おジャ魔女どれみNEXT
第14話「どれみの決意」
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 寒かった冬も終わり、春休みも半分終った4月の頭。心地よい日差しを浴びながら、春の香りの歩道を赤いお団子頭の少女、春風どれみが考え事をしながら歩いていた。彼女が魔女見習いを辞めて、一年になろうとしていた。
「早いな…この一年、いろいろあったな」
 鮮やかな八分咲きの桜の木を見上げながら、どれみは呟いた。
「ふふっ…ハナちゃんも頑張ってるし」
 どれみ達、魔女見習いが育てた魔女の赤ちゃんのハナは、もう4歳。聞いた話では休止されていた魔女見習い試験の再開に大きく尽力したらしい。ちなみにこの情報は親友でアイドルの瀬川おんぷから、彼女の事務所の社長である魔女のマジョルカを通じて知り得た魔女界の近況だった。
「ハナちゃん、魔女界と人間界の為に出来る事をしているんだ…私達との約束を果たす為に……私達も頑張らないとね…」
“魔女界と人間界。お互いを受け入れられる様に変えていく”
 一年前、ハナとの別れの時に交わした約束だった。どれみはそれからの一年を再び振り返った。そして繰り返すように呟く。
「私も頑張らないとっ」

「お疲れ様でした〜」
 撮影が終了したスタジオのセットで紫のショートヘアの少女、瀬川おんぷは元気に言う。そして立ち去ろうとしている同年代の赤毛の丸っこいツインテールの少女を呼び止めた。
「りずむちゃん、良かったね」
 呼び止められた少女、おんぷと同年代のアイドル星河りずむは振り返り、おんぷをさめた目で見つめる。
「あなたは何もして無いでしょ」
「まぁ、そうだけど…とりあえずね」
 それでもおんぷは明るく言う。りずむはおんぷに一礼して帰って行った。
“諦めないわ…彼女も魔女界と人間界の架け橋になる資格のある子だから”
 おんぷは決意の目でりずむの後姿を見つめていた。そこにおんぷの母親でマネージャーの美保がやって来た。

 おんぷの所属事務所ルカ・エンタープライズにどれみはやって来た。おんぷに相談したい事があった為と魔女界の情報を得るために…。すると事務所内には同じく元魔女見習い仲間で親友、眼鏡と大きなリボンが特徴の藤原はづきの姿があった。
「はづきちゃん」
「どれみちゃん」
 二人は意外そうにお互いの名前を呼び合う。そこに黒いフード付きマント姿の少しふっくらした魔女、マジョルカが現れて言う。
「おんぷはもうじき仕事から戻るから、待っておいで。それから、はづき…これは例の物よ」
 マジョルカははづきにB4サイズの封筒を手渡した。表面には♪マークが変形した感じの魔法文字で何やら書かれている。
「はづきちゃん、それは?」
 どれみは不思議そうにはづきに尋ねる。はづきは封筒の中身を確認しながら言う。
「魔女界の音楽の楽譜よ」
 中には魔法文字で書かれた楽譜が数枚出てきた。
「はづきちゃん、それ、読めるの?」
 どれみの問いかけに笑顔で頷くはづき。
「時々、ここでマジョルカさんとおんぷちゃんに習っているから…少しだけならね。たぶん範囲は狭いけど、少しずつ、魔女界の音楽を人間界に伝えていけたら良いなって思ったの。今の私にはこれくらいしか出来ないから」
「……はづきちゃん。すごいよ」
 どれみははづきの自分なりに魔女界と人間界の将来を考えた行動に感激していた。
「私は、二つの世界の為に何をしたら良いのか、まだわかってないのに…やっぱりはづきちゃんは凄いよ。ももちゃんも海の向こうでマジョバニラさんとお菓子屋さんをやりながらパテェシエ修行しているって聞いたし…」
 どれみの言葉にマジョルカの妖精のヘヘが割り込んできた。
「おんぷも、魔女見習いのりずむって子に、本当の魔法と、魔女界と人間界の架け橋になれる様に導く事ができたら…って、頑張ってるわよ」
「おんぷちゃんも、動いてるんだね」
 どれみは小さく呟く。そこにおんぷが帰ってきた。おんぷの母親は下で車を駐車していて、まだ来ていない。
「あいちゃんもあいかちゃんっていう魔女見習いを導いているわ。二つの世界の将来の為に」
 おんぷはどれみに告げる。
「みんな…いろいろやってるんだ…私だけ、何もしてないよ〜」
「どれみちゃん、焦る事無いわ、どれみちゃんに一番適した方法が必ず、見つかるわ」
 落ち込んでいるどれみにはづきが励ますように言う。
「そうよ、それに気付かないだけで、どれみちゃんも何かしているかもしれないし」
 おんぷの言葉にどれみは思い当たる節が無いと首を傾げる。

 美空中のグランド。卒業して3年生が抜けたサッカー部で、もうすぐ2年生になる小竹哲也がチームの中心となって活躍していた。
「小竹、春風、最近来ないよな〜」
 休憩中、小竹の親友の木村たかおが話しかけてくる。
「3年生…大河内先輩が居なくなったから?」
 もう一人、伊藤ごうじが呟く。
「おめーら、うるせーぞっ」
 小竹は叫んだ。そして赤いお団子が居ないグランドを淋しそうに見つめていた。

 部活を終えた小竹は、一人そそくさと下校する。小竹は学校指定のスポーツバッグを前カゴに突っ込んだ自転車をある場所に向けて走らせた。
“キィ”
 しばらくして、自転車は音を立てて止まる。目の前の赤い屋根の家を見上げながら、小竹は苦笑いした。
「……ここに来て、どうしようって言うんだ、俺は…。木村達が変な事言うから…」
 小竹は首を振って、自転車のペダルに脚を乗せ、走り出そうとする。その瞬間、その家の玄関の扉が開いて、少女が出てきた。小竹は焦って自転車を倒してしまう。その音に気付いた少女が走って家の前の道路に飛び出してくる。