おジャ魔女わかば
第2話「わたしの魔法」
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「それじゃぁ〜、出してぇ〜〜」
 どんより虹色の空が広がる魔女界。丸っこいピアノを模した魔女見習い試験試験屋台の前で細身の試験官魔女モタがいつもの調子で9級試験の問題を出題しようとしていた。受験中の黒色の魔女見習い服の少女は、問題を最後まで聞くことなく手にしていたバトン型のポロンをクルリと回して、魔法のモーションに入った。モタに続いて問題を言おうとしたもう一人の試験官魔女で、少し大柄のモタモタは彼女のペースでゆっくりと驚いて言う。
「ちょっと待ってぇぇ〜、まだ出して欲しい物を言っていないわよぉ〜」
 しかし、黒色の魔女見習いはお構いなしに呪文の詠唱に入っていく。
「パルーナスワン パパナノクーヘレン 青い色の紅茶よ、出てきて」
“ポンッ”
 少女の魔法で青みがかった色合いの紅茶の入ったカップが2個出現した。
「あらあら〜〜、どうして問題がわかったのぉ〜」
 モタはそう言いながら、紅茶を口に運ぶ。その申し分ない味に笑顔がこぼれる。モタモタも驚きながら紅茶を飲んでいる。かなりスローペースで有名な二人ゆえ、あまり驚いているようには見えないのだが…。
「お二人は直前の試験でケーキか何かを食しているみたいですね」
 しゃもじに乗った少女の師匠の魔女ガエルが屋台の隅っこに残っているお皿を指差して言う。そして続ける。
「そうなると、次は飲み物が欲しくなるのではと…でも普通の物が出題される筈は無い。試験官の様子を観察し、モタモタがそこの青い花をチラチラ見ていた所から、推測したというところでしょうか」
 魔女ガエルの説明に少女は頷く。
「あらあら〜、見抜かれていたのね〜。凄かったから飛び級で8級も合格にしちゃうわ〜」
“チリンチリンチリン”
 モタモタは鐘を派手に鳴らしながら言う。少女は飛び級にさして嬉しそうな表情も見せず、淡々と試験官を見つめている。
「それじゃぁ〜、妖精を授けますね〜」
 モタがそう言って妖精を呼ぶが、いっこうに妖精は姿を見せない。
「あららぁ〜、またなのぉ」
 モタモタはとろとろと試験屋台の裏に回り、なにやら綺麗な装飾のついた箱を持ってきた。
「さっきのぉ〜魔女見習いの時にもぉ〜妖精の受領に戸惑っちゃったけど〜、どうなっているのかしらぁ〜」
 箱の中を覗き込んだモタモタは、その隅っこで丸まっている小さな妖精をつまみ出して、少女に手渡した。
「ル……ルゥ」
 黒い小さな妖精は怯える様な瞳で少女を見上げる。少女は少し表情を和らげて言う。
「ルルっていうの?私はあずさ。よろしく」

***

 私は桂木わかば、小学4年生。ひょんなことから魔女修行することになりました。この前受けた9級魔女試験、わかばの試験の後にこんなやりとりがあった事をわかばはまだ知りません。今のわかばは、懐かしい妖精の友達に会う為、ひたすら修行をがんばっている訳で…。

 虹宮の山手にある占いの館魔法堂。その庭に緑色の魔女見習い服を着たわかばとスコップに乗った魔女ガエル・マジョミカ、そしてマジョミカのお供の桃色の妖精キキがいた。ちょうどわかばの魔女修行の最中のようだ。
「今日は、何するの?」
「この前、箒の乗り方を教えてなかったからな。乗ってみ」
 わかばはマジョミカに言われるまま、胸のタップから魔法の箒を取り出して、それに跨いでみる。
 数分後、わかばは自分の箒で酔って気分が悪くなり倒れた。
「普通、9級受かったら箒ぐらい乗りこなせるはずじゃが…」
「わかば、不器用だったのね」
 マジョミカとキキの心配をよそにわかばはふらふらとつぶやいた。
「私の愛馬は凶暴です」

 座り込んで休憩していたわかばは古ぼけた感じの洋館風の建物を見上げて訪ねる。
「魔法堂みたいな魔女のお店って他にもあるの?」
「魔女が人間界でやっているお店はたいてい魔法堂みたいな名前がついていて、世界各地にたくさんあるわ。ただ、ひっそりとやっているから、気づく人は少ないでしょうね」
 キキが説明してくれた。
「ふんっ、そう簡単に人間に見つかるようじゃ、やっとられんわっ」
「マジョミカ、私に見つかったじゃん」
 何気なく言ったわかばの言葉にマジョミカは物凄い形相でわかばを睨み付けるが、元が魔女ガエルなので、わかばはそれにふきだしてしまう。二人のやり取りをみて苦笑いしながらキキが言う。
「まぁ、確かに魔女ガエルの呪いがある現状では、そんなに派手な事はできないのよね〜」
「魔法堂って占い屋さんのチェーンなの?」
「ううん、いろんな業種があるわ」
「じゃあ、なんで占い屋なの?」
「マジョミカ、とりえがないから…。占いぐらい魔女なら誰でもできるわ。なのに、いきなり魔女教師やめて、魔法堂の開業許可とって人間界に…」
 わかばとキキの会話にマジョミカが首を突っ込む。
「キキ、要らん事言うな」
「良いじゃないの、わかばとは長い付き合いになるかもしれないんだから」
 わかばはキキにえらくなついていた。ちょうど話し易いお姉さんという感じだったからだろう。
「ねぇ、キキ。キュキュのこと教えて」
 わかばの問いにキキは一呼吸おいて、話し始めた。
「10年前、姉さんの主人の魔女が亡くなったの、それを期に姉さんは姿を消した…妹の私に何も言わず。きっと何か理由があると思うんだけど…。今ある情報は、2年前、人間界で赤い妖精が目撃されたって事と1年前わかばがこの街で会ったって事だけ」
「マジョミカ、もしかして、キキのために、この店を…」
 わかばは閃いたようにマジョミカに言う。マジョミカはわかばとキキから顔を背けて答えた。
「魔女界での生活、魔女との付き合いが嫌になっただけじゃ」
 マジョミカは素直じゃなかった。