おジャ魔女わかば
特別編[潔の章]
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「ううん。もう良いよ…かぐらちゃんも困ってたんでしょ…だったら…」
「でも、関係無いあなたを巻き込んでしまって…」
 わかばは、かぐらの肩に手を当てて言う。
「今は、あの黒い翼の人を何とかしないと…月が滅んじゃうよ…私達、こんな所にいる場合じゃない」
「私…話し合えば、12人全員で、何か良い方法が見つかると思ってた…でも、そんな事、夢にすぎないのかな」
 不意にかぐらが弱気を口にする。
「弱気だな…まだ、無責任な事を言っていたその偽者の方が強いな」
 声は身動きが出来ず漂っていたアルテだった。
「アルテ、無事だったの」
 かぐらはアルテに話しかける。
「貸しができたな…でも、あれしきの事で、私がお前に賛同するとでも思ったのか?」
「違う、そんなつもりじゃないよ…私は…」
 かぐらはアルテの言葉を否定する。
「何が違う!自分の言いなりにする為に、自己犠牲を示して、相手の心を掴もうとしたんだろうが!」
「ちが……うよ…」
 かぐらはだんだん自分の気持ちがわからなくってくる。言われるとそうかもしれないという疑念が湧いていたのだ。
「どうして…どうして優しさを否定するの…そんなんじゃ、誰にも愛してもらえないよ」
 わかばは切なそうに叫ぶ。
「人の心が見える私を…誰が愛してくれるか…そんな事は、最初からわかっている事だ!」
 アルテは打ち消すように叫ぶ。
「違うっ!そんな事関係無いよ!…人に愛されるには、まず自分が人を愛さないとダメなんだよ」
 わかばは尚もアルテに訴えかける。
「…わかばちゃん」
 かぐらは呟いた。そして力強くアルテに告げた。
「今まで、アルテには…ライバル視され、苛められてきた…けど、月の女王候補の性質上、仕方ない事だと思ってきた。でも違うんだよ…相手を蹴落として手に入れた力より、絆の力の方がたとえ小さくてもずっと大事なんだよ…頑なに心を閉ざしていたのは私の方だったのかも」
 かぐらはアルテに微笑みかけた。その時、アルテは初めてかぐらの心を見ることが出来た。それは一遍の曇りの無い澄み切った心。アルテはそれに安心感を感じていた。
『賑やかな人達ねぇ〜。外の状況がわかってるのかなぁ〜』
 いきなり場違いな声が響いた。
「誰ですの!」
 アルテが叫ぶ。
『誰と聞かれると…困るな…感じてもらえないかな…私が誰かって事を…』
「えっ」
 かぐらは聞き返した。わかばも首を傾げている。
『最近の女王候補は…鈍くなったものね…私はアルテミス。月を守護する女神よ』
 声は女神アルテミス。かぐらが感じた懐かしさは、自分の魔力の源流に対する物だったのだ。
『外の世界では、月の闇を背負った魔物…ディカグヤが、月世界を崩壊に導いている。それを食い止めるのが、お前達の使命…その力を貸してやるから、早く行きなさいよ』
「行きなさいって…」
 わかばは苦笑いする。そして3人は光に包まれた。光が収まったときには光を放つ魔女服に身を包んでいた。わかばは元の姿に戻った状態で、その魔女服をまとっていた。
「…この魔女服は」
『月に伝わる、伝説最強の魔女服…ミスティパトレーヌのドレスよ。伝説では月の女神に愛された者にしか着る事を許されないって事になってない?。つまり私に愛される事が条件。それでマジカルステージを行えば、ディカグヤを封じる事が出来る』
 アルテミスを名乗る声はさらっと説明した。
「つまり…私達は愛されていたと」
 アルテが尋ねる。
『何にでもひた向きなかぐらの事…好きだよ。そして私の名の一部を持つアルテ…あなたの悪女っぷり、なりきれない所も含めて、好きよ』
 アルテミスのいい加減そうな言葉にアルテは複雑そうに首を傾げる。
『そして、もう一人のかぐら…月に微かに風を吹かした、あなたの活躍。素敵よ…所で、あなたが13人目かな?』
「わかばは…違います。普通の人間ですけど」
 かぐらが即答する。
『えっ!…うっわ、まっずぅ〜月魔女の女王候補じゃないのに、ミスパのドレスを着せてしまった。まずい、こんな事が、女神界に知れたら…減給かも』
 アルテミスはいきなり取り乱した。アルテは呆れて言う。
「…本当にアルテミスなのか?」
『お黙り!マジカルステージには3人必要だし…しかたない。この事は、誰にも内緒よ。さっさと行って、さっさと片付けて来てちょーだい!ほらっ』
 次の瞬間、この空間が消滅した。

***

 ディカグヤの攻撃により、フリルとネオルの箒が墜落していくのを蘇雲は見ているしかなかった。
「なす術がないネ」
「私を捨てていけ!」
 トワイが言う。敵の狙いは女王候補の魔女だけなのだ。
「そんな事は出来ないと言っタァ」
「何か、方法は無いんですか?」
 みるとは一緒に箒に乗っているクリスに問う。
「今の月魔女にその力は無い」
 そうしているうちに、ハルフとサティの箒が撃墜されていた。そして、蘇雲、みると、さくらの箒を目がけて、3方向に黒い気を発してくる。そのスピードに、蘇雲達は回避する暇も無く、その黒い気に身を晒そうとしていた。しかし、その3方にそれぞれに光り輝く魔女服を着た魔女が出現し、黒い気をその輝きで掻き消した。
「ずいぶんと、強引な事をする女神ですわね!」
 蘇雲の目の前に出現したミスパのアルテは呟いた。かぐらはみるととクリスの前に出現していた。
「かぐらなのか?」
 クリスの問いに頷いて答える。
「さくらちゃん、あの黒い人は任せて、ミィズさんに手当てを…」
 さくらの前に出現した緑のツーテールのわかばは、そう言うと、胸の三日月のペンダントからポロンを取り出した。それは三日月の形のクレッセントポロンといい水晶玉が埋め込まれていた。それを振りながらわかばは叫んだ。
「ポリーナパトレーヌ!!」
 ポロンに連動して、ミスパのドレスに各場所に埋め込まれている青い水晶玉が反応し輝きだした。その光をポロンに束ねて、発散させると強大な魔法が発動する。
「ピークパトレーヌ!」
 かぐらも同様にクレッセントポロンから光を放った。二人の魔法は、ディカグヤの動きを封じた。しかしそれも数秒だけ。すぐに動き出して、黒い気をわかば達に放ってくる。
「この光のドレスに、闇の魔力は一切通じない。何度でも光で掻き消してくれる!」
 アルテの言葉どおり、黒い気は全て光で相殺できた。しかし、ディカグヤを封じる事は出来ない。