おジャ魔女どれみNEXT
第20話「魔法の商店街」
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 美空中魔法研究会。それは美空中学校にある文科系クラブの一つだった。部員は5人。旧校舎の片隅に部室を構え、日夜、魔法や魔女に関わる研究や不思議な実験、まじないが行われていた。その日はインターネットを使った情報収集が行われていた。一年生の冬野そらが事前に調べておいた“気になる魔法関連サイト”のリストをプリントした紙を部長の二年生、春風どれみに手渡す。
「結構、あるんだ」
 細かい文字の並んだ紙を眺めてどれみは呟く。
「情報の真偽は、一つ一つ確認しないといけないと思うけど。何か気になるのある?」  三年生で生徒会副会長の秋月めいはそう言ってパソコンの前に座る。部室には魔法関連の書物が並んだ本棚と、実験に使うゴチャゴチャしたガラクタ。そしてテーブルに色褪せた大きなデスクトップのパソコンが置いてあるだけだった。職員室の余っている古いパソコンを借りているのだ。どれみはリストに目を通していく。
「魔法……商店街?」
 いくつ目かのサイトでどれみは呟く。そらが覗き込んでどれみに告げる。
「魔法をウリにしてる商店街だったような」
「それって、MAHO堂みたいな?」
 窓の外をずっと眺めていた佐藤なつみが振り返り聞いてくる。どれみはMAHO堂に関わっていた者として、もしかしてという期待もあったのだが、めいが素早くパソコンでブラウザを立ち上げ、ポータルサイトに“魔法商店街”とキーワード検索をかける。出てきた検索結果から、いくつかのサイトを見て回り、めいは呟く。
「占いで買い物をサポートしてくれるみたい。でも、何だか怪しいわ。悪い噂もチラホラ」
「それじゃ、実際に行ってみようっ」
 めいの話を聞いて、どれみは突拍子も無く言うが、めいが即答する。
「行くって、大阪まで行くの?」
 その商店街は大阪にあるらしいのだ。どれみは魔法が云々というより、悪い噂の方が気になっていた。魔女には人間嫌いも多い。何かトラブルになっているのではないか。それでどれみは何かしてあげられる事があるのでは無いかと…。

***

 翌日、授業の合間の休み時間。教室でどれみはクラスメートの長門かよこと話していた。
「それで、ちょっと悩んだんだけど、大阪の事ならってあいちゃんに行ってもらう事にしたんだよ」
「そっか、妹尾さんは大阪にいるんだものね」
 どれみから昨日の部活での話を聞かされていたかよこは納得して言った。
「電話したらね、ちょうど明日デートだから、そのついでに見てきてくれるって」
「デートっ」
 さらっと言うどれみはかよこは驚いて聞き返してしまう。
“ガッ”
 教室の何処かで何かが机にぶつかる音がする。どれみはそれを気にも留めず続ける。
「あいちゃんね、今、アンリマー君って人と付き合ってるんだよ」
“ポキッ”
 教室の何処かでシャーペンの芯の折れる音がする。
「その彼がね、小1の時からずっとあいちゃんを想ってくれていてね。去年、やっと付き合うようになった訳なのさっ」
“バキッ”
 どれみの席の三つ前の席に座る少女が手に持っているシャーペンが真っ二つに折れる。その顔は怒りに歪んでいる。その前に気の弱そうな少女が居て、おどおどと尋ねる。
「信子ちゃん、大丈夫?」
「み…認めないわ」
 信子と呼ばれた少女、横川信子は低く唸るように言う。尋ねた方の丸山みほはビクビクするだけだ。さらに後ろの方からどれみの声が聞こえてくる。
「明日は“カリ鉄”の公開日でしょ。一緒に行くんだって。劇場の近くにその商店街もあるらしいからさ」
“グシャ”
 信子はさっきまで書いていた原稿を握り潰す。そして呟く。
「明日、カリ鉄に……それは好都合だわ。みほみほっ、お願いがあるのっ」
「はい?」
 信子の迫力にみほは拒否できず、自信なさげに頷いてしまう。

***

 翌日、大阪の繁華街を息を切らせて走る少女がいた。普段よりは幾分お洒落をしつつボーイッシュにまとめた妹尾あいこだった。しかし、口調はいつもと同じ、いや、いつもより厳しかった。
「ああっ、あかんわ。も〜アンリマーのドアホっ。あんたが寝坊するからぁ」
 原因はあいこの後ろを眠たそうな顔をしてついて来る少年にあった。彼はアンリマーこと有馬健一という。
「いやスマン。でもな、眠い時には寝る。それが人間の正しい生き方やろ」
「そんなん知らんわっ。約束してんねんから、ちゃんと起きて来いやっ。もう〜、一回目の上映とっくに始まってるやん」
 アンリマーの腑抜けた言い訳にあいこは青筋立てる勢いで怒り、時計を見ながら嘆き始める。アンリマーは不思議そうに尋ねる。
「何でそないに朝一に拘るんや」
「朝一の上映前に舞台挨拶でおんぷちゃんと信ちゃんが出るんや」
 あいこは親友の晴れ舞台に駆けつける事が出来ず悔しそうに言う。アンリマーは納得しつつ、サラッと言い返す。
「何やそないな事かいな。後で会ったら良いやん。親友やろ」
 アンリマーの前を歩くあいこは振り返り、怒りに任せて大声で言う。
「だからお前はアホやねんっ!! おんぷちゃん達、お昼には名古屋、夜は東京で舞台に立つんや。ものごっつう忙しいんやっ」
 それにアンリマーは驚いて立ち止まってしまう。周りを歩いていた人達が何事かと足を止める。慌ててアンリマーが大声で言う。
「お騒がせしてすいません。何でも無いんで、皆さん、行ってくださーい」
 アンリマーの機転で立ち止まっていた人達がまた動き始める。あいこは小さな声で言う。
「ごめん」
「いや、悪いんはワイやし。……でもな、あいこ、入場券持ってんの?」
 アンリマーは何でもないという表情を見せながら、ポツリと尋ねる。
「前売り券あるけど」
「いや、それを劇場で引き換えたのかって事」
「それはこれからやん」
 あいこはそう言って首を傾げる。アンリマーは説明する。
「そういう挨拶とかあるやつはたいてい数日前に前売り券を入場整理券に交換してもらうんや。だから、当日にいきなり行っても、すでに満席って事もあるっちゅーこっちゃ」
 何故か詳しいアンリマー。何度かヒーロー物の映画で俳優の舞台挨拶の回に参加していたみたいだ。