おジャ魔女りんく〜あれが噂のT様〜
chapter5 未来託して
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「何ですか、これは」
 ふうがは驚いて尋ねる。さいとは必死にりんく達に呼びかけている。
「りんく、りんく、りんくっ、起きろよっ」
 しかし、その声はオーラに阻まれてりんくには届かない。ゆうきは困ったという素振りで呟く。
「何者かに術をかけられている可能性が高い」
“ピピピピピピピ……”
「すいません、電話みたいです」
 電子音が鳴り、ふうがはそう言って受話器を取りに行く。
「ばっちゃ、どうしたら良いんだ」
「……とりあえず、マジョワカバの所へ、対策をかんがえるのぢゃ」
「今、めいるちゃんのお母さんから電話がありまして、めいるちゃんも同じ様な状態みたいですよ」
 戻ってきたふうががゆうきに告げた。
「ふうが君は二人についていてあげて、わしらはマジョワカバの所へ行ってみるのぢゃ」
「頼みます」
 ふうがはそう言って、りんくの側に行き、呼びかけ続けるのだった。さいとはりんくの家を飛び出して、自転車を飛ばして双葉商店街の魔法堂を目指した。自転車をこぎながら、さいとは不安そうに尋ねる。
「ばっちゃ、いったい…何が起こっているんだ」
「知らんわ。でも、ロイヤルパトレイダーが出張っていながら、この事態を食い止められんとは…文句言ってやるわい」
 ゆうきはムスっとしてそう言ったきり黙り込んでしまった。

***

 その日、お昼前だと言うのに魔法堂は閉まったままだった。薄暗い店内では、テーブルに置かれている水晶玉がプロジェクターの様に作動し、白い壁に映像を映し出していた。その映像を真剣な表情で数人の大人達が見ているという状況がそこにあった。
“……コト”
 紅茶の入ったカップをテーブルに置く音がする。続いてクールな男の声。
「勘付かれてしまったようですね」
「貴様、冗談もたいがいにしろよっ!」
 その飄々とした口調にロイヤルパトレイダーのケイが怒りをあらわに飛び掛ろうとするのをパートナーのフタバに取り押さえられる。
「ちょっと休憩にしましょうか」
 一触即発の男二人をなだめる様にワカバの姿をしているシシがみんなに告げる。
「ごめん、シシ、温かいコーヒーをいれてちょうだい」
 テーブルに乗っかって映像を見ていたワカバは頭を抱えつつシシに頼む。所謂二日酔いなのだ。
『シシちゃん、私とT様は紅茶のおかわりをプリーズですよ〜』
 テーブルに置かれたピュアレーヌパソコンの中のカリュートが陽気に頼む。シシはそれに頷いてキッチンの方へと入って行った。あと、テーブルには蒼いセミロングのはねっ毛が特徴のマジョツクシも姿もあった。彼女はずっとムスッとした表情でカリュートがT様と呼んだ青髪の美青年を睨んでいた。その隣のフタバもTの様子には常に注意を払っているという感じだった。
 そこに…。
「ワカバさんっ、てーへんだっ」
 と叫びながらさいとが飛び込んできた。背中にはゆうきがへばり付いている。二人は魔法堂の異様な光景に唖然としていた。ゆうきは確認する様に呟く。
「ワカバとロイヤルパトレイダーが二人……それにツクシぢゃないのっ」
「えっ、ゆうきなん」
 ツクシがゆうきの顔を見て嬉しそうに立ち上がる。それはワカバの一緒だ。
「ゆうきちゃんっ」
 しかし、ゆうきは…。
「この一大事に何、お茶して映画鑑賞会してんねんっ!!」
 と大声で怒鳴りだしてしまう。りんく達の事が不安なのに、師匠の魔女達がこれでは…という訳だ。しかし、さいとがゆうきに告げる。
「でも、ばっちゃ、あの映画見てくれよ…りんく達が映っている」
 壁に映し出された映像には見知らぬ男性を必死に説得しているりんく達の姿が映っていた。そしてさいとはTの方を向いて言う。
「トゥルーさん、あんたがりんく達に何かしたんだろっ」
 そう、魔法堂に居た謎の美青年Tは昨日、りんく達にトゥルーと名乗った男なのだ。
「そうか、少年は徹夜してしまったのか」
 トゥルーはさいとの目のクマを見て納得した様に呟く。そして…。
「ゲストが増えたし、少し説明しましょうか…現状を」
 トゥルーはそう言って喋りだした。
「私は彼等ロイヤルパトレイダーとは敵対関係にあるマジックリスペクターのリーダー的存在とされている者だ。彼等にはTというコードネームで呼ばれている。一応、真実を求める者としてトゥルーと名乗らせて欲しい。そして敵対関係にある我々が何故、こうして一緒にいるかと言うと……私が密かに進めていた一大プロジェクトを彼等と共に完成させる為なんだ」
「何を言うか、魔女見習いを人質にされていなければ、容赦しないものを…」
 ケイは悔しそうに言う。
「確かにあの子達を人質に利用した事は認めよう。しかし、このプロジェクトが終われば、無事に解放する。それまで大人しくしていて欲しいだけだ」
 トゥルーは淡々と告げる。
「なんでりんく達が人質になるんだよ」
 さいとがトゥルーを睨むように言う。それにフタバが答えてくれる。
「この水晶玉の内部にはTが5年間蓄えた魔力によって作り出した仮想現実の世界が広がっている。そこには現実世界と瓜二つの世界と情報があり、りんくちゃん達はその世界に送り込まれてしまっている」
「何で、そんなややこしい事を」
 さいとはまだ納得出来ない様に言うと、ゆうきは悲しそうに呟く。
「実験なんぢゃな」
「その通り。もし、世界に魔法の存在を知らしめた時の動きをシミュレーションしてるんだ。あの子達や、少年、君にはこのシミュレーションを体感してもらおうと思ったんだよ」
 トゥルーは自慢げに言う。ツクシは怒り狂って言う。
「何が現実と瓜二つやねん。ウチを勝手にあんな鬱キャラにしよって…」
「すまない。君にはきっかけとして故意に改変したキャラで登場させてもらった。しかし、私が手を加えたのは筑紫博士のみで、あとは忠実に現実世界を再現している筈だ」
 と弁解するツゥルーにワカバは少し険しい表情を見せながらピョンピョンと彼に近づいて行き…。
“パシィ”
 トゥルーの頬を思いっきり叩いたワカバは声を荒げて言う。
「だからって、自殺なんて…自殺させるなんて……」
 言いながらワカバは涙を流していた。例えシミュレーションでも、友の死が衝撃的だったのだ。トゥルーは流石に真剣に済まなさそうな表情をして…。