おジャ魔女どれみNEXT
第10話「あいこの魅力」
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「えっ、うっそ…知らないのっ、2組の日高さん、妹尾さん、ドラマの“明日のなぎさ”見てない?」
「おんぷちゃん出てるし…毎回見てるけど」
「日高さんは…芸名“星河りずむ”で、そのドラマの主役を演じているのよ」
「えっ…そーなんっ。ここにもおんぷちゃんみたいな子、居るんやね」
 あいこは驚いてみる。女子達はあいこを見つめる。
「えっ…今度は何?」
「妹尾さん、瀬川おんぷと友達なのよね…信じられない」
「うん、うん…だって、瀬川おんぷと妹尾さんじゃ、絶対に合わないと思う」
 女子達は口々に言う。あいこは苦笑いしながら言う。
「…確かに性格はあわへんかもしらんけど……そんな事、どおでも良くなるくらい、絆があったから…親友ってそういうもんとちゃう?」
 この言葉に再び少女達が憧れの眼差しを向けているのにあいこは苦笑いし続けるしか無かった。

 放課後、一人下校していたあいかに校門付近で、あいこは声を掛けた。
「方向一緒やろ、一緒に帰ろっ」
 あいかは黙って、ゆっくり歩き出した。あいこはそれに歩調を合わせる。あいこにしてみると少しそれは遅かった。
「あのさ…あの大事そうにしているノートは何?」
 あいこの質問にあいかは答えない。あいこは気にもしないで続ける。
「朝の質問の答えやけど…あたし“あいこ”、白鳥さんと名前が似てるから…気になんねん…ってのじゃ、あかん?」
「そんな理由で…」
 あいかは呆れた表情で振り返る。
「そやで…こんな事に理由なんていらへんねん。あたし、お節介やから」
 あいかの頑な表情が解きほぐされていくが目に見えてわかった。しかし、あいかは…。
「やめて……優しさの押し売りは相手を傷つける事もあるわ」
 それは無理矢理な拒絶だった。
「そんな…」
 あいこは呟きながら立ち止まった。ここは引くしか無いと考えたからだ。あいかはそのまま、先へと歩いていく。二人の距離はどんどん広がっていった。

 駅前に差し掛かった所で、あいかの体が光に包まれる。
「えっ…もうそんな時間なのっ」
 あいかは焦って路地裏に入った。誰も居ない薄暗い路地裏。そこであいかの着ている制服が光となって消え、あいかは白い魔女見習い服姿になる。さらに間髪入れず、その見習服も光の粒子に変わり、コロンタップに収納され地面に転がる。そして私服のあいかになる。その顔には汗が噴出し、立っていられなくなり苦しそうに膝をついた。
「彼女の優しさが……私の心を、ペースを乱すの…」
 あいかは苦しそうにコロンタップに手を伸ばし、再び魔女見習服にお着替えした。魔女見習服を着たあいかは何事も無かったように立ち上がる。
「………」
 あいかは自分の姿を悲しそうな見つめ、タップからクルールポロンをを出して、魔法の音色を紡いだ。
「プラーマイナース プピパーケット 制服姿になれっ」
 あいかの姿が中学の制服姿になる。そこで、背後から声をかけられる。
「あんた…魔女見習いやったんか」
 それは、驚きの表情を見せるあいこだった。あいかはそんなあいこを押しのけて路地裏を出て駅に向った。あいこはその後姿を見つめ続ける。

 あいこはずっとあいかの事を考えていた。その内に自宅に到着してしまう。そこで気持ちを切り替えて、家に入る。
「おじいちゃん、ただいまっ」
 あいこはそう言うと、祖父の身の回りの世話を始める。あいこの祖父は半身不随だった。老人介護センター勤務の母あつこだが、その勤務時間を短縮してもらい祖父の介護を行なっていた。あいこはそれをサポートしていた。つまり夕方の勤務をメインにしたあつこに変わって放課後はあいこが一人で祖父の介護を行なっていた。
「おじいちゃん…あたし、お節介すぎかな…」
 あいこは何気なくあいかの事を祖父に話していた。
「あっ、ごめんな、変な事、言うてしもて」
「あいこのお節介を拒むなど…普通ありえんじゃろ……ありえるのなら…よっぽどの理由があるか…」
 祖父は静かに話しかけてくれる。
「よっぽどの理由……そっか、あたし、そこまで相手の事、考えてへんかったわ」
 あいこはそう言いながら、魔法が解けて、苦しそうにしていたあいかを思い出していた。
「あいこ、今帰ったでぇ〜」
 帰ってきたのはタクシー運転手のあいこの父の幸治だった。
「お義父さん、今日は僕が夕食つくりますよ」
 やる気満々の幸治の言葉に祖父は嫌そうな顔をする。
「何ですか、その顔はぁ〜」
「あいこの作るご飯が食べたいの」
 あいこは苦笑いする。そんなあいこに幸治は思い出したように鞄から週刊誌を取り出した。その表紙には大きく瀬川おんぷの名前が載っている。
「あいこー、またおんぷちゃんが載ってるの買ってきたで〜」
「えっ、おんぷちゃん、またなん?」
 あいこは不思議そうに本を受け取った。またというのは、以前に謎の男性との交際現場をスクープされた事があったからだ。しかしそれは別人の可能性が高いとして、最近は話題に上らなくなっていた。
「瀬川おんぷ、後輩のオーディションを妨害」
 あいこは目次ページを開いて記事の見出しを口にした。そして急いでそのページを探した。見開きに大きな写真が載っている。それはおんぷが後輩アイドル星河りずむの手に持っている小道具を取り上げようとして、おんぷがオーディションを妨害している現場の写真だった。
「何や…これはっ」
 あいこは信じられないように声をあげた。前回のどれみとおんぷのツーショットにも正直驚いたが、今回はそれの比では無かった。あいこが驚いているのはりずむの格好だった。
“魔女見習い服にクルールポロン。この子、魔女見習いで魔法を使おうと…”
「やっぱり、りずむちゃんとおんぷちゃんは仲悪かったんやな」
 幸治はしみじみと言う。
「人がケンカすんには、何か理由があるっ」
 祖父が呟く。あいこもそれに頷く。
「そや、おんぷちゃんには深い理由があるんや」