おジャ魔女どれみNEXT
第1話「どれみの彼氏」
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 桜が舞い散る街を、美空中の紺色のブレザーを着たお団子のヘアの少女が走っている。彼女は春風どれみ。夕日の浜辺。数年前、好きな男の子に告白する勇気が欲しくて、魔女になる事を望んだ少女は、今、魔法に頼る事無く自分の勇気で告白しようとしていた。
「この手紙、受け取ってください」
 どれみが差し出した手紙を浜辺で待っていた男の子は受け取った。

キーンコーンカーンコーン…
 チャイムが鳴る。今日のそれは、期末テストの終了を告げる物だった。解答用紙を回収したあと、夏服の生徒達が嬉しそうに席を立つ。どれみは赤毛のショートヘアの少女の席に飛んでいった。
「かよちゃん、英語どうだった?」
 どれみに飛びつかれた少女、長門かよこは自信なさげに答えた。
「一応、全部埋めたけど…」
「私なんて、ヤマがはずれて…悲惨だったよぉ〜」
 かよこは苦笑いしてしまう。
「これで、期末試験も終わりで、いよいよ夏休みだねぇ〜」
 どれみは嬉しそうに言う。その後すぐに放課後となって、かよこはどれみに声をかけた。
「どれみちゃん、帰ろう」
「…ピィリカピリララ ポポリナペェペルト〜」
 どれみは小さく何か必死に呟いている。
「どれみちゃん、どうしたの?」
 かよこは不思議そうに尋ねる。どれみが意味不明の言葉を必死に唱えているのだ無理は無い。
「えっ、勇気が出るおまじないだよ。今度、かよちゃんにも教えてあげるよ。」
「ありがとう。それじゃ帰ろう」
「かよちゃん、ごめん。今日はちょっと…」
 どれみはかよこに手を合わせて、足早に教室を出ていった。かよこは首を傾げる。その背後に眼鏡を光らせて小柄な少女が現れた。
「春風さん、きっと桑原先輩とデートよ」
 かよこが振り向くと、島倉かおりが手帳を片手に立っていた。ジャーナリスト志望の彼女の情報網は半端ではなかった。しかし…。
「そいつとはもう別れたよ。今は大河内先輩と付き合っているんだ」
 髪をツンツンに逆立てた、どれみの幼馴染の少年、小竹哲也が不満そうに口を挟んだ。
「そ、それは初耳だわ!」
 島倉は必死に手帳に書き込んでいる。
「でも小竹君、どうしてそれを…」
 手を動かしながら島倉は疑いの眼差しをむける。
「どれみちゃん、最近ちょっとストーキングされている気がするって言ってたけど…小竹君まさか?」
「ななななっ、長門ぉ、そ、それは違うぞ、断じてなっ!大河内先輩はサッカー部の先輩なんだ。この前、グランドの隅で二人が会っているのを見たんだ」
 小竹は冷汗を振りまきながら必死に弁解した。
「春風さん、中学に入ってから、3人目ね。どこまで失恋記録を伸ばす気かしら…」
 島倉はそう言って、姿を消した。
「どじみぃ…何やってんだよ」
 小竹は小さく呟いた。そこに男子が二人やって来て、小竹を押さえつけた。
「何してんだはお前だよ!」
 背の高い男は冗談で小竹の首を締める。もう一人は軽くボディを殴ってくる。
「長谷部、矢田ぁ〜止めろぉ…」
 長身の長谷部たけしは首を離してやる。一方、矢田まさるは小竹を睨みつけて言った。
「お前がそんなんだから、春風はああなんだぞ!」
「そーだそーだ。ビシッとしないからなぁ〜」
 長谷部も便乗して言う。小竹は悔しそうにうつむいていたが、突然顔をあげ、
「そ、それはそうと、矢田、お前、最近ペットの練習場所変えたそうじゃねーか。それがカレン女学院の通学路だっていうからさ」
「え、マジかよ!」
 小竹の反撃の一言に長谷部が飛びついてきた。
「そ、そんなんじゃねーよっ!」
 矢田は必死に反論する。
「…まさる君、今日も練習してるんだ」
「ああっ、別に…」
 小竹が指で眼鏡を作ってはづき、長谷部が矢田のモノマネをして見せる。
「お前ら、本気で殴るぞ」
 矢田が怒りを爆発させようとしていると、後ろでかよこが笑っていた。
「ごめんなさい。でも…」
 かよこは必死に笑いに耐えている。そんなかよこを見て、矢田の怒りも何処かに行ってしまう。唐突に矢田はかよこに尋ねた。
「長門…林野元気か?」
「ええ、元気よ」
 かよこは何気なく答えた。
「そーか」
 長谷部はにたにたしながら頷いた。気がついてかよこは真っ赤になる。同じ小学校だった林野まさとは医者を目指して有名な私立の超進学校の通っていた。今かよこはその林野と同じ塾に通っていた。
「さぁて、帰るか」
 長谷部はそう言って、帰ろうとするが。
「お前、自分だけ逃げる気か」
 矢田がそんな長谷部を捕まえる。小竹は尋問する。
「長谷部、工藤とはその後どうなんだよ」
 工藤むつみ。小竹達と同じ美空第一小の出身で、女子プロレスラーを目指してジムに通っている。長谷部とは幼馴染だった。
「何言ってんだよ、あんなマニアックな女、俺以外どうこうって感じじゃないだろ」
 長谷部は余裕を見せたが、その背後に怒りに燃えるむつみが居る事に殺気で気がついた。
「だれが、マニアックですってぇ〜…長谷部君、昨日ジムで編み出した新必殺技受けてみるぅ?」
「女とプロレスごっこなんてできるかよ!」
 長谷部は拒否するが、怒りのむつみは容赦なく近づいてくる。
「ごっこじゃないわ、プロレスよ。それに体が接触するのは一瞬だから、エッチな事無いのよ」
 数分後、長谷部は無残に床を舐めていた。
「あれは、絶対、長谷部をぶちのめすために開発された技だ」
「間違いない」
 小竹と矢田は小声で確認しあった。