陣かはわからないが、ただならぬ異様さを感じていた。
「お前が知る必要は無いわ」
「ちょっと待って、ミィズ、おかしいわあなた…何をするつもりなの。昔のあなたは、もっと」
 パルナはミィズを説得しようとする。
「もう…昔には戻れない」
 と言いながらミィズは幼い頃を思い出していた。女王候補は生まれた時の魔力の大きさからランク付けされそれに応じた月魔女の元で育てられる。自分が女王候補と知らせられないで…。パルナとミィズはルナトピアの城下町の一般的な階級の魔女に育てられていた。奇しくもお互いの母親の魔女は隣同士に住んでいた。従って二人は幼い頃からずっと一緒だった。
「確かに私達は今、敵対しているけど…その前に幼馴染でしょ」
「よくそんな事が言えるな!私はお前を殺そうとしたんだぞ!!」
 パルナは以前、アルテ派の勧誘を断ってアルテミス5に暗殺されかけていた。そんな相手を信じようとするパルナがミィズには信じられなかった。
「確かにそうだけど…カグラなら、そうしようとするはず…そう思ったから」
「結局、カグラか…お前はカグラに出会って変わってしまったな」
「違うわ、カグラに出会って変わったのは、ミィズ、あなたよ!」
 二人がかぐらと出会ったのは、5歳くらいの時。月中を転々として暮らしていた旅人の様なかぐらの育ての母が二人の家の近くに越してきたのだ。パルナはすぐにかぐらと仲良くなった。しかしミィズはかぐらとは遊ぼうとしなかった。
「知らずに素直に成長できれば…あるいはと時々思うよ」
 ミィズはそれを思い出して呟いた。パルナは心配そうに尋ねる。
「どういうこと?」