おジャ魔女どれみNEXT
第5話「はづきの答え」
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 土曜日の晩。薄暗い部屋で、少女が鳩の形をした笛“はとぶえ”を抱きしめていた。その“はとぶえ”は少女にとって思い出の品であり“たからもの”だった。大切な人から貰った。
「私はどうしたらいいの…」
 全ては今までの自分の中途半端な態度のしわ寄せだった。少女は“はとぶえ”を机に置き、月明かりに照らされた窓際に立った。そこには譜面台とバイオリンが置かれていて、少女はバイオリンを手にとって引き始めた。その音色は少女の心を現すかのように迷いを秘めていた。
 少女は常に自分を押さえて回りに気を配る性分だった。親を喜ばせたい、その一心で親の言いなりになり、いつしか本当の気持ちを親に伝えられなくなっていた。4年前、それを改善したくて魔法に頼ろうとした。しかし魔法を使えるようになって、学んだ事は、自分の望みには魔法を使うべきじゃないという事。少女は魔法に頼る事無く、今では自分の気持ちを親に伝えられるようになった。
「…今度は友達にだって」
 バイオリンを下ろした少女は呟いた。今、早急に想いを伝えなくてはならない相手が居る。それは幼馴染の少年。お互いに分かり合えていると思っていた。でもそれは少女の一方的な考えだったのだろうか…。
「矢田君はどう思っているのだろう…」
 少女にとって、その少年の気持ちは一番気になる事だった。しかしその少年は感情をあまり表に出さない少年だった。そんな少年は誤解される事も多かった。そんな少年の内に秘めた良さを理解しているのは自分だけだと思っていた。
「…しおりちゃん。私より、ずっと強いよ」
 でも、自分以外に少年の良さに気がついた少女が居た。だから悩む。答えを導き出すのにはまだ時間がかかりそうだった。

「本当に隣町の遊園地なんだろうな」
 長身の細身だが無骨そうな男、長谷部たけしが、お団子ヘアの少女、春風どれみに尋ねる。
「うん、島倉が矢田君にお詫びにって、隣町の遊園地のペアチケット渡したって情報があるもん」
「まさか、それで私を誘ったの?」
 長谷部の隣に居た少女、工藤むつみが長谷部を見上げる。
「ああっ、矢田の事が気になる。尾行のためのカムフラージュだ」
 と言った長谷部の体が宙に舞う。むつみの幻の大技がヒットしたのだ。
「女の子を何だと思っているのよ…まったく!」
 長谷部は腰を摩りながら起き上がった。
「いってえぇ〜」
 むつみは長谷部を睨みながら言う。
「私も少し気になるから、付き合ってあげるわよ」
「はは〜。ありがたき幸せ」
 長谷部はむつみに平伏す。何だかんだ言って楽しそうだ。どれみは一人それを見て微笑む。そこに声をかけられる。
「春風、カムフラージュするなら…俺でよければ付き合っても…」
 いつの間に居た小竹哲也がモジモジしながら言う。
「小竹、居たんだ…邪魔だからいいよ」
「おぃっ!邪魔って…」
 小竹はムッとする。そこに赤毛のショートカットの少女がやってきた。
「どれみちゃん、遅れてごめんなさい」
「かよちゃん、まだ時間があるから平気だ…よ」
 やってきた少女、長門かよこを出迎えたどれみは、彼女の後に居る人物をみて目を丸くした。
「僕も元6年1組学級委員として気になるからね」
 そう言った少年のアゴに皆の眼が行ってしまう。彼は林野まさと。どれみと同じ美空小出身だ。その突出したアゴがトレードマークの少年は、医者を目指していて、この辺でも一番の進学校に通っている。
「長門さんから、だいたいの話は聞いている。遊園地の様な場所では男女ペアの方が怪しまれない。本日の指揮は僕がとろう。各自分散して三方向から矢田君を監視する。いいね」
 林野は仕切った。
「おいっ、何…仕切ってんだよ」
「了解だ。林野っ!」
 長谷部が愚痴っていると、何故かそれに小竹が賛同してきた。小竹にしてみたらそれで自分の目的は果たせるわけで…。そして一同は美空駅を目指した。午前10時に、ターゲットの矢田まさると中山しおりがそこで待合せをする。情報は筒抜けだった。

 ここは美空町でも有数の豪邸とされる藤原邸。その門の前に、いかにも怪しい二人組が居た。
「兄貴、本当にやるんスか?」
「ああっ、俺達はもうあの時の俺達では無いんだ。もっと胸を張れっ!」
 おどおどしている小柄な男に、面長で長身の男は言って、インターホンに指を伸ばした。しかし、その指は恐る恐るだった。
“ピンポーン”
『はいっ!!どちら様でごォざいましょォーォォかァァァーー!』
 インターホン越しに物凄い勢いの声が返ってきた。二人はその声に腰を抜かした。

「お嬢様で、お客様でございますが…」
 ドアをノックして入ってきた、小柄なお婆さんが、部屋でバイオリンを弾いていた眼鏡の少女、藤原はづきに告げた。はづきはバイオリンを下ろして聞き返した。
「…ばあや、誰かしら?」
「“パパイヤ兄弟”と名乗る怪しい二人組でございます。追い返しましょうか」
 というばあやは背後に長刀を隠し持っている。
「パパイヤ……………………あっ、あの人達…」
 はづきは思い出したように手を叩いた。昨晩からずっと悩んでいるはづきは友達だったら会うのを断ろうかと考えていた。今の悩んでいる姿を見せたくないからだ。しかし悩むのにも少し疲れ始めていたはづきは、その懐かしい名前の二人に会うのが気分転換になると思った。