おジャ魔女どれみNEXT
第19話「交渉人りずみ」
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 芸能人、星河りずみは仕事の関係で数日ぶりの登校にのんびりと羽を伸ばしていた。普通の学校生活を送るのも役者としての経験値を上げる為に必要と考えているのだが、実際は仕事の合間の息抜きに近くなっていた。
「明日は……“カリ鉄”の試写会かぁ」
 自分の席でグダーっとしていたりずみは感慨深げに呟く。数か月に及んだ映画撮影の日々の記憶が蘇る。カリ鉄こと「カリスマ鉄板焼職人」は瀬川おんぷ主演の映画で来月公開予定だった。明日の土曜はその試写会イベントが催されるのだ。この映画の主役“瀬野藍子”役のオーディションではおんぷとひと悶着あったりずみだったが、りずみ自身も藍子の好敵手役として出演していた。その関係で舞台挨拶に出るのだ。ただ、りずみは何となくおんぷに会うのが憂鬱だった。未だにおんぷとの間に確執がある訳では無く、ある意味、完璧と言える彼女が少し苦手なのだった。
「明日……ボイコットとかは無理よね」
 などと、溜息を洩らすしていると、不意に声をかけられた。
「りずみちゃん、何してるの、行くよ」
 無遠慮にりずみの世界に入ってくる。それは赤いお団子2個タイプの髪型がトレードマークの少女、春風どれみだ。どれみはりずみを引っ張って歩き始める。校舎を出て、体育館を通り抜け、旧校舎、どれみ達の部室へと向かっているのだ。そう、既に時間は放課後で、部活が始まる時間だという事にりずみは気がつくのだった。自分の手を引っ張るどれみの頭のお団子を見ながらりずみは思っていた。りずみも同じ赤毛で、髪型は左右にお下げを作る形だ。そのお下げの形がハート型のシルエットを作り出すのが、りずみのチャームポイントだった。同じようにどれみの髪型をシルエットで考えると、何故か甲高い声が思い出されるのだった。それは世界的に有名なネズミのキャラクター。電気を出さない方の。それを思いりずみは笑いを堪えていた。
 旧校舎三階の一番奥にある部室に到着すると、室内では部員の佐藤なつみと冬野そらの他に馴染みの薄い男子が数人、何やらケーブルを手にウロウロしていた。
「帰宅部の中田君と長谷部君と矢田君」
 どれみはりずみに紹介する。仕事で休みがちなりずみはクラスの男子はまだ顔と名前が一致していないのだ。
「部室にインターネットを繋いでもらってるんです」
 そらが説明する。パソコンに詳しい中田ごうじが指揮をとり、暇そうな矢田まさると長谷部たけしは手伝いに駆り出されたみたいだ。
「でもよ、どうすんだよ。ここ旧校舎だぜ」
 長谷部がめんどくさそうに言う。建物も設備もすべて旧式のこの校舎に時代の最先端的なモノなんてと言いたいのだ。
「調べた所、理科準備室にまではネットワークが来ているみたいです。そこからLANケーブルを引っ張ります。さ、行きましょう」
 と言って中田はケーブルの束を手に出ていく。矢田と長谷部はそれにだるそうについていく。小柄でインドア派の中田に従う肉体派の二人という構図は何か面白かった。実際にケーブルを敷き始めるというアクションに移った事で矢田と長谷部も興味を示しだし、何処をどう這わせるかで、いろいろ意見を出し始めた。
「よく、パソコン使用の許可が出たわね」
 りずみは不思議そうに尋ねる。どれみは答える。
「調べ物がメインだからね、うちの魔法研究会は。それを秋月副会長が上手く主張してくれてね」
 生徒会副会長の秋月めいも魔法研のメンバーだった。今日は会議で不在なのだ。
「今日の部活はパソコンのセットアップで終わりそうだし、中田君達に任せとけば問題無いと思う。それでね、りずみちゃん、ちょっと来て欲しい所あるんだけど、良いかな」
「別に予定無いから良いけど」
 とりずみが曖昧に答えているとどれみはなつみとそらに手を振って部室を後にした。りずみはてっきり“みんなで”だと思っていたのが“二人だけ”だった事に戸惑いながらも、なす術もなく連れて行かれる。

***

 りすみは何故か美空市一のお嬢様学校として有名はカレン女学園の前に立っていた。
「何で、いきなりカレ女?」
「さ、行くよ」
 どれみはりずみの疑問など置いてけぼりで学園内に入って行く。そして真っ直ぐに体育館に向かう。体育館にはパイプ椅子が並べられていて、生徒達や外部の人等が疎らに座っていた。ステージの方ではカレン女学院の制服を着た生徒が何人かで楽器を演奏している。
「これって……」
 りずみはその光景に首を傾げる。どれみは何処に座るか選ぶように探しつつ、説明する。
「カレ女の音楽クラブの月一の発表会なんだよ。間に合ったのかな…」
 どれみに連れられてパイプ椅子の間を歩いて、適当な場所で座るりずみは、未だにここに連れて来られた意味が理解出来ない。
「まぁ、次、はづきちゃんの演奏だから。それを聞いて欲しいのさ」
 強引に連れ込んだ事に対する気まずさか、どれみは苦笑いして言う。りずみは考えていた。はづきと言うと、どれみと共に魔女見習い修行をしていた少女で、今はこのカレン女学院に通っている“藤原はづき”の事かと。そうこうしていると、今のグループの演奏が終わり、演奏者が変わり次の曲が始まる。舞台に上がってきたのはメガネとリボンが印象の大人しそうな印象の少女一人だった。りずみは呟く。
「一人なの?」
 さっきの演奏がグループだったからだ。はづきは一人、舞台に立ち、客席に一礼しバイオリンを構えていた。
「まだ、他の子が合奏に加われるレベルに達していないんだって。はづきちゃんですら、猛練習してやっと弾けるレベルなんだから」
 どれみの答えにりずみははづきがどんな曲を弾こうとしているのかと興味が大きくなる。

 演奏が始まった。それは一瞬、楽器がバイオリンである事を忘れてしまいそうなくらい、既存の音楽とは一線を画していた。複雑に絡み合うメロディ、そして融合し合う音はまったく新しい楽器から奏でられている様で、それが移ろい行くように変化していく。しかし、りずみはその音楽が何処と無く聞き覚えがあるような気もし、それがハッキリせずにもどかしくなる。思わず、どれみ尋ねる。
「この曲は?」
「“螺旋のオーロラ”って曲だよ」
 螺旋状に絡み合うオーロラは、まさにこの曲のイメージにピッタリだった。そしてそれを演奏するはづきの技量にも感心してしまう。