おジャ魔女どれみNEXT
第10話「あいこの魅力」
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「お父ちゃん、お母ちゃん、おじいちゃん、行って来ます〜」
 元気そうに青い髪に中学の制服を着た少女が家を飛び出す。そしてそのまま軽やかに走っていく。
「あかん、電車出てしまう…スピードアップやっ!」
 少女は走る速度を上げた。そしてギリギリに電車に飛び乗った。
「ふぅ〜、これで、朝連に間に合うわ」
 少女は車内の吊革につかまって一息ついた。彼女は妹尾あいこ。大阪出身の少女。家庭の事情で4年ほど関東で生活し、今年の春に、両親の復縁と共に出身の大阪に戻ってきた。今は祖父の家に祖父と両親との4人暮らし。そしてこの家から電車でしばらく行った所にある、南天下茶屋中学に通っていた。
「今日も絶好調や」
 あいこは満足そうに言う。そんなあいこを見つめる同じ制服の少女が同じ電車の端っこ席に座っていた。黒髪に色白な肌の少女は大人しい瞳で不思議そうにあいこを見つめていた。

 電車を降りたあいこは学校までの道をまた走っていく。
「何で、妹尾さんは…いつもあんなに走っているのかしら」
 あいこを見ていた少女は呟き、自分はゆっくりと学校へ歩き出した。

 体育館ではバスケ部の朝連が行われていた。夏に3年生が引退し、1年生ながらあいこはその抜群の運動神経から、レギュラーとして部内の中心となって活躍していた。
 朝連を終えたあいこは着替えて教室へ向う。1年1組、中学生活も半年が過ぎ、生徒達もだいぶここでの生活に慣れてきた感じだ。教室では女子数人が他愛の無い話に花を咲かせていた。あいこはその中に加わる。
「妹尾さん、おはよ♪」
「あいちゃん、朝連、お疲れっ」
 クラスメートの“ともこ”と“ちえみ”が嬉しそうに挨拶する。あいこは活発で運動神経抜群、面倒見も良かったので、クラスの人気者だった。
「何の話してたん?」
 あいこは尋ねる。しかし、すでに話題の中心はあいこの様だった。
「ねぇ、公式戦デビューはいつなん?」
「絶対に応援に行くからね」
 二人のファンの様な態度にあいこは苦笑いしながら、受け答えする。そんな中、ふと、自分を見つめる視線を感じ、窓際の色白な少女と目が合った。その少女はすぐに目を逸らして、机に出してあったノートに目を落とし、何やら静かに書き込んでいる。
「白鳥さん…久しぶりやね…学校来るの…どうしてたんやろ」
 その少女の名前を口にして、あいこは首を傾げた。
「妹尾さんは、春からここに来たから知らないのよね…白鳥さん、体が弱くて、数ヶ月に1回くらい検査入院するのよ」
 ともこが説明する。
「それでもね、小学6年の後半までは、ずっと入院生活してたんだから、ちょっと良くなったって事よね」
「でも完全に良くなった訳やないんや…でも、なんで、彼女、いつも一人なん?」
 あいこは真剣な表情で問う。
「ん〜っ、白鳥さん、壊れやすいガラス細工みたいな印象があって…みんなどう付き合って良いかわからないのよ…その内に今みたいなポジションにおさまって…」
 あいこは二人の話を聞きながら自責の念がこみ上げてきた。
“何で、今まで気付いてあげらへんかったんやろ…”
 あいこの気質では、そんな子は放っておけなかった。しかし、あいこ自身、中学生になって、新しい環境と部活。それに家庭の事もあり、普通の中学生の何倍もいろんな事を行う必要があった。その為、やっと慣れてきた今まであまり周りが見えていなかったという部分があった。あいこはかばんを持って、その窓際の少女、白鳥あいかの前の席に座った。
「白鳥さん、休んでた間の授業のノート、あたしので良かったら、写しぃ……まぁ…あんまり見栄えは良くないけど」
 あいかは何やらビッシリと書き込まれたノートを慌てて、閉じて、あいこの顔を見つめる。
「えっ…あたしの顔に何かついてる?」
 あいこは口を引きつらせながら尋ねる。
「どうして…私にかまうの?」
 あいかは聞き取れるか取れないかくらいの小声で尋ねてくる。
「何でって…あたしは…」
 あいこは答えに困る。明確な理由なんて無いからだ。あいかは立ち上がって、ノートを抱えて席を離れようとする。
「ちょっ、待ちぃやっ!」
 あいこはひき止めようとするが、あいかはそんなあいこに小さく言う。
「ありがとう。嬉しかった。でも…私に構わないで」
 あいこはあいかの考えがわからず、ポカンとその後姿を見つめていた。

 お昼休み。昼食の時間だ。皆、仲の良い友達とお弁当を広げていた。あいこはあれから今までのあいかの事を必死に思い出そうとしていた。半年間、同じ教室で学校生活を送っていたのだ、それなりの事は見ていたはずだ。しかし、あいかの極力目立とうとしない行動のせいか、思いつく事は少ない。それでも何とか思いついた数点をあいかと同じ出身小学校の友達に尋ねる。
「白鳥さんって…いつも、朝早く登校してるんとちゃう?」
「うん、たぶん、クラスで一番よね。でもそんなに早く来て何してるんやろね」
 首を傾げながら答えてくれた。
「…まりなちゃんみたいな子かな」
 あいこは美空小の時の同級生を思い出していた。
「何々、まりなって…妹尾さんの彼女?」
「何で、彼女やねん!」
 あいこは即ツッコミを入れる。どうもあいこはクラスの女子から、憧れに近い眼差しを注がれていた。
「昼休み、ここでお弁当食べる時と、どっか行ってしまう時とあるけど…」
 あいこは気を取り直して、次の疑問をぶつける。
「あっ、それは、2組の日高さんが登校している日は、屋上で二人で食べてるのよ」
「日高さん?」
 あいこは首を傾げた。