おジャ魔女わかば
第37話「お菓子の鉄人」
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 2002年元旦。新たな気持ちを胸に抱いて桂木わかばは朝一にマジョミカの魔法堂に飛び込んできた。
「マジョミカーッ!あけましておめでとーっ!」
「んぉ…わかばかぁ〜」
 マジョミカは真っ赤な顔と酒臭い息をわかばに向ける。そこでは魔女ガエルが2匹で宴会をしていた。マジョミカはすでに出来上がっていた。マジョミカの横でマジョフォロンがお酒を飲んでいる。そしてマジョフォロンの弟子のつくしとマジョミカの妖精のキキがおせちをつついていた。
「今日もお邪魔してますよ」
「ちぃ〜っす、わかば、おめでとさん」
「わかば、今年もよろしくね」
 マジョフォロン、つくし、キキとそれぞれに挨拶を済ます。
「つくしちゃん達、来てたんだ。私、あずさちゃんの所にも行かないといけないの……だからマジョミカっ」
 わかばはマジョミカに手を差し出した。わかばの意図する所に気付いたつくしも便乗する。
「なんの真似じゃ〜!」
 マジョミカは白々しくすっとぼける。マジョフォロンはパチンと指を弾いた。わかばの手の平にお年玉袋が現れた。わかばは嬉しそうに礼を言う。
「マジョフォロンさん、ありがとうございます」
「マジョミカ、人間界の風習じゃ、ここで商売しているのなら、従うんじゃ…」
 マジョミカはマジョフォロンに促されて、泣く泣くお年玉を二人に出した。
「無駄遣いするなよ…わかば、マジョリーフの所にもお年玉目当てか?」
「ううん、違うよ。お正月はお店が忙しいんだって、お手伝いに行くの」
 和菓子屋を営むマジョリーフの魔法堂は初詣客をターゲットに元旦から営業しているらしい。
「ほほ〜う、わかば、繁盛期にはたいていマジョリーフの手伝いじゃな…うちはどうでもいいのかぁ〜!」
 青筋をひくつかせてマジョミカがわかばに迫る。
「お酒臭い!カエル嫌い!」
 わかばはダブル不快でへばり付いて来たマジョミカを"バチン"と叩き落した。床に潰れた魔女ガエルのマジョミカは呟いた。
「わしも、マジョリーフの所へ行くぞ…奴にお年玉を貰ってやるぅ〜」
「何言ってんのよ、これから近所の神社で屋台出すんでしょ」
 キキがマジョミカに鋭く指摘する。
「今からって……初詣客狙ってんなら、遅ないかっ」
「えっ、マジョミカ、何するのっ。私、聞いてない」
 呆れるつくし。そしてわかばは驚いて尋ねる。キキが申し訳無さそうに説明する。
「占い屋台よ。わかばは多分、マジョリーフのところだろうって思って黙っていたのよ」
「お前なんて居ても戦力外じゃ」
 マジョミカは嫌味たっぷりに言う。わかばはちょっと嫌そうな顔をして出かける準備をする。
「んじゃ、ウチ等はあずさはんとこイコか」
 こうして、わかばとつくし、そしてマジョフォロンはマジョリーフの店のある京都を目指す事になった。

***

 埼玉県。中心街から少し離れたところにお煎餅中心のお菓子屋があった。しかしまだオープンしていない。降りたシャッターには1月中旬OPENと描かれたポスターが貼ってある。店の上部に掲げられた木製の看板に書かれた文字は“魔法堂”。そう、それは関係者にはすぐわかる魔女の店であった。中では店主の魔女が、新作お菓子の研究をしていた。オープンまで間がないので、お正月返上で頑張っているのだ。
「やっと、女王様の営業許可がおりたわ……立地条件、店のコンセプト、完璧だわ……これでやっとマジョリーフとの永きにわたる勝負に決着がつくわ。私は絶対に負けない……」
 彼女の名はマジョライス。マジョリーフとはパティシエ学校からのライバルだった。実力は互角。しかし勝負に全くこだわらないマジョリーフのために、どちらがパティシエ学校を主席で卒業したか有耶無耶になっていた。その為、マジョライスは異常にマジョリーフにライバル心を燃やしていた。
 そんなマジョライスの厨房で何気なくつけていたテレビのレポーターがはしゃいでいた。
『今、私は人気の和菓子屋、魔法堂さんから生中継しています』
 お正月の特番らしかったが“魔法堂”という固有名詞に反応したマジョライスはテレビを凝視した。
「さすがマスコミ、噂を聞きつけてもうウチに取材に来おったか…って生放送?…まさか!」
 マジョライスは嬉しそうに身だしなみを整え始める。
『いらっしゃいませ〜っ』
 テレビから元気な声が聞こえてくる。お揃いのはっぴを着たわかばとつくしがレポーターを出迎えていた。それで自分の店では無い事を知ったマジョライスは少し照れて、すぐに不機嫌そうなをするが、もしやと思いテレビ画面に食い入る。
『キャ〜ッかわいい!こんなかわいい店員さんが私を出迎えてくれます。それではオーナーの山本葉子さんにお話をお伺いしましょう』
 画面に優しそうな年配の女性、店長山本葉子が出て来て、取材に答えていた。
「マジョリーフ…」
 マジョライスはそう呟き悔しそうに画面を見つめていた。
『今日、お買い物してくれた方で、"お正月あっぱれ天使見たよ”って言ってくれた方には、もれなくこの紅白饅頭をさしあげまっせ』
 つくしが紅白饅頭を手に説明している。
『では、場所ですが…』
 レポーターが地図を出して説明を始めた。
「マジョリーフ、探す手間が省けたわ。さっそく敵情視察に行くとしますか…」
 地図を記憶しテレビを消したマジョライスは厨房を後にして、出かける準備を始めた。

***

 虹宮。魔法堂から歩いて5分の距離に小さな神社があり、元旦ともあり初詣客で溢れていた。道路に面した鳥居を潜り長い階段を登って行くと境内に出る。その階段の両端に色とりどりの屋台が並んでいて、どこも大忙しだ。その階段を途中から横手に入ると小さな池があり、その畔に小さな黒いテントが張られていた。マジョミカの占い屋台だ。そのテントから怒鳴り声が聞こえてくる。
「こんな所で客が来る訳無いじゃろぉーーがぁ!!」
 マジョミカが携帯電話を片手にブチ切れているのだ。占い師に変身しテントで待機しているキキは呆れている。電話の相手はこの神社の住職。30代と若くムキムキらしい。そんな彼が電話越しに陽気な声を響かせる。
『こんな遅くにやってきて良い場所があるハズ無いじゃな〜〜い』
 確かにのんびりしすぎたとキキも思っていたが、場所は遅い早いじゃ無いのでは……とも思っていた。住職は続ける。
『それに、如何わしい屋台はそこで十分でぇーーす』