おジャ魔女どれみNEXT
第7話「ももこは神風」
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“魔法に頼り過ぎては魔女界は駄目になる”
 三年前、その事を強引に女王に問いただした魔女は魔女界を追放になった。

 マジョランは静かに語りだした。
「あの日…私は出会った、四人の魔女見習いに…。彼女らはウィッチー・クィーン・ローズから生まれた赤ちゃんを育てていた」
「…それって」
 ももこは確信して呟く。
「私は…その赤ちゃんを人質に王宮に侵入しようとした」
「何でっ」
 今度は驚きの声をあげる。
「このまま、人間界と断絶を続けては…魔女界はダメになる。それを女王様に問いたかった」
「マジョランは人間界と魔女界が好きなんだね」
 ももこの言葉にマジョランは頷いて続けた。
「幼い頃、マジョハートと人間界で暮らしていた…あの頃は楽しかった。まだ魔女と人間が共存していた。…でも」
「でも?」
 ももこは首を傾げる。
「人間は魔女を利用し、魔女は人間との交流を絶った。その時の中心人物が…マジョハートだった。私は当時、マジョハートの考えが理解できず、家を飛び出した。でもそれは誤解だと…王宮に侵入してマジョハートと再会して…やっと気が付いた。今考えれば、どれみのおかげと言える」
「…どれみちゃん」
 ももこは、目の前の魔女から出た親友の名を呟いた。
「あの時、女王様は、私の問いかけに対し…“今は出来ないと答えた”…そう、近い将来に人間界と交流するを再開する事を考えてくれていた…そしてその準備段階として、魔女界にとって重要なウィッチー・クィーン・ローズから生まれた魔女の赤ちゃんを人間の子供達に育ててもらっていた…お互いの理解と架け橋的役割を担ってもらうために」
 ももこはいつの間にかマジョランの話に聞き入ってしまっていた。それは自分と無関係な話では無かったからだ。
「しかし…魔女界と人間界の交流を託した、どれみ達魔女見習いは…最終的に魔女になる事を拒んだと聞いた。なぜ…最後の最後で期待を裏切った?…どうしてだ?」
 マジョランはももこに問いかける。
「……ももが魔女にならなかったのは…」
 ももこは答えられなかった。目の前に居る魔女は、自分達が魔女界に無くてはならない存在であると考え、魔女になる事を望んでいたのだ。確かに人間の立場から人間界を変えて、いずれ魔女界と共存できる世界を作るというのが、ももこ達魔女見習いが出した答えだった。でも今のマジョランを前にそれを口にする事をももこは躊躇っていた。本当にその選択は正しかったのかと…。

 その晩、ももこはマジョランに何も言えないまま、寝る事になった。
「ゴメンね…ももこに辛い思いさせるために来たんじゃないのに…ももこを知れば、自然とその理由がわかるかなって思ったのよ」
 マジョランはももこに告げた。
「マジョラン………ゴメン」
 ももこはそれだけ呟いて、瞼を閉じた。

 翌朝、ももこが目を覚ますと、同じ部屋に寝ていたはずのマジョランの姿が無かった。ももこは焦った。このままで別れる訳にはいかない…何か答えないと。
「ママーッ」
 ももこはキッチンに叫びながら飛び込んできた。母みのりから何か情報を聞き出す為だ。しかしその必要は無くなった。なぜなら、そこでマジョランはみのりと一緒に朝食の支度をしていたからだ。
「ももこ、手伝わせてもらっているよ」
 マジョランは微笑んで言う。
「ランは…いいお嫁さんになれるわ」
 みのりは我が子の様に嬉しそうだ。ももこは焦っていたも忘れ、一緒に微笑むのだった。
 朝食を済ませた二人は、揃って出かけた。ももこは学校。マジョランは歩いてMAHO堂へ行くつもりらしい。ももこは隣を歩くマジョランに尋ねる。
「マジョランは…どうして魔法を使わないの?」
 マジョランはしばし考える素振りをみせて、こう問いかけてくる。
「じゃ、本当に魔法を使わないといけない事って、どういう事があるかな?」
 いきなりの切り返しにももこは首を傾げて考え込んでしまった。思いつくことはたいてい魔法を使わなくても解決できる事ばかり。魔法を使えるって事は…楽が出来るだけ…と思えてきさえもする。
「魔法に頼りすぎると…知らず知らずのうちに、大事なものを失ってしまう…ような気がした」
 マジョランは呟く。でも、ももこは否定せずにはいられなかった。
「でも、何かあるはずだよ…魔法があって良かったって事。だって魔女も魔女界もあんなに素晴らしい世界なんだよ」
「素晴らしい…世界か。人間から見るとそう見えるのかもね……だったらももこは何で魔法を捨てたの?」
 質問はふりだしに戻る。そう昨晩答えられなかった質問に。黙り込むももこに分かれ道が時間切れを告げる。
「じゃ、学校、頑張ってきて」
 そう言ってMAHO堂の方へ行くマジョランをももこは頷いて見送った。

「たまには歩くのもいいかも」
 マジョランはMAHO堂までの道のりを楽しんでいた。すると前方にバイクを押している赤いライダースーツの女性を見つけた。どうやらバイクが故障したようだ。マジョランはお節介と思いながらも声をかけた。
「故障ですか?」
 振り向いた女性は黒髪のストレートのロングで、鋭い目つきが印象的だったが、今は困っているようで、その目はやわらかく見える感じだ。
「良かったら…ちょっと見せてください」
 マジョランは上着の内ポケットから工具を取り出して、バイクを触り始めた。
「わかりますか?」
 女性は尋ねる。
「あっ…これなら、何とかなりそうですよ」
 マジョランは一部分解しだして、作業を進める。