おジャ魔女どれみNEXT
第4話「はづきの不安」
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 9月に入り夏休みも終わり、2学期が始まって数日。昼休みに色白の少女が大量のプリントを抱えて廊下を歩いている。矢田まさるは無意味に校内をうろうろしていて、そんな少女を見かけて駆け寄っていく。
「中山、お前…日直か?…そういう仕事は男子にやらせろよな」
 矢田はその少女、中山しおりの抱えるプリントを8割ぐらい奪って持ってやる。
「矢田君…ありがとう」
「お前は…なぁ………誰だよ、同じ日直の男子は?」
 矢田は言いかけて話題を変えた。しおりは病弱で何度も入退院を繰り返している事を矢田は知っていたし、しおりも気にしているからだ。
「…吉田君、休み時間はすぐに外に飛び出して行っちゃって…」
 吉田かずやはそういう男だ。矢田は溜息をついて…
「今度、ぶっ飛ばしてやる」
「矢田君は優しいから…そんな事しないよ」
 しおりはクスッと笑いながら先を歩いていく。矢田はやれやれとその後をついて行く。

 教室でしおりは数人の女子と話している。みんなしおりとは別の出身校だった。
「中山さん、矢田君と仲が良いみたいだけど…怖くないの?」
「怖い?…矢田君は凄く優しいのよ」
 しおりは信じられないように言い返す。
「しおりちゃん、他所の出身の子には、そう見えるんだよ。矢田君は…」
 そこに赤いお団子頭の春風どれみが口を挟んでくる。
「それじゃ、美空一の子は、怖くないの?矢田君」
「ん〜っ…ちょっと怖いかな……無口で無愛想で暴力的で…」
 どれみはボソッと言う。すると話をしていた他所出身の女子達がクモの子を散らすように逃げていく。どれみの背後には矢田が…。
「悪かったな…無口で無愛想で暴力的でっ」
 どれみは冷汗を流しながら振り返り、
「それも、矢田君のいい所だよ〜」
「ふざけるなっ」
 矢田は小さく呟いて立ち去っていった。同時に散っていた女子が戻って来る。
「あれでも、怖くないの?中山さん?」
「…ん〜、今のはどれみちゃんが悪いし…」
 しおりはマイペースに答えた。
「これは、愛のなせる業だね」
 女子の一人が納得する。
「でもね、矢田君には、カレ女に通っている彼女がいるのさっ」
 どれみが自慢げに言う。
「うっそ〜信じられないよ〜」
 カレ女ことカレン女学院といえば女子の憧れ的な学校だ。女子達が騒ぎ出す。しおりはその中で淋しそうな顔をしていた。

 放課後、下校中のどれみと長門かよこは楽しそうに話している。
「そこのプラネタリウムでね、今度ね」
 星が好きなかよこが熱心に駅の近くに出来たプラネタリウムの話をしている。
「私は、それに行くと…いつもプラ…寝たり…うむ〜」
 どれみは小声で言った。
「どれみちゃん、何、今の…SOSよりつまらないよ〜」
「かよちゃん、それは酷い、酷すぎだよ〜っ」
 つまらない事で二人がじゃれあっていると、
「……どれみちゃん…ちょっと…」
 不意に後から声をかけられた。ちょうど公園の前にさしかかった辺りだった。
「しおりちゃん、どうしたの?」
 どれみは声の主、思いつめた表情の中山しおりに尋ねた。3人は公園に入り、ベンチに座った。

 しおりは何か言いたげだが、言い難そうにしている。どれみはそんなしおりを心配しつつ、辺りを見渡して呟いた。
「…ここって、4年の時、しおりちゃんが矢田君と学校さぼって…」
 どれみは小学4年生の時の母の日の出来事を思い出していた。
「ど、どれみちゃん、それは…」
 話し出したどれみにしおりは真赤になって、どれみに止めてと訴える。
「そんな事があったんだ」
 かよこは興味深そうに聞き入っている。そして思いついたように口にした。慎重に。
「中山さん、間違っていたらごめんなさい。もしかして矢田君の事…それでどれみちゃんに相談を…」
 かよこの言葉、特に男子の固有名詞に敏感に反応するしおりを見て、かよことどれみは図星だと感じた。
「うっそ〜、マジっすか〜」
 どれみは大声で驚いた。それにしおりはますます真赤になる。どれみとって矢田まさるは親友である藤原はづきの幼馴染であり、仲間内では二人は暗黙の了解で恋人同士と言う事になっていた。そこにしおりが飛び込んできたのだ。
「矢田君、女子には意外と優しいからね」
 かよこが言う。どれみは思い当たらないと首を振りながら…。
「それって、かよちゃんとしおりちゃんにだけでは…」
 そう言えば、6年の時、一度しおりと矢田が噂になった事があった。そう考えるとどれみも納得してしまう。
「…確かに病院の件といい、しおりちゃんにはやさしい…よね。しおりちゃん、それで私は何をすればいいのかな?」
 どれみは話が前に進まないので聞いてみた。
「…はづきちゃんと矢田君って本当に付き合っているか、教えて欲しいの…もし、付き合っていないのなら、私…私……」
 しおりは消え入りそうな声で主張した。
「二人が本当に…」
 暗黙の了解で恋人とされる矢田とはづき。でも、これと言って決定的な証明がある訳ではなかった。どれみは答えに困った。