おジャ魔女どれみNEXT
第17話「怪傑!魔法研」
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「りずみちゃん、お疲れ様でした」
「お疲れ様でーす」
 赤毛のツインテールの少女りずみはスタジオ内のスタッフに明るく挨拶して、隅のベンチに腰掛ける。疲れた体を癒すため、近くのテーブルに置かれていたドリンクを口にする。そして小声で芝居っぽく呟いた。
「私は星河りずみ…芸能界で活躍する傍ら魔女見習いとして修行する中学2年生……私は…」
「り・ず・み・ちゃん♪」
 りずみは不意に声をかけられて、驚いて顔をあげる。目に入ったのは紫の髪。りずみと同い年の芸能人“瀬川おんぷ”がりずみの前に立っていた。おんぷの顔を見たりずみは少し不機嫌そうな顔を見せる。おんぷはそんな事お構いなしに話し始める。
「どれみちゃんの魔法研に入ったそうね」
 おんぷの口調は嬉しそうだった。りずみは意図的に忘れていた事を、おんぷの言葉に思い出さされ、さらに不機嫌な顔を見せる。そんなりずみの顔を見たおんぷはクスっと笑う。
「何?」
 りずみは不愉快そうに言う。
「ごめんなさい。私も昔…あなたみたいだったのかなって思って…。でも、あなたはもう安心ね。本当は私がそうしてあげたかったんだけど。じゃ、またね」
 おんぷはそう言いながら、自分の仕事…撮影に戻って行った。りずみはおんぷの言葉の意味が理解出来ずに首を傾げるだけだった。

 夕方、りずみは芸能界での仕事を終えて、美空市の自宅マンションに戻ってきていた。帰って行くマネージャーの車をマンションの入り口で見送るりずみ。そして真っ赤な夕日を何となく見つめてみる。
「何で、元魔女見習いの人って、お節介なのかな……」
“バンッ”
 何気なく呟いたりずみに背後から誰かがぶつかって来た。その勢いでりずみはその誰かと一緒に押し倒されてしまう。
「ごっ…ごめんなさいっ、お怪我はありませんか、私…不注意で…」
 倒れたりずみに覆い被さっていたその少女は慌てて起き上がり、頭を下げて謝りながらりずみに手を差し出す。
「いたたた……」
 りずみはしりもちをついたお尻を摩りながら、もう片方の手で少女の手を取って、起こしてもらう。起き上がったりずみは相手の少女の姿を見つめて呟く。
「カレン女学院の制服」
 有名な中学校なので、りずみも制服ぐらいは知っていた。その制服を着た大人しそうな少女は、落ち着き無くキョロキョロしながら、りずみの様子を心配している。
「大丈夫ですか?」
「ええ、平気」
 りずみはそう言って笑ってみせる。カレン女学院の制服の少女はほっと安心する。
「それじゃ…私はこれで…失礼します」
 少女は周りを気にしながら小走りで去って行った。
「ん?」
 その少女の行動が理解できず、りずみは首を傾げた。

 翌日の美空中学校。登校してきたりずみは下駄箱の所で赤毛のお団子左右に乗っけた髪型の少女…春風どれみに声をかけられた。
「りずみちゃんおはよっ。今日はオフなの?」
「うん」
 りずみは靴を履き替えながら答えた。
「そっか、じゃぁ、今日は一緒に部活できるね」
 どれみはそう言って嬉しそうに教室へりずみを引っぱって行く。りずみはまだ閉めていない自分の下駄箱の蓋を気にしながら、なすがままにどれみに教室まで連行されていく。

 カレン女学院の2年生の教室。そのクラスの委員長をしている伊集院さちこは、疲れきった目でため息をついていた。たまたまさちこの机の近くを通りかかった藤原はづきは、そのため息に気がついて心配そうに話しかけてきた。
「伊集院さん、何か心配事でも?」
「…藤原さん」
 さちこは顔を上げて、はづきを見上げて呟いた。
「話して、何か力になれるかもしれないわ」
 はづきは大きな眼鏡が特徴で、その眼鏡の奥の優しい瞳がさちこに安心感を与えていた。そんなはづきだから、さちこは思い切って話し始めた。

 さちこの切実な話の途中に無遠慮に高い声が割り込んでくる。
「何ですのっ、それはっ…ワタクシを差し置いて」
 同じクラスの高飛車なお嬢様…玉木麗香が信じられないように声をあげていた。さちこの話を勝手に聞いていたのだった。それにはづきは冷たく突っ込む。
「玉木さん、ストーキングされたいの?」
「いえ、そうでは無いですが、それではストーカーが付いてもおかしくないほど魅力に溢れているワタクシの立場がありませんわ」
 玉木の自己中で自信過剰な話は思いつめていたさちこの顔に笑顔を与えていた。さちこの悩みは最近、常に誰かの視線を感じ続けているという事だった。つまり最近、ストーカーに付け回されているらしいのだった。
「警察に通報してみるとか…」
 はづきは提案してみた。さちこは首を振って言う。
「駄目っ、もしかしたら私の勘違いかもしれないから…」
 控えめなさちこに対して玉木はさも当たり前のように言う。
「確かに自意識過剰って事もありますわね」
「それは玉木さんの事じゃ?」
 はづきは即座に突っ込んだ。
「何だか、今日の藤原さん、妙に私に突っかかりますわね」
 玉木にそう言われてはづきは微笑んだ。今は自分の意見がはっきりと言える自分を感じたからだった。その事があの小学生時代の魔女修行の事を思い出させる。そしてそれは親友の赤い髪のお団子ヘアの少女の後姿を連想させた。はづきは思い出したようにさちこに告げる。
「私に良い考えがあるの」
 はづきの言葉にさちこは少し心が軽くなった様に微笑む。
 
 給食の時間が終わって昼休みをむかえている美空中。優しい日差しが降り注いだ心地よい教室の窓際。お腹を満足させたどれみは机に伏せる形で気持ちよさそうに転寝していた。クラスメートの女子数人がその寝顔があまりにも気持ちよさそうなので、声をかけず見守るように見つめていた。しばらくして…
“ガガガガガガガ……ガガガ”
 何の前触れもなく騒音が響く。それはどれみがマナーモードに設定して机の中に突っ込んでいた携帯電話の着信を告げるバイブレーションだった。それが机の内部の壁や教科書、ノートを振動させて騒音と化してしたのだ。
「なっなにっ、道路工事?」
 どれみはそれに飛び起きた。見ていた女子達が声を出して笑い出す。少し寝ぼけているどれみはそれに間抜けに見つめながら、気が付いて、机から携帯電話を取り出した。そこには親友からメールが着信していた。