おジャ魔女どれみNEXT
第16話「結成!魔法研」
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 春のやわらかい日差しに照られた木造の建物、美空中学校の旧校舎。そこに赤いお団子を二つ乗せた髪形の少女と、その後ろを段ボール箱を抱えた少年3人がついていく。4人は校舎の階段を上って三階に入って行く。
「ああっ…重ぇ〜」
「さっさと行け、バカっ」
 少年の内、背の高い少年が愚痴り、その後ろを歩いていた少年が面倒臭そうに告げる。もう一人のツンツン頭の少年は無言でお団子頭の少女に付いて行く。少女は廊下の一番奥の部屋の鍵を開け、扉を開いた。中は綺麗に片付いた何も無い部屋で、本の入っていない本棚と長方形の実験机が一つとパイプ椅子が何脚か置いてあるだけだった。
「ありがと、その机の上に置いてくれるかな」
 少女に言われて、少年達は机に段ボール箱を置いていく。
「春風、なかなか良い部屋じゃ無いか〜」
 背の高い少年…長谷部たけしは部屋の奥の窓から見える美空市の街並を眺めながら、お団子頭の少女…春風どれみに声をかけた。ツンツン頭の小竹哲也は、くたびれた肩をほぐす様にグルグル回しながら、箱の中身を見る。
「魔法関係の本ばっかりだなぁ〜。これを春風の家から運んだんだから、けっこうしんどかったぜぇ〜」
「お前、運動部だろ」
 パイプ椅子に腰掛けた矢田まさるという少年が小竹に告げる。どれみは段ボール箱から本を取り出して本棚に並べながら言う。
「いや〜、ほんと、助かったよ。矢田君と長谷部君って言えば、知っている男子で一番頼りになるっすから〜」
 4人は小学校からの同級生だった。窓際の長谷部は照れながら言う。
「そっかぁ…こういう事なら、何でも任せろよ」
「よく言うぜ、長谷部は工藤、矢田は藤原に頼まれたんだろ、春風を手伝えって」
 小竹が呆れて言う。二人とも、それぞれ仲の良い女子に頼まれての手伝いだったらしい。
「うるせーぞ、小竹っ」
 矢田は怒りに任せて言う。どれみは慌てて二人の間に入る。
「ストップっストップっ。それよか、二人とも、この魔法研入らない?」
 どれみは話を変えるように矢田と長谷部を勧誘する。ここはどれみが立ち上げた魔法研究会というクラブの部室なのだ。
「おい、春風、さっきから微妙に俺を無視してないか?」
 小竹は訝しげにどれみに問う。さっきからのどれみの話は矢田と長谷部を相手にしているからだ。しかしどれみはサラッと言う。
「小竹はサッカー部じゃん。鍛えてるし、誘っても無駄でしょ」
 そう言われた小竹は何処と無く寂しそうにしている。長谷部は窓を開けて、窓の下を覗き込みながら答える。
「俺、帰宅部やってるし。そう言えば矢田よ〜。この校舎って出るらしいぜ」
 長谷部は窓の下に見える校舎の裏庭の古い井戸を見つめていた。
「長谷部、黙れよ」
 矢田は突然長谷部を睨み付ける。矢田はお化けや幽霊が苦手なのだ。長谷部もそれを知っていて面白がってからかっているのだった。
「お前、ここに入って、ジョリカマより利くおまじないでも研究したらどうだ?」
「んだとぉ〜。ジョリカマじゃね〜、マジョリカだぁ〜」
 短気に怒った矢田が長谷部に殴りかかろうとする。矢田にとってのマジョリカは幼馴染の藤原はづきから教わったお化けが怖くなくなるおまじないの言葉だった。それはある意味、特別な言葉だった。
「もぉ〜ケンカするなら、出て行ってぇ〜!」
 どれみの叫び声に男子3人は逃げるように部屋を飛び出して行った。

 部室を片付けた後、どれみは部活設立の為の書類を手に生徒会室に行っていた。
「しつれいしまーす」
 どれみが扉を開けると中にはウェーブのかかった栗色のロングヘアの女性が何やら書類に目を通していたが、どれみの声に気がついて、顔を上げて、どれみを見つめる。整った美しい顔がどれみに向けられて、どれみは思わずドキっとする。彼女は生徒会副会長の“秋月めい”というどれみの一年先輩の3年生だった。
「部活設立の申請ね。話は千葉先生から聞いているわ」
 めいは手にしていた書類をどれみに見せながら言う。
「あっ…それは」
 どれみは呟く。それは先日、どれみが書いた“魔法研究会”の活動内容をまとめたものだった。
「面白そうなクラブね。設立がんばってね。設立には基本的に生徒会の承認が必要なの。それから5人以下の場合は同好会扱いになって、部費が出ないから…」
 めいは少し早口に説明していく。
「お、お願いしますっ」
 どれみは申請書を秋月に手渡して、生徒会室を後にした。そんなどれみの後姿をめいは物珍しそうに見つめていた。

「さてと、人集めしないとっ」
 廊下でどれみは気合を入れていた。その日は新入生の仮入部期間中とあって、一年生はいろんなクラブを回り、上級生は進入部員の獲得に大忙しで、放課後でも結構、学校に生徒が残っていた。どれみは学内の大きな連絡用掲示板の前にやってきた。そこには各クラブのポスターが隙間無く貼られていた。その隅っこに“魔法研究会”の派手はポスターが貼ってある。そこにはかなりディフォルメの効いたどれみが魔女服を着て魔法陣を描いているイラストが描かれていた。
「さっすが、みほちゃん。いい仕事してますね〜」
 どれみは魔法研のポスターを見てほれぼれしている。みほちゃん事、丸山みほは漫画家志望で、お話作りの達人の横川信子と組んで、数々の作品を生み出している。ちなみに二人とも帰宅部であるが、創作活動で部活並みに多忙らしい。その合間を縫って、どれみの為に描いてくれたポスターだった。
「それじゃ、勧誘がんばるよ!」
 どれみはポスターの前で声をあげる。たった一人のスタートを切ったのだった。