おジャ魔女わかば
第3話「友達ならば…」
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「最近…わかばの横顔を見る事が多いなぁ…」
 一人の帰り道、少女はボソリと呟く。遠くで救急車のサイレンの音が聞こえてきた。その音に振り返る。
「一年前…私は、わかばを守ってあげられなかったから…なの」
 少女はため息をついて歩き出す。

***

 翌日。川井かえではいつもの様に登校し、教室へ入って行く。そこではいつもの様に羽田勇太と佐橋亮介のコンビがしょーも無い話をしているのだが…。かえでは二人に尋ねる。
「わかば、まだ来ていないの?」
「うん、まだだね」
 勇太が答える。亮介は不機嫌そうに言う。
「最近、いつもギリギリで来るよなぁ、桂木のやつ」
「そうなのよね…最近、何だか付き合いも悪いし」
 かえでも、ずっと気になっている様に言う。
「絶対…何かあるよな」
 亮介は疑うような口調だった。かえでは俯きかげんに小さく呟く。
「前は…何でも話してくれたのに」
 亮介と勇太は、そのかえでの寂しそうな表情に何も言えなくなってしまう。そこにクラス担任の弥生先生が入ってきた。もうすぐチャイムが鳴って朝のホームルームが始まる時間なのだ。
「さぁ、今日も元気出して勉強するよ〜ん」
 弥生先生が元気にそう言うと、児童達はバタバタと自分の席に戻っていく。そんな中、教室の後ろの扉から緑色のツインテールがコソコソっと入ってきて、自分の席に座る。桂木わかばだった。
「ふぅ〜、間に合ったよ〜」
 わかばはホッとして言う。わかばの隣の席に座っている亮介が小声で尋ねる。
「何してたんだ?」
「朝れんが…って、なっ何でも無いんだよ」
 わかばは慌てて、自分の口を両手で塞いで首を振ってみせる。亮介はますます疑うような目でわかばを見つめる。わかばは困った様に冷や汗をかく。そんなわかばを救ったのは弥生先生の声だった。
「佐橋くーん、ホームルーム始めるから、わかばちゃんじゃ無くて、先生を見つめてちょうだいね」
 先生の言葉で教室に笑いがこぼれた。そんな教室でかえでが笑っていないで俯いているのにわかばは気が付いた。
“……かえでちゃん”

 授業中。わかばはずっと、少し元気の無いかえでの様子を心配そうに伺いながら考え事をしていた。
“かえでちゃん…どうしたんだろう”
 かえでが悩んでいる原因が自分にあるとはつゆしらず、わかばはかえでの為に出来る事を探していた。そして見つかった物は…スカートのポケットに入れてあるアイテムだった。
“こんな時の為の魔法だよね”
 魔女見習いになって日の浅いわかばはとにかく魔法を試してみたかった。しかし、魔女見習いにとって魔法はただじゃない。魔法玉と言うエネルギーを買って手に入れなくてはならないのだ。買い物の時も広告などを吟味して、多少遠くても安い店を選んでしまうわかばだったから、そのお金がかかる魔法を使う事に慎重になっていた。

 昼休み、わかばは屋上で一人、風にふかれていた。その瞳は手にした魔女見習いタップを見つめたままで、口からはため息が漏れる。ずっと、かえでを元気付ける為の魔法の使い方を考えていたのだが、名案が浮かばないのだった。
「もっと上手に魔法が使えれば…きっとかえでちゃんを…。私って魔法の才能無いのかなぁ…ここ最近、毎朝、マジョミカの早朝特訓だもんなぁ…それでもあまり上達した気はしないし…箒にもまだ上手く乗れないし…マジョミカには怒られてばっかりだし…」
「ねぇ…わかば」
 突然、背後から声をかけられて、わかばは背中が波打つくらい大袈裟に驚いて、アタフタしながらタップをスカートのポケットに突っ込んだ。
「何?…その驚きよう」
 声をかけてきたのはかえでだった。かえでは疑い深くわかばを見つめている。わかばは思わず、かえでから目を逸らしてしまう。
「ううん、何でも無いんだよ」
 拒絶…してしまった者とされた者。それは二人の間に微妙な空気が流れる。
「かえでちゃんゴメンっ」
 わかばはそう言って、逃げるように動き出す。かえではそんなわかばの横顔を見て、黙って俯いてしまう。わかばはその場から走り去り、足早に階段を降りて行く。
「魔法の事は話せないんだよぉ…」
 わかばは蛙の姿になってしまった師匠魔女のマジョミカを思い出しながらすまなさそうに小さく呟いた。

 放課後になり、わかばは誰よりも早く帰宅して行った。気持ちは既に魔法堂に向いていた。魔法の練習をして、早く上達し、かえでを元気にしてあげたかったのだ。一方かえではそんなわかばの走り去っていく背中を見ながら、一人、淋しそうに家路につく。そのかえでの少し後を、かえでの事を心配しながらついて来ている二人がいた。勇太と亮介だった。
「勇太、何か言ってやれ」
「えっ、亮の方が付き合い長いんだからさぁ〜」
「だから、俺じゃ逆効果なんだよ」
 どちらがかえでに声をかけるかで二人は口論を始めてしまう。口論に必死で二人はかえでが立ち止まった事に気付かず、追い付いてしまった。
「私、別にあんたらの同情はいらないから」
 かえでは背中を向けたままそう言って歩き出す。
「かっわいくねぇ」
 亮介は嫌味を込めて言う。
「川井さん待って、そうじゃないんだ…僕ら、わかばちゃんの事…考えないといけないんじゃないかって事なんだよ」
 勇太はかえでを引き止める様に必死に声をかけた。かえでの足が止まる。わかばとかえでと勇太と亮介、幼稚園の頃、近所で幼馴染だったわかばと勇太、かえでと亮介のコンビが小学校入学後に合体したグループだった。普通の友達関係と違って、幼馴染から発展した絆の様なものがあり、何かあっても最後には行動を共にするという感じの関係だった。しかし、一年くらい前から何かが変わってきていた。

***

 虹宮の山手、大きなダムの側に佇む怪しい建物・魔法堂に飛び込んできたわかばはスカートのポケットからタップを取り出して、真ん中のボタンに触れる。軽快な音楽と共に飛び出した緑色の魔女見習い服を既に慣れた手つきで着ていく。
「マジョミカっ、魔法の特訓始めよっ」
 魔女見習い服に着替えたわかばはそう言って魔法を教えてくれる師匠の姿を探す。2階に続く階段の方から不機嫌な顔でスコップに乗って蛙の様な生物が飛んできた。彼女がわかばの師匠魔女のマジョミカ。
「がぁーがぁーうるさいのぉ〜」
  マジョミカの後ろを桃色の服を着たナイスバディの小人・妖精のキキが飛んでいて、珍しそうに尋ねる。
「わかば〜、ずいぶん気合入ってるねぇ〜」