おジャ魔女どれみNEXT
第3話「どれみの魔法」
1/4
 中学生サッカー全国大会Bブロック2回戦第2試合。美空中と武生中の試合は両チームとも無得点のまま前半戦を終わった所だった。突然の抜擢で、緊張から力が発揮できない小竹。それを指摘された小竹は一人、人気の無い会場の裏で悔し涙を堪えていた。
「どうして、上手く行かないんだ」
 小竹は一人、壁を叩いている。どれみはそんな小竹を遠くから見ていた。
「素直じゃないなぁ…自分でもわかってんじゃん」
 どれみは、どうしても小竹がほっておけなくて、駆け寄って声をかけた。
「ピィリカピリララ ポポリナペェペルト〜小竹が実力を発揮できますように〜」
 いきなり、声をかけられて小竹は振り返った。
「…なんだ、いきなりっ」
「勇気が出る魔法だよ」
 どれみは笑顔で答えた。
「…お前も、おまじないかよ…でも矢田のマジョリカよりは効きそうな気がするぜ」
「マジョリカぁ!」
 驚くどれみを残して、嬉しそうに小竹は戻って行った。
「ちょっと、小竹ぇ〜!」
 どれみは小竹の後姿に叫んで追いかけた。二人のこのやりとりを暁は物影から見ていた。そして呟いた。
「どれみちゃん、君は魔法を捨てたのに…まるで魔法を使ったかのように人を元気に出来る…」
「とても素晴らしい人ですね。…でもはづきちゃんには劣りますが…」
 フジオが隣で話し掛けてきた。暁は苦笑いして見せる。
「暁君、あなたは一体何をしたいんですか…もし、僕の予想通りなら、あなたは…」
「フジオ君、それ以上の詮索は不要だ。これはもう決めた事だから…だから…」
 そう言いながら暁は歩き出した。

「おんぷちゃん、どうだった僕の華麗な空中殺法」
 トオルはおんぷのところまで来ていた。
「あなた、まだ後半が残っているでしょ。それに…芸能界目指すの止めて、サーカス入ったほうが良いんじゃないの」
 おんぷはトオルを冷たくあしらうが、
「君は僕が芸能界入りするのが怖いんだね。大丈夫、僕は君の味方さっ」
 トオルはお構いなしに言う。おんぷは穏やかな顔をして怒りに耐えていた。

 レオンはいきなり現れて、あいこをスタンドから連れ出した。人気の無い通路で二人っきりになる。
「レオン君、これはどういうつもり…」
「あいちゃんっ!」
 レオンは真っ直ぐな眼差しであいこを見つめる。その瞳にあいこの少しだけ頬を赤く染める。
「…あのなっ、レオン君、私、悪いけどなっ、あんたとは…」
 レオンは指を弾いた。触角状の髪の毛は揺れる。彼の魔法が発動した。小さな煙と共にレオンの手に美空中のユニフォームが現れた。
「あいちゃん、これを着て、試合に参加してプリーズ、もっとエキサイティングなゲームになるっ」
「はぁ〜」
 あいこは呆れてしまい、さらにさっき少し抱いた感情がそのまま怒りに変換されるのに時間はかからなかった。
「あんたはシツコイっつーねん!」
「そ・れ・が、ミィのいい所さっ!」
 レオンはポーズを付けながら逃げて行った。

 はづきと矢田が居るスタンドの最上段にトランペットを構えた少年が現れ、キラキラ星を吹き始めた。そのお粗末なメロディーに、はづきと矢田は振り返った。フジオがはづきに向けて吹いているのだ。はづきは恥しくて顔を真赤にする。
「あいつ、俺の曲をっ!」
 キラキラ星がいつから彼の曲になったかは知らないが、矢田はフジオを睨んだ。
「まさる君…」
 はづきは矢田を見つめる。
「あのバカを止めてくる」
 ブチ切れ寸前の矢田がスタンドを上がっていく。
「まさる君、ケンカはダメだと思うの〜」
 はづきの言葉は矢田に届かない。矢田はフジオの所まで辿り付いて、
「この下手くそ。ペットはこう吹くんだよ」
 と言って、自分のトランペットを出して、キラキラ星を演奏し始めた。しかしはそれはフジオとあまりレベルの変わらない演奏だった。
「僕は負けないっ、負けられない!」
 フジオの負けじとペットを演奏する。二人のキラキラ星がスタンドに響き渡った。それを送りたいただ一人の女性、藤原はづきは、スタンドの最前列で、小さくなっていた。
「もうっ、まさる君ったら」

 そしてまもなく後半戦がはじまろうとしていた。

 美空中キックオフの後半開始直後、ボールをキープして武生中ゴールを目指す小竹の前方を暁が塞いだ。
「済まない、手出し無用で頼むよ」
 暁はトオルとレオンにそう言って、一人で小竹に突っ込んできた。
「来いっ暁!」
 二人の激しいボールの奪い合いが開始される。
「前半とはまるで別人だね」
 暁は執拗にボールを狙いながら小竹に告げる。
「お前にだけは負けられないっ!」
 小竹は気合を込める。
「その力、どれみちゃんが与えてくれたかもしれないって事に気がつかないのかっ」
「それくらい、わかっているっ!」
 小竹は一気に暁を抜いた。
「だったら、どうして君はそうなんだっ!」
 暁は振り返り、小竹の背中に叫んだ。小竹は振り返らずに福井ゴールを目指した。
「なんだってぇ!」
「アンビリバボー!」
 小竹を中心にパスを繋いでトオルとレオンを突破した美空中攻撃陣は、武生中ゴール前、ペナルティエリアに侵入していた。そしてフリースペースに走り込んだ小竹にパスが繋がった。