おジャ魔女りんく〜8番目の魔法!〜
2/5
 りんく達、3人の魔女見習いは円陣を描いてそれぞれの立ち位置でポロンを構える。
「それじゃ、教えたとおりに呪文を唱えて」
 魔女ガエルの姿のワカバがりんく達の足元から言う。
「ピースクゥエルかぐらかに〜」
「パールメルポあきらかに〜」
「プレーパステルひめやかに〜」
 マジカルステージ用の呪文を唱えた3人、りんくとめいるは両手を天に翳し、さいとはジュエリーポロンを伸ばして中央の宝石を出現させ、その状態で天に掲げる。そして声を揃える。
「マジカルステージ!虹宮の街に光をっ!」
 3人のポロンから飛び出した光は上空で絡み合おうとするが、上手くシンクロする事ができず、バラバラになって弾けてしまう。
「失敗か」
 シシが乱れて弾けた光を眩しそうに眺めながら呟く。そして隣のワカバを見つめるが、ワカバは何も言わずりんくを見つめていた。その後、何度かマジカルステージを繰り返すが、全て失敗してしまう。

“作った自分での付き合いでは、本当の友達にはなれないのよ”
 りんくは魔法堂でワカバに言われた言葉を思い出していた。
「めいる……ごめんなさい。私、ずっと、みんなを騙していたの。本当の私は……。こんな情けない私…見損なったよね、嫌いになったよね」
「見損なったわ。嫌いにもなるわね」
 めいるは即答する。その言葉はりんくの心に突き刺さる。りんくは内心仕方ないと思いながら俯く。めいるはそんなりんくに続ける。
「嫌いにもなるわ…親友と言いながら私に何も相談してくれなかったりんくさんが…そしてその事に気付いてあげられなかった私自身が…。薄々そーなんじゃ無いかなって思っていたのに、本当の意味でりんくさんに何もしてあげられなかった。本当に辛いのはりんくさんの方なのに…。謝るのは私の方だわ」
 めいるの言葉にりんくは顔を上げる。
「ううん、違う。全部、私が勝手に…。そしてめいるのお陰で私、本当に助かったんだよ」
「まぁ、あれだけジャーマネにキャーキャー言われて、アイドルみたいな扱いうけていたら、言い出せない無いよな、本当の事」
 さいとが呆れながら言う。いつもなら反論するめいるだが、この時ばかりは素直だった。
「そうだね。私は自分の為にりんくさんに無理を強いていたんだから…。でも嬉しいんだ。本当のりんくさんとやっと出会えて…」
「ばーか、本当のりんくはこんなもんじゃ無いぜ」
 さいとはめいるにふざけて言う。それにりんくが怒り出す。
「ちょっと、変な事言わないでよっ」
 言い合いをするりんく達を見つめながらシシは呟く。
「これで、なんとか上手く行きそうね」
 シシの隣でワカバは嬉しそうに微笑む。

「ピースクゥエルかぐらかに〜」
「パールメルポあきらかに〜」
「プレーパステルひめやかに〜」
 さっきまでとは何かが違う3人のマジカルステージが再び始まる。
「マジカルステージ!虹宮の街に光をっ!」
 しかし、今回も3つの光はなかなか交わらない。それでもさっきまでよりは柔らかい光を発していた。
「やっぱり、無級じゃ無理なのよ」
 シシが悔しそうに言う。しかし隣でワカバは諦めてはいなかった。
「大丈夫。形にはなっている。後は…さいと君っ、めいるちゃんの足りない分の魔力を補ってっ。りんくちゃんは難しいと思うけど、あなたの魔力でさいと君とめいるちゃんの魔力を包み込んで一つにしてっ!」
 ワカバは三人に呼びかける。
「補うって…簡単に言うけどっ」
「お荷物でゴメンね〜」
 さいととめいるが困ったように言う。
「包み込むって…どうしたらっ」
 りんくも何をして良いのか分からなくなる。マジカルステージがしぼみ始める。
「ちょっと、パワーダウンしてるって〜。龍見っ、さっさと魔力ちょーだいよっ!」
 めいるがさいとに向かって叫ぶ。
「それが人に物を頼む態度かよっ」
 さいとが言い返す。心が離れ、マジカルステージは消滅しかける。りんくはそれを見て、二人に叫ぶ。
「二人とも止めてっ、こんなんじゃ、桂木先生も、街も、何も助ける事が出来ないわっ」
 りんくのありのままの感情が広がって、さいととめいるを包み込んだ。
“これが…りんくの魔法…心”
 さいととめいるは感じていた。
「魔力がまとまっていく」
 シシは膨らみ輝きを増すマジカルステージを見上げて言う。三人はもう一度叫んだ。
「マジカルステージっ」
 マジカルステージは光の柱となって天に昇って光の粒子を街に降り注がせる。
「やったぁ!」
 ジュエリーポロンを掲げて魔力を込めたままさいとが歓声をあげる。
「でも、まだ全然足りないみたいよっ」
 街の灯りがほんの少ししか回復しないのを見つめながらめいるがりんくに言う。バラバラの魔力をまとめ上げていたりんくは完全にオーバーワーク気味に苦しそうな表情を浮かべていた。それに気がついためいるが言う。
「いったん、中止しよっ、このままじゃりんくさんがっ」
「ダメっ、まだ…まだまだ足りないのよっ」
 りんくは力を振り絞って言う。

“お願いっ、誰も悲しませない為の力を…”
 りんくは心の中で祈った。しかし今のりんくはめいるとさいとの魔力をまとめるだけで精一杯だった。次第に自分の限界を超えたように意識が薄れていく。
“ダメだ…耐えないと…街に光を…”
 めいるとさいとがりんくの名を必死に呼んでいる。それが意識の遠くに聞こえてくる。りんくの意識は重く沈み潰されそうな重圧に晒されていた。りんくはついにそれに耐え切れず、諦めの気持ちが心に湧き出すのを感じた。一緒に涙が出た。その瞬間、りんくの意識が白い世界に覆われ、重圧は消え、フワリとした浮遊感を感じた。
“暖かい…それでいて優しく…包まれる…何故か懐かしい”
 りんくは呆然と心で呟く。

 それは笑う月から延びる一筋の光だった。その光がりんくに降り注いでいた。
「ワカバ…これって…奇跡?」
 シシは信じられないように言う。
「うん。母親の愛情ってやつかな」
 ワカバは夜空に淡く輝く笑う月を見上げて呟いた。