おジャ魔女わかば
特別編[潔の章]
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 月の大地はウィッチーローズの栽培には向いていない。従って月では、多くの魔女が魔法科学を駆使した遺伝子操作とクローン技術により生み出されている。そして一定の期間を開けて女王の遺伝子を組み込まれた月魔女が13人生み出される。その中で最も魔力の強い魔女が女王の座に就くというのが、代々、月の王宮のしきたりだった。
 月魔女の赤ちゃんも魔女界と同じく、一定期間、育ての親に預けられ、育てられる。13人の女王候補は、生まれた時の魔力の大きさからランク付けされ、そのランクが大きい程、地位と金銭的に裕福な魔女の所に預けられていた。かぐらは、この時のランクは標準的だったので、普通の魔女の元に預けられた。生まれた時のランクが最高クラスだったアルテは月の上級階級の魔女の元に預けられ、育てられた。この様に、育った環境は、13人とも異なっており、それが性格形成に大きな影響を与えたと言える。のびのびと育ったかぐら。支配階級の親の影響で、他人を見下すふしのあるアルテなど…。

 月光界の都市ルナトピアの中心に位置する王宮の最上階の女王の間に、女王候補の魔女達が集まった。アルテ派の第2女王候補のアルテと第6女王候補ミィズ。急遽結成した感のあるかぐら派のロイヤルパトレーヌドレスに身を包んだ第1女王候補かぐらと第8女王候補サティ。トワイ派には第4女王候補トワイと第5女王候補マリア、第10候補ホルプ、そしてもう一人のかぐら−−わかばが魔法で変身した−−が加わっていた。その場に居合わせた地球から来た魔女見習いあずさは、二人のかぐらを信じて見守るしかなかった。各派閥は、お互いを牽制しつつ、出方を見ている。そして無所属の第3女王候補クリスが到着し、何かを伝えようとしたが、クリスはアルテ派の二人に集中攻撃を受けて意識を失ってしまう。

 そして突然、月は闇に包まれる。

***

「一体、どうしたネ?」
「停電かな?」
「月の魔女の世界に停電だなんて…それ以前に電気あるのかしら」
 突然、真っ暗になった事で、王宮の外の騒動の中にいた蘇雲、みると、さくらは口々に呟く。
「こんな事ははじめてかも〜」
「何も見えないよ〜……何か踏んだ、ムニュってしたやつ〜」
 フリルとネオルが不安そうに叫ぶ。
「嫌な予感がする…王宮では何が起こっているんだ…って、足をどけてくれないかな……」
 いきなりの停電に転んだハルフは、ネオルに踏まれていた。ハルフ立ち上がり、王宮があるであろう、方向を見つめ呟いた。

***

 王宮の地下の魔方陣が描かれた部屋では、さっきまで輝いていた魔方陣の光が消失していた。
「目が目がっ」
 ゆうきは目をやられ、両目を抑えて座り込んでいた。しばらくして目が慣れてきて、状況把握を始める。まず魔法陣を凝視するが…。
「魔方陣内で倒れてた魔女がいない」
 つい先程見た、魔法陣の中心に倒れていた魔女の姿が忽然と消えているのだった。

***

 真っ暗な女王の間では、アルテとトワイが、相手の居場所を特定しようと、探り合っている。しかし二人とも、何か違和感を感じていた。
「このままじゃ、何かにけ躓いて、転んじゃうよ〜。ポリーナポロン プロピルピピーレン 明るくなれ〜」
 呪文に反応してかぐらの姿のわかばが持つピコットポロンの先端がくるくる回る。その魔法で部屋がうっすらと明るくなる。
「私の魔法じゃ、これくらいかな〜」
「私も手伝うわ」
 かぐらは指を弾いて魔法を使おうとするが、魔法は発動しない。
「かぐらさん…ロイパのドレスの色が…」
 あずさはかぐらのロイパドレスを指さして言う。さっきまでは黄金だったドレスが白銀に変色していた。かぐらにとってそれは…。
『月の魔力が消えたのか?』
 かぐらの髪飾りからシロが呟く。その声は一同の耳にも入り、アルテとトワイは今も尚感じる違和感の意味を知る事になった。
「月の輝きが失われ……クッ!!」
 アルテの言葉は途中で途切れた。いつの間にか黒い見習い服に身を包んだミィズが、ジュエリーポロンの先端を魔法で光の剣状にして、アルテの右足に突き刺していた。さらに、魔法で突き刺さったポロンから電撃をアルテの体に流す。体が麻痺して動けないアルテを見下ろしてミィズは言う。
「月の内光を消した。今の月で魔女は魔法が使えない…ポロンを持つ者を除いてな…形勢逆転だな」
 ミィズは、本性を現した様に冷たく言った。
「こ…んな事……をしたら、どうなるか……わかるだろ」
 アルテはミィズに問う。
「私の様な、中途半端なクラスの者が女王になる為には…これくらいしないと…な」
「確かに魔力差を無くして、さらに相手より優位に立つ…いい作戦だが、しかし…月が滅ぶぞ」
 トワイがミィズに言う。
「あの…魔方陣は…やはりミィズ…あなたの仕業だったのね…」
 気を失っていたクリスが立ち上がり叫ぶ。地下にあった魔方陣は、月魔女を生贄にする事で月の魔力を操作する魔方陣だった。あずさとわかばが首を傾げていると、マリアが気が付いて説明する。
「部外者か…説明しよう。月は魔力を発しているのだ。それは光の形で外と内に出ている。外光は、魔女界等、月以外の世界の魔力に密接に関係している。そして内光は月内部の魔力に関係している。つまりその輝きを止める事で、魔力の流れを止める事が出来る…今、月の内光は存在しない!」
「そして、内光を止めると…月に封じられている魔物を開放する事になる…早く、何とかしないと、争っている場合ではない!」
 マリアの言葉にクリスが付け加える。しかしミィズは…。
「魔物なんて、伝説だ。存在するものか!それに女王候補が、女王を目指して何が悪い!」
 ミィズはポロンを一閃して、衝撃波を起こした。ミィズを中心に波状に発生した衝撃波は、その部屋に居た魔女達、魔法が使えなくなった者達をなす術も無く吹き飛ばし、壁に激突させる。アルテの動きは止め。トワイ、マリア、ホルプ、クリスは魔力を封じた。見習いタップを持つ、サティは着替える前にミィズにダメージを喰らい、動けない。あずさとわかばは人間なので問題外。かぐらは、非情にはなれないので、どうとでもなる。完全にミィズの計算どおりに事が進んでいた。そして、動かない足が痛々しいアルテにポロンを構えて向かっていく。
「まずは、アルテ…あんたを、デリートする」