おジャ魔女りんく〜8番目の魔法!〜
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「あの、どうしたんですかっ」
 りんくは焦りながらも、目いっぱい冷静を装って尋ねる。それがりんくの外面だから…。
「ごめんね。私達、自己紹介まだだったよね。あなたとは初めて会った気がしなくて、つい〜」
 りんくはハッとする。言われてその事に気がついたからだ。自己紹介もしていない相手とあんなに和やかに…。
「私、月宮りんくって言います。虹宮小の6年生」
「私はワカバ…小金井ワカバ。ここで占いをして生計を立てているって事になっている。本当はマジョワカバって言う名の魔女なの。こっちは相棒の妖精シシよ」
 ワカバは自分が魔女だと自己紹介する。りんくは混乱している。自分を魔女だと言う女性、そして小人の様な妖精。
「なに驚いているかなぁ〜、あなた魔女見習いで、何処かの魔女さんの弟子なんでしょ」
 お茶をすすりながら、ワカバはマイペースに告げる。
「あの…私、魔女とかそー言うのじゃ……」
 りんくが今の格好について説明しようとした時、ワカバは困ったように叫ぶ。
「嘘っ、いかにもって格好をしていて、フェイクなのぉ〜。それじゃ〜私は魔女ガエルになっちゃうのぁ〜」
“ドガッ”
 一人騒いでいるワカバにシシが飛び蹴りを喰らわせて、鋭く突っ込む。
「何、大昔のリアクションしてるかなぁ〜。そんなんじゃ、今は誰も笑わないわよ」
 りんくは一人、ついていけず目を丸くしていた。かなり昔に、魔女は人間に正体を見破られると魔女ガエルと言う醜い蛙の姿になってしまうという呪いがあったのだ。もちろん今は呪いは解かれ、魔女ガエルとなってしまう魔女はいない。しばらくして突然、背後の商店街の人達から貰った贈り物の山が崩れた。ワカバとシシはビックリして振り返る。
「うっわ〜最悪っ」
 ワカバは後片付けの事を思って苦笑いする。すると崩れた贈り物の山が“ゴソゴソ”と動いて、中から誰か出てくる。
「いたたた……もう、何よこれっ」
 それは黒い服と肩掛けカバンという格好の青い髪の女性だった。
「あっ、ナナミさん、いらっしゃい」
 ワカバは崩れた贈り物の山を掻き分けて出てきた問屋魔女のマジョナナミに何事も無かったように挨拶する。りんくはさっき以上に混乱して、隣に座っているシシに尋ねる。
「えっ、何、どーなってるの?」
「問屋魔女のマジョナナミよ。御用聞に来たのね」
 シシは呟く。りんくは聞きなれない単語“問屋魔女”に首を傾げた。ナナミは店内を見渡して言う。
「何よ、この荷物の山は〜」
「ナナミさん、ちょーど良かったわ。ちょっと引き取ってくれませんか?」
 ワカバに言われて、ナナミは天秤を取り出して、片方にその辺の品、もう片方に魔法玉と呼ばれる、いろんな色のあるビー玉くらいの玉を置いていく。
「ねぇ、シシさん、あれは何をしているんですか?」
 ナナミの天秤を興味深そうに見つめながらりんくはシシに尋ねる。
「あなた、本当に何も知らないのね。師匠の指導怠慢ね。あれは物に込められた想いを量る天秤なのよ。魔女界では込められた想いが強い物ほどレアアイテムとして価値があるのよ。それを魔女界の通貨、そして魔女見習いの魔法の源である魔法玉に換算してもらっているのよ」
 シシは自分達がやってきた魔女の世界、魔女界の決まりを丁寧に説明して聞かせた。
「それじゃ…あなた達は本当に魔女なんですね」
 りんくは信じられない様に小さく呟いた。

 品物を魔法玉に換算していた問屋魔女のナナミは驚きの声を漏らす。
「ちょっと、何よ、これ、ほとんどレアアイテムじゃ無いのよ、こんなに想いの詰まった品も珍しいわ」
 驚くナナミの作業で、次々と山積みの品がさらに山積みの魔法玉に変わっていく。魔法玉は魔女界の硬貨として仕えるので、そちらの方がワカバにとっては都合が良かった。
「それだけ、商店街の人がワカバに感謝しているって事ね」
 シシが呟く。
「さすがノーブルまで昇り詰めたピュアレーヌね。これだけの感謝の想いを集めちゃうなんてね。何で人間界に来ちゃったの?ノーブルなら魔女界でもかなりの待遇を受けられるのに…」
 ナナミはワカバの貰った品を魔法玉に換算しながら尋ねる。ピュアレーヌは不幸を取り除く事を使命としている魔女の称号だった。そしてノーブルはそのピュアレーヌで最高の位を意味する。魔女界でも限られた魔女しかなる事ができず、かなりの優遇が受けられる。
「別に優遇が欲しくてなった訳じゃないからなぁ〜。世界の不幸を無くしたいって頑張っているうちにいつの間にかねぇ…なっちゃったって感じで。それにいつかは人間界に戻ってみたいっていうのもあったし」
「それって、かつて人間だったから?」
 ナナミは手を止めて尋ねる。
「う〜ん、それもあるけど、私の師匠、マジョミカがしてきた事を私もやっていけたらなぁって思うんだ。ナナミさんも人間だったんでしょ。今じゃ、魔女問屋のトップ…マジョドンさんの後継者をデラさんと競っているんでしょ。凄いですよ」
「私も、これ一筋だったからね。まっ、そう言う事ならお互い頑張らないとね」
 ナナミはそう言って、水晶玉の付いたステッキを振る。すると山積みの荷物のほとんどが消える。代わりに大量の魔法玉がワカバの手に…。
「それじゃねぇ〜」
 ナナミはそう言って、テレビのモニターに頭を突っ込もうとする。そこで思い出したように叫んだ。
「ああっ!忘れてた、こんな事しに来たんじゃ無いのに〜」
 半分突っ込んだ体を引っ張り出して、ナナミはワカバの所へ戻ってくる。
「何、どーしたの?ナナミさん」
 ワカバはナナミの形相に驚いて尋ねる。
「魔女界で大変な事が起こったのよっ」
「大変な事っ」
 ナナミの緊迫した顔にワカバも緊張する。
「そう、魔女問屋の地下倉庫、知っているよね」
「あ、不良在庫の墓場ね」
 ワカバはサラッと付け加えるが、それにナナミは辛そうな顔をしている。
「そ、それを言わないで…あの倉庫にかかわると、ろくな事無いんだから〜」
 地下倉庫、それは不良在庫をしまって置く所。そこに入れなくてはならない商品にかかわってしまった問屋魔女は、利益主義の元締めマジョドンからものすごいお仕置きをされるという噂だった。