おジャ魔女りんく〜あれが噂のT様〜
chapter2 星に願いを
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「彗星魔女の使う箒星とは彗晶玉と呼ばれる水晶玉を中枢とした超高速飛行可能な魔法の箒なのよ。若い未熟な彗星魔女の中には稀に事故を起して彗晶玉を破損しちゃう者もいるの。彗晶玉を破損しちゃうと彗星魔女どころか魔女としての資格を失う。その救済作として彗星魔女見習いという制度を作り、もう一度彗晶玉を入手出来るようにしたの。そして彗星魔女見習い用のタップとポロンを作ったのがマジョツクシなのよ」
 シシの話にフタバは想像を働かせるが…。
「タップは良いとして、ポロンって…箒星の代わりなの」
「うん、こないだ見してもらったけろ……あれは趣味に走りしゅぎだよね」
 ワカバの言葉にフタバはますます不可解そうに首を傾げてしまう。

***

「何、これ」
 カブト山の頂上の広場に降り立っためいるは、広場の中央に仁王立ちしているズングリムックリした体型の身長2メートルくらいの巨人に驚きの声をもらした。すると巨人の影の方から声がする。
「アタシの相棒のリューセィだよ」
 それは星模様をモチーフとした赤い彗星魔女見習い服を着込んだキラリだった。何故か青かった髪は輝く銀髪に変わっていた。
「まぁ、これがキラリちゃんの魔女見習いポロンにあたるものなのよ」
 めいるの隣に箒で降り立ったりんくが説明する。
「ぶーっ、きらりんって呼んでくれなきゃ…罰金だよっ。それじゃ、これから、これからマジで働くキラリを見せちゃうよ!」
 と、拗ねたり、怒ったり、やる気になったり、目まぐるしく感情を変化させるキラリにめいるは既に置いてけぼり状態。キラリはそんな事お構いなしに声を張り上げる。
「チェィンジッ!リューセィ、メテオチェイサーモードっ!!」
 キラリの声に反応するようにリューセィの小さな頭部の目が輝く。そして動き出す。
“ギギゴゴカカカ”
 変な効果音を出してリューセイが変形を始める。アーマーが展開してその内部に機構を収納する様に、次第にリューセイの姿が五芒星を模したような星型に変わる。それに飛び乗ったキラリはりんくとめいるに告げる。
「さぁ、行くよ、頑張ってついて来てよ」
 と言っている声は既に空の彼方へ飛んで行く。初速から物凄いスピードで飛び出していったのだ。りんくは苦笑いしながら箒に乗る。
「追いつくの無理だけど、とりあえず行こ」
 めいるはもう何が何だかという感じに言われるままに箒に乗って飛び上がる。

***

 寝苦しい夜だった。さいとはランニングシャツに短パンという姿でベランダに立ち、マンションの3階から見える地上の景色と星空の境目をぼんやり眺めていた。
「……ばっちゃ」
 さいとはふと呟く。昼間、おばあちゃんの若い頃の写真を見た事で、おばあちゃんとの楽しかった思い出が溢れ出して来たのだ。それはりんく達と別れてからよりいっそうに。そんなさいとの頭上を流れ星が走る。それに気が付いたさいとは……。

***

 りんくとめいるが流れ星を追いかけて右往左往している内に、リューセィを駆るキラリが戻ってきた。
「二人とも、全然、ダメだね」
「星に箒で追いつける訳無いでしょ!」
 呆れているキラリにめいるはマジギレする。キラリはそんな事に構わず元のカブト山頂上に降り立つ。着地と同時にリューセィは変形し人型に戻る。そしてリューセィの胸の水晶玉から無数の光の玉が飛び出す。それは大きさも色も様々でりんく達は美しいイリュージョンに包まれた気分だった。キラリを追いかけて箒から降りためいるは尋ねる。
「これは?」
「キラリちゃんが集めてきた“人々の願い”なんだよ」
 りんくはそう答えて、りんくの周りを漂っていた一際大きな光に注意深く触れようとしている。
「私ね、サッカーの大会でトーキョーへ行ったその日の晩、旅館の窓から流星を見つけたの」
 りんくはそうめいるに語りだした。キラリも嬉しそうに口を挟む。
「そう、私をりんく様は見つけてくれた」

***

 小学生女子サッカー全国大会が開催される関東の美空市。初戦を前日に控えた旅館で、りんくは一人、廊下の窓から星空を眺めていた。空には大きな笑う月が浮かんでいてりんくに微笑みかけてくれているみたいだった。
「ここまで来たよ。ホントは私、すっごく緊張しているんだよ」
 りんくはまるで本音を語るように月に向って呟く。そうする事で想いが届く気がした。今、一番、自分を見て欲しい人に。そんな事を考えていると月の下を流れ星が走った。
「あっ」
 思わず、りんくは手を合わせて願い事を唱えようとするが、流星はすぐに消えてしまう。
「無理だよね。3回言うなんて……」
 照れを隠すようにそう言って、自分達の部屋へと戻ろうと歩き出すが、すぐに眩い光を感じて立ち止まり、窓の外を見る。
「何、これっ」
 思わずりんくは声を出してしまう。窓の外に光の玉が見え、さらにそれがどんどん大きく、即ち近づいて来ているのだ。それは窓のすぐ外で急停止し、輝きを消して闇に紛れてしまう。それと同時に何かが飛び出してきて、りんくにぶつかり押し倒してくる。
「いたたた…」
 何かに圧し掛かられてしりもちをついたりんくは状況を確認しようとするが…。
「もう放さないっ」
 りんくの首にしがみ付き銀髪の少女が嬉しそうに言う。首を絞められる形のりんくは苦しそうに声をもらした。
「くっ…苦しい」

***

「それがこの子だったという訳」
 りんくの話を聞いていためいるが確認する。りんくは頷いて説明する。
「キラリちゃんは幼い時に不慮の事故で自分の彗晶玉を失っていて、最近、出来た彗星魔女見習い制度で再び彗星魔女の彗晶玉を手に入れようと修行中なの」
「彗星魔女は箒星に乗って流星となるんだけど、私達彗星魔女見習いはメテオチェイサーで流星になるの。そして人々の願いを集めて叶えてあげる事で生まれる“喜びの感情”をたくさん手にいれる事で、いつか私だけの彗晶玉を…を…をぉ〜」
 キラリは興奮して話す。喜びの感情は叶えた願い、その人の想い等により変化する。それは集めてきた願いの光の大きさや色である程度わかるみたいで、キラリは一生懸命、今日、叶える願いを選んでいた。