おジャ魔女りんく〜8番目の魔法!〜
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 時間を止めた魔女見習い達はコンビニから大量の商品を抱えて出て来た。
「いっぺん、こういうのやって見たかったんだよね〜」
「うんうん」
 少女達は口々に嬉々として話す。そこにりんくがやって来た。
「あなた達っ、魔法はそんな事に使っちゃダメなのよ」
 りんくは厳しく注意するように言う。すると少女達は…。
「出来る力があるのに、何でやっちゃいけないのよ」
 その反論にりんくは信じられないように言う。
「そんな事したら、世界は無茶苦茶になるってわからないの?」
「でも、無茶苦茶、結構、面白いかもよ」
 少女達は笑いながら、帰って行った。次に魔法で何をしようかという事を大声で話しながら。りんくは怒りを通り越して悲しい気持ちを抱えながら魔法を奏でた。
「ピースクゥエル プリファティータント あの子達が持ち出したお店の商品よ、元に戻れっ」
 りんくの魔法で少女達が抱えていた商品が少女達の手を離れ飛んでいき元通り店の陳列棚に収まる。そして同時に鈍く映っていた世界が元に戻り、時間が動き出す。りんくは悲しそうに呟く。
「魔法って素敵な力の筈なのに……どうして…こんな事に」

***

 虹宮の街は夕日の赤の時間が終わり、深い蒼の夜が始まろうとしていた。そんな空を飛び回っている黒マント姿の男が居た。男の通った後には光のラインが描かれていく。それが夜になり、暗くなってきた事により、よりいっそう目立つ存在として空に浮かび上がる。
「日が暮れてしまいましたっ。あと少しだと言うのにっ。誰にも見つからない事を祈るしかありませんね」
 男は焦りながら、ラインを描き続けた。

***

 オーロラの様な七色の宇宙という表現が当てはまりそうな不思議な世界、そこは“星の世界”と呼ばれる場所。魔女や魔法使いの住む魔法界と並ぶ、未だ人間が知らない不思議な世界の一つだった。
 レインボータップの欠陥を開発者のマジョツクシから聞き出す為、魔女界の魔法研究所を訪れた問屋魔女ナナミだったが、マジョツクシは居らず、研究所所長のマジョトロンからに教えてもらい、マジョツクシが来ているという星の世界にやって来たのだった。
「えっと、メテオステーションってこの辺だと聞いているんだけど…」
 ナナミが探しているマジョツクシが居るメテオステーションは流星が停まる駅の様な物だった。
「流星を見つける方が早いかなぁ…」
 焦りながらナナミは満天の七色の星空を見渡す。その視界の隅っこを星が流れる。
「居たっ!…こっち来いっこっち来いっこっち来いっ」
 ナナミが早口で3回言うと、流れ星は突然軌道を変えてナナミに向かって飛んで来た。
「良しっ、かかった」
“ヒューーーン………ズゴンッ”
 流星はナナミの居る少し先の丘に墜落した。
「大丈夫なの?…あれ」
 ナナミは呆れて呟いた。爆煙を上げる落下地点から巨大な人影が立ち上がった。それはゴツゴツとしていて、とても人とは思えない。
「巨大ロボ?…それとも」
 思わぬ物が出てきてナナミは驚きを隠せない。
「もぅ〜変な願い事を言うから、落っこちて頭ぶつけたじゃ無いのよ〜」
 巨大な人影の声とは思えない甲高い少女の声が爆煙の中から聞こえてくる。やがて爆煙が晴れると、そこには2メートルぐらいの一つ目の甲冑の様な魔法機械人形と赤い服にトゲトゲ銀髪の背の低い小さな少女が頭を摩りながら出てきた。
「彗星ロボと彗星マスター……これが噂に聞くメテオチェイサーなの?…マジョツクシが今、星の世界で開発しているっていう彗星使いの新しい形なの?」
「お姉ちゃん詳しいね。マジョツクシがこの彗星ロボ“リューセィ”を作ってくれたから、私も彗星使いになれたんだよ…って、まだ見習いだけどね」
 少女は嬉しそうに言う。彗星使いとは、星の世界に住んでいる特殊な魔女や魔法使いの一族で、彗晶玉と呼ばれる、箒星として自由に飛ぶ事の出来る水晶玉を持っていて、星に願いをかけた者の願いを叶えてあげる事を目的に星の世界を飛び回っている。そんな彗星使いに憧れる魔女や魔法使い、また事故等で、彗晶玉を失った者の為に、それに代わるアイテムの開発を新鋭の発明家魔女マジョツクシが行っているのだった。
「私は問屋魔女のナナミ。マジョツクシを探しているの」
「アタシはキラリ。マジョツクシならメテオステーションにいるよ。案内するよ、ついてきて」
 キラリと名乗った少女はフワリと浮き上がった彗星ロボ“リューセィ”の背中に飛び乗った。ナナミも自分の箒で飛び立つ。
「行くよ、ついて来れるかな〜」
 キラリはそう言うと、高速で空高く飛び上がった。ナナミはそれを見失わないように追いかける。

***

 虹宮市内を箒で飛びながら、りんくは山手の方に変な光の線が縺れた様なゴチャゴチャした物を見つけて唖然としていた。
「何…あれ…とにかくワカバさんに連絡しないと」
 りんくは魔法携帯電話を取り出して教えて貰ったワカバの端末の番号をダイヤルする。間も無くして電話が繋がる。出たのはめいるだった。その声を聞いた時、りんくは気まずさを感じた。しかしすぐにいつもの様に完璧な自分を作って話し始める。
「兜山(かぶとやま)の上空に謎の光の塊があるの。どうしたら良いか、ワカバさんに聞いて欲しいの」
 今更、意味の無い自分を作って、めいるに呆れられているなと思いながら、こうしかできない自分にりんくは諦めに似た感情を抱いていた。電話の向こうではめいるがワカバに確認しているのが聞こえる。めいるは、『すぐにそっちに向かうから、それまでその光を観察しておいて』というワカバのメッセージを伝えて電話を切った。りんくはそのまま、複雑な心を抱えながら、兜山という山の上空に広がる変な光のゴチャゴチャを見つめていた。そこにユッサユッサと胸を邪魔そうに揺らしながら、さいとが飛んで来た。
「りんく〜〜、何だよ、あれっ。誰かが魔法で描いたのか?」
「わからない。でも何か複雑な模様に見えるんだけど」
 りんくは謎の光から目を離さずに答える。変な格好をしているさいとは見たくないらしい。