おジャ魔女どれみNEXT
第8話「おんぷの疑惑」
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「私の事をまだ…昔のまま…親友だと思っているの…おバカさんね、なぎさは」
「もう止めて!まり〜」
 二人の少女が対峙している。一方の強気の少女は手にしていた着物を破り捨てる。
「お母さんの手がかりの着物が…どうしてこんな事をするのっ」
 それを見つめるもう一方の少女が目に涙を溜めて言う。
「あなたともう話す事は無いわ」
 まりという少女は手を叩いた。黒服の男達が大量に部屋に入ってくる。
「侵入者よ、追い出してくださいな」
 と冷たく言うと、なぎさという少女は男達に取り押さえられ連れて行かれる。その状態で必死に叫ぶ。
「まりーまりーっ!」
「誰の事かしら……私はなぎさよ」
 まりという少女は冷たく笑った。…つづく。

 テレビの前で赤いお団子の少女、春風どれみはため息をついた。
「毎週、息をつかせない展開だね〜。それにしても…おんぷちゃんの“まり”、週を重ねるごとに…すご味を増していくなぁ〜」
「どれみ、いつまでテレビ見ているのよ!遅刻するわよ」
 母親にそう言われて、慌てて家を飛び出すどれみ。見ていたのは朝の連続テレビ小説『明日のなぎさ』。大正時代を舞台に主人公の少女なぎさが生き別れの母親を探すと言う人気番組だった。

 その日は金曜日。放課後、美空町の喫茶店で女子中学生が二人お喋りをしていた。赤いお団子とブレザーの制服の春風どれみと、眼鏡にオレンジのリボンでカレン女学院の制服に身を包んだ藤原はづきの二人だった。ふたりは席について誰かを待っている。しばらくして、帽子を目深に被り、制服の上にジャケットを着込んだ同年代の少女がやってきた。
「遅れてごめんなさい」
「ううん、私達もさっき来たところだから」
 帽子を脱いだその少女は瀬川おんぷだった。元MAHO堂のメンバーで比較的近くに居るこの3人はたまにこうして3人で会っていた。この日の話題はおんぷが出演しているテレビドラマ『明日のなぎさ』の話題だった。どれみもはづきもすっかりはまっている様子だ。
「私、最近毎回、泣きながら見てる。おんぷちゃんの演技が真に迫っていて…」
「うんうん、凄いよ〜怖いくらいだもん」
 はづきとどれみは熱く語る。
「ありがとう。“まり”…あそこまでの悪役は、今までに無い役だからね」
「おんぷちゃん、これからも“まり”を頑張ってね」
 どれみの言葉におんぷは微笑んで告げる。
「実はね…昨日、まりはクランクアップしたのよ…撮影はあと数話残っているんだけどね。最後は…火事のシーンで大変…」
「おんぷちゃん、まってぇー。ネタバレは勘弁してぇー」
 はづきは叫んで、おんぷの言葉を遮る。おんぷは舌を出して悪戯っぽく笑う。
「でもさ、なぎさ役の新人の星河りずむちゃん、清楚そうで可愛いよね〜」
 どれみは話題を変えるように、そのドラマの主演のおんぷと同年代の役者の話に切り替えた。
「そうね。おんぷちゃんはお友達なのよね」
 はづきは同意しておんぷに尋ねる。長期のドラマで競演しているからだ。
「うん、そーね」
 おんぷはあまり気の無い返事を返す。どれみとはづきは首を傾げる。そこにフラッシュが割り込んでくる。
「すまない、すまない。その辺、詳しく聞かせて欲しいね〜」
 カメラを持った男が無遠慮にやってきて言う。
「パパラッチさん?」
 はづきは首を傾げる。
「鷲尾さん、今はプライベートですから。行きましょ」
 おんぷはそう言うと立ち上がった。どれみとはづきも後について行く。鷲尾はその後姿をカメラに収める。

「彼は、鷲尾岳人さん。フリーのカメラマンで、私の記事探しているんでしょうね」
「ふーん。芸能人も大変だね」
「それにしても失礼な人だわ」
 3人は歩きながら言う。
「じゃ、私はこっちだから。またね」
 と言いながらはづきが別れて行く。二人きりになって、どれみはおんぷに尋ねる。
「おんぷちゃん…もしかして何か悩んでるとか?」
 おんぷはどれみに背中を見せながら言う。
「やっぱり、どれみちゃんには分かっちゃうんだね」
「ううん、はづきちゃんも気が付いていたと思うよ…でもはづきちゃんは私と違って、そっとしておいてあげようとしているんだよ。でも私は…おせっかいだね」
 どれみは謝る。
「はづきちゃんの控えめな所、どれみちゃんのおせっかいな所、どっちも好きだよ」
 おんぷは振り返って、どれみの目を見つめて言う。
「おんぷちゃん」
 どれみは嬉しそうに笑う。おんぷはどれみに悩みを打ち明け始めた。

 数日前、瀬川おんぷが出演する映画の撮影現場の出来事である。ドラマは若い男女の恋愛をテーマにした物だった。撮影は順調に進んでいたが、ある場所で撮影が止まってしまった。それは、おんぷ演じるヒロインとその恋人が再会する物語の山場的なシーンだった。
「カァーット」
 監督の声が響く。おんぷは芝居を止め、監督を仰ぎ見る。
「おんぷちゃんの演技…ニュアンスがちょっと違うんだよね〜わかる?」
 監督は曖昧な言い方をしてくる。その日、このシーンで何回もNGを出しているおんぷは、この監督を納得させようと、アレコレ考えて演じてみたが、全てニュアンスが違うで片付けられてしまう。
「すいません。もう一度お願いします」
 おんぷは頭を下げて言う。
「おんぷちゃん…彼氏とか居ないでしょ。だったらこの感じは掴めないかなぁ〜」
 監督は何気なく呟く。その言葉はおんぷの心に突き刺さる。別に彼氏が居ないのが悲しい訳では無い。仕事に関してはある種のプライドを持っているおんぷは、どんな役でも演じる自信や、その為の努力を惜しまなかった。しかし、それをこのような形で否定されるのは辛かった。