おジャ魔女りんく〜あれが噂のT様〜
chapter3 広がる波紋
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「龍見、あんた、またサボってるでしょ、何してんの」
 めいるが不機嫌そうにさいとの方へやってくる。さいとはブログ記事を読むのに夢中で適当な返事。
「ああっ」
 めいるはさいとの側に行き、さいとが見ている物を覗き込んで言う。
「それって、昨日のタップね。そっか、お婆ちゃんに言われてたね。使い方憶えろって。やるんだ魔女修行」
「いいっ、やらねーよっ。俺は男だぞ」
 思わず、さいとは必死に否定する。りんくもさいとの方へ来て言う。
「魔法使いっていう選択肢もあるでしょ」
「ダメよ、龍見は魔女になるべきなのよ」
 めいるは何故かこう強く推して譲らない。
「俺は男だぞ」
「昨日だって、スカートはいて抵抗なさそうだったじゃないの」
 さいととめいるは口論を始めてしまう。
「昨日はばっちゃに会う為に…。それより、これ、ばっちゃが残してくれたもんだ」
 さいとはそう言ってデルタタップをりんく達に差し出した。その画面に映る物を覗き込んだりんくが呟く。
「…わかばのナ・イ・ショって?」
「桂木わかばという子が中学一年の秋から三年の冬までつけていたブログだよ。ここに何かヒントがあるんじゃないかと…」
「でもブログってネットで不特定多数に公開するのを前提に書いているんでしょ」
 めいるはヒントなんて無いだろうと言いたげだった。
「でも、桂木わかばさんの事、知る事ができると思うわ。私にも読ませて」
 りんくはそう言ってさいとにお願いする。さいとは即答する。
「ああっ、もちろんさ。プルルンコール持って来てるか?」
 プルルンコールとはりんく達が魔女見習いになった時にマジョワカバから渡された魔女界の魔法で動く携帯電話だった。何故ここでプルルンコールかとりんくは不思議に思いながら鞄から紫色の音符マークの装飾が施された携帯電話を取り出した。
「魔法通信モードを起動して」
 りんくはさいとに言われるままに操作する。さいとはデルタタップを魔法通信モードにして呪文を唱える。
「飛んでけピュー」
 淡く輝いたデルタタップの画面から勢い良く光が飛び出してりんくのプルルンコールの画面に飛び込んで行く。
“受信終了”
 りんくのプルルンコールの画面に表示される。これでブログのデータがりんくのプルルンコールにコピーされた事になる。それを見ていためいるは小声で言う。
「私にもちょうだい」
「お前は要らないんだろ」
 ここまでのやり取りからか、さいとは思わず突っぱねてしまう。
「なっ、ムカツクっ」
「ふんっ」
 二人はお互いにそっぽを向いてしまう。それをりんくは苦笑いで見つめる。めいるはそんなりんくに向って言う。
「そうだ、りんくのコピーさせてもらえば良いのよ」
「あっ、卑怯者っ」
「うるさいわねっ」
 と、激しくいがみ合う二人にりんくは終ぞキレてしまう。
「二人ともいい加減にしてっ!」
 4人しか居ない図書室にりんくの怒鳴り声が響き、さいととめいるはすっかり大人しくなってしまう。

***

 一週間後。
 虹宮から電車で30分程度の距離にある都市部。高層ビルが立ち並ぶその街の一角に巨大なパネルタイプのアンテナを屋上に備えた風変わりな建物があった。そこはABDテレビという放送局の本社だった。その中の撮影スタジオの一つにりんく達は案内された。
「こちらです。この辺で見学していてくださいね」
 AD(アシスタントディレクター)はりんく達に言う。そこはスタジオの後ろの方、いろんな機材の置かれた隙間のスペースという感じだった。そこにりんく、めいる、キラリ、さいと、そして魔法堂のオーナーの小金井ワカバの姿に変身しているシシが並んで立つ。マジョワカバはシシの持っているショルダーバックの中に納まっていて、少しだけ開けた隙間から外の様子を見ていた。
 今日はここでメガミシステムの10周年を記念した特別生放送番組の撮影が行われるのだ。りんく達はその見学に来ていた。しばらくするとさいとの父ゆうやと先に来ていたさいとの母の彩乃がやってきた。彩乃は初対面のワカバに挨拶する。
「いつも、うちのさいとがお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ」
 魔女ガエル姿の代わりにワカバを演じているシシは、返す様に頭を下げる。こうして二人してペコペコとしばらく頭の下げ合いが続いた。りんくは慌しく動いているテレビ局スタッフを興味深そうに見ていた。
「俺達、ちょっと飲み物買ってくるよ」
 さいとは彩乃にそう言って、りんくを連れてスタジオを出ようとする。キラリとめいるもそれを追う様に出て行く。

 通路の奥にあった自販機とソファの並んだ待合所の様なスペースにりんく達はやってきた。さいとは腕のSPTを自販機の受信部にかざしてジュースを一本買う。りんく達も同じ様にジュースを買い、ソファに座る。そしてりんくが尋ねる。
「さいと、どうしたの」
「ワカバさんが側に居たんで言えなかったけど…あれ、何処まで読んだ?」
 さいとが聞いているのは桂木わかばのブログの事だった。
「半分くらいかな」
 答えるりんくの隣でめいるも自分も同じくらいと頷いて呟く。
「アニメとマンガと玩具の話ばっかりよね」
「それが良いんじゃ無いか。あの時代の文化に触れられて」
 何故かさいとが力説する。文化と言っても物凄く狭い範囲なのだがとりんくは苦笑い、めいるは呆れている。りんくは引っかかるようにポロリと言う。
「何度か、落ち込んでるみたいな記事があったけど」
「でも、とりあえず、立ち直っている」
 めいるが付け足す。
「最後の方もちょっとだけ読んでみたんだが、卒業式の記事と、その二日後に高校入試の記事、さらに四日後の合格発表前日の記事で終わっている」
 さいとが慎重な口調で言う。それにりんくは思い出すように…。
「私もその辺は読んだわ。受験に対する不安とかあったと思うけど、文章は前向きだった」
「当時の新聞を図書ネットワークで調べたんだけど、桂木わかばさんは合格発表の当日に北森第2ダムに飛び込んで自殺した事になっているんだ。さらにその記事では受験には合格していたと書かれている」
 さいとの話にめいるは信じられない様に言う。
「それじゃ、何で自殺なんて」
 真実を求めて、手にした情報だったが、それがますます真実をぼかしてしまっている様な状況にりんく達は戸惑っていた。