おジャ魔女わかば
第31話「あぁ!おジャ魔女戦隊」
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 ここは魔女界の広大な森林地帯。この深い森の奥に不気味な洋館があった。そこにはマッドサイエンティストの烙印を押され、魔法世界の学会から追放された科学者マジョフロンが住んでいて、日夜、禁断の研究を繰り返していると言われていた。
“ドッカーン!”
 突然の爆発音が静かな森に響いて、周辺の動物達が逃げ出していく。爆発したのはマジョフロンの研究所。爆発と同時に、巨大な生物が空へ飛び出して行った。
「素晴らしい、あれは私の最高傑作だ」
 瓦礫に埋もれ白髪を振り乱した初老の魔女マジョフロンは、そう叫んで気を失った。

***

 日曜日、早朝に放送している特撮ヒーロー番組『機動戦隊バトルレンジャー』、そしてその後のライダーと魔女っ子アニメもきちんと見た後、魔法堂に出勤して来た桂木わかばはかなり興奮ぎみに開店準備をしていた。
「稲妻流星キィィーック!…もぉ〜カッコ良かったなぁ」
 未だに今朝のバトルレンジャーの世界に浸っているみたいだ。手が留守になるわかばに店主の蛙の姿をした魔女、マジョミカが怒鳴りつける。
「貴様、何をサボっておるっ……まったく、昨日、休んで遊んできおった分、今日、取り戻して貰うんじゃからなっ」
 マジョミカのお小言に苦笑いを隠しつつ、わかばはテキパキと仕事を続ける。と言っても、後は少し床を掃除するくらいだった。
“ピロリロリ〜ン”
 わかばの魔法携帯電話ピロリンコールが通話着信を告げ始める。仕事を中断してしまう事に対し、マジョミカが厳しい視線を送っている事を気にしながら、わかばは携帯を見てみる。ディスプレイには魔女見習い仲間の名古屋さくらの名前と電話番号が表示されていた。わかばは慌てて電話に出る。
「もしもし?」
『わかばさん、至急…ガガガ…魔法で…ガガ…法堂の近くにヘリポート出し…ガガ…ださい』
 物凄い雑音交じり電話だったが、それより、さくらの突拍子も無いお願いにわかばは目が点になっていた。
『早く!』
 と、急かされ、わかばはポケットから魔女見習いタップを取り出して、魔女見習い服にお着替えし、急いで魔法堂の裏庭に出る。そこは背後に広がる山の麓になっている。わかばは魔法を奏でた。
「ポリーナポロン プロピルピピーレン ヘリポート出てこーい!」
 雑草が生い茂る裏庭の一部が整地され、円内にH字が描かれたヘリポートが出現する。すぐさまそこに一台のヘリが降りて来た。ヘリが起す風に自慢のツインテールを弄ばれつつ、わかばは唖然とそれを見ていると、ヘリから4人の少女が降りて来た。青いつなぎを着た蒼井つくし、チャイナ服の李蘇雲、普段着の如月みると、そして最後に魔女見習い服を着たさくらが降りて来て、魔法呪文を唱える。
「キキリアトゥーラ クルーラミケラータ ヘリよ消えて」
 ヘリが光の粒子となって消えた後、さくらは振り返り、わかばに告げる。
「わかばさんヘリポート消してください」
言われてわかばは慌てて魔法でヘリポートを消した。

一同はそのまま魔法堂の二階のリビングに入りお茶を始める。わかばはお茶を入れながら尋ねる。
「どうしたの、みんな揃って」
「暇でしたので皆さんを集めまして遊びに来ましたの」
 さくらはさらりと答えた。それに各人、思い思いにわかばに説明する。
「うち、びっくりしたわ、いきなりヘリで来るねんで」
「さくら行動力あるネ」
「まぁ、こうでもしないと人間界で会えないもんね」
最後にみるとが締め括る。魔女界で知り合った仲間なので、みんな住んでいる場所がバラバラなのだ。つくしは大阪、さくらが名古屋、みるとが福井、蘇雲に至っては海の向こうの中国なのだ。どうやらさくらはみんなの所を回って拾い集めて来たようだ。わかばはただただ驚く事しか出来ずにいた。そこに…。
「ごめんくださーい」
 下の店舗スペースの方で声がする。
「あずさちゃんも来てくれたんだ」
 声は日浦あずさの物だった。わかばは嬉しそうに降りて行き、あずさを出迎えた。
「“も”って…。新作の芋羊羹を作ったから味見して貰おうと持って来たのだけど」
「芋羊羹っ、食べたいですぅ。あがって、あがって」
 わかばは犬の様に喜んで、あずさを二階のリビングに通した。リビングに入ったあずさの一言目は…。
「ゲッ」
 わかばはあずさの顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
「なんで、こんなにいっぱい魔女見習いがいるの?」
 あずさの問いにさくらが答える。
「暇でしたから、集まってお茶会をしていますの」
「あずさはん、さっき、ゲッっとか言ってへんかったぁ?」
 あずさはつくしを無視して、部屋の隅の椅子に腰をかけた。

 6人のおジャ魔女達の話題は、マジカルステージの話題になっていた。
「昨日、初めて使ったけど…凄かったよ」
 わかばが思い出す様に言うと、さくらとみるとが興味深そうに覗き込んできて言う。
「私、まだ使ったことありませんわ」
「みるとも、使いたい〜」
「なら、やるしかないネ」
 蘇雲の発言で、今からマジカルステージをやってみる事になる。さっそくタップを叩いたみるとがお着替えを始める。軽快なメロディに合わせ、独自のダンスを取り入れた動きで宙を舞う見習い服をかぶる様に着て、帽子を頭に乗せる。そのまま決めポーズをバッチリ取って…。
「プリティ・ウィッチー・みるとっち!」
 決め台詞。それを聞いたわかば達は目が点になる。さくらが尋ねる。
「みると…何ですの?それ」
「魔女見習いはお着替えの後、こうするのが決まりなんだよ。知らないの?」
 みるとは自信たっぷりに言う。もちろん決まりという訳ではない。春風どれみという魔女見習いがこれを始めて、魔女界に浸透していったようだ。
「決まりなんだ…なら仕方ないよね」
 わかばは納得したらしく、タップのボタンを押してお着替えを始める。残りのあずさを除くメンバーもそれに続いた。4つのメロディーが鳴り響き…うるさい状態になる。それを一階の店舗スペースで聞いていたマジョミカは呟く。
「仕事サボって何やってんじゃか」
「良いじゃないのよ、どうせ、暇なんだから」
 マジョミカの妖精キキが誰も居ない店内を見ながら言う。マジョミカは不機嫌そうにそっぽを向いてしまう。