おジャ魔女わかば
第41話「チェリー・チェリー」
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 真冬の太陽に照らされ輝く黄緑の服の少女が箒で空を飛んでいた。
「わかばさん、ネバギバですわ……次がありますわ」
 この少女、名古屋さくらは魔女見習い一級試験に落ちた友人の桂木わかばを励ますために、わかばの住む虹宮に向かっている所だった。名古屋在住のさくらはのんびりと箒で関西まで飛んで来たらしい。
「わかばさん、待っててくださいね、心の天使さくらがあなたを癒しに参ります」
 さくらがちょうど虹宮に差し掛かった時、突然の突風に煽られ、バランスを崩して箒から落ちてしまった。
「あ〜れ〜っ…これが有名な六甲おろしかしら、なんとかしなくては…キキリアトゥーラ クルーラミケラータ 落下速度よゆっくりになれ〜」
 緊急事態だったがさくらの対応はのんびりしていた。魔法でさくらに対する重力の影響が極端に少なくなり、ゆっくりと地上に降りていく。
「たまにはこういうのもいいですわね」
 重力加速度を極端に減らした自由落下を楽しむさくら。地上に近づいたさくらは、胸の見習いタップ真ん中のボタンをタッチして普段着に戻る。落下地点は森の真ん中だった。さくらは優雅にフワリと着陸する。
「そ、空から人が降ってきたぁ!」
 驚いた少年の声だった。誰もいないと思っていたさくらはその声に少し驚く。振り向くと、自分より年下の男の子がさくらを見て呆然としていた。
「あんた、何者?」
 男の子が不信がって問い掛ける。
「人に名を尋ねる時はまず自分が名乗るのが礼儀ですわ」
「僕は、ケンジ。騎士見習いだ」
 キリっとしたさくらの言葉に男の子は答えた。さくらは騎士と名乗るケンジに笑みを見せて、自分の自己紹介を始めた。
「私はチェリー、わけは言えないけど、お忍びのプリンセスですわ」
 さくらはサラッと言ってのける。ケンジに合わせているつもりなのだが、本人も楽しそうだった。ケンジは“ほんとにぃ?”と疑いの眼差しを向ける。さくらは気にする事なく尋ねる。
「ねぇ、見習いってどういうこと?」
 さくらの問にケンジは、森の奥を見つめながら答える。
「僕には剣が無いから…まだ…見習いなんだ」
“ぐぅぅぅ〜っ”
 さくらの腹の虫が鳴いたのだった。さくらは恥しそうに顔を赤くし笑っている。そんなさくらにケンジは不審げに告げる。
「本当にお姫様なの?お姫様はおなかグゥなんて…」
「お姫様も人間ですわ、おなかが空けばグゥしますわ!それにもうお昼過ぎですし」
 さくらは真っ赤になって主張した。
“ぎゅるるるぅぅぅ〜っ”
 今度はケンジだった。
「騎士様のおなかも元気ですことぉ〜♪」
 さくらが嬉しそうに言う。
「…姫に食事をご馳走します、ついて来てください」
 そう言うとケンジは街の方へ歩き出した。さくらは黙って後をついて行った。

***

 魔女のマジョミカが経営する虹宮の魔法堂、その2階の会議室では自称“魔法使い界の王子”アニニーテと“人間界育ちの魔法使い”龍見ゆうまが朝から緊急会議を行っていた。
「赤い宝珠、白い渦鏡、そして青い光剣…ワタクシの調べでは、剣はこの街の何処かにあると」
 アニニーテが主張する。ゆうまは半信半疑で尋ねる。
「何か根拠があるの?」
「魔法使い界と魔女界をあんなに探したのに無いということは人間界にあると判断したのです。はい」
 アニニーテの回答にゆうまの疑問が深まる。
「じゃあ、なんでこの虹宮が怪しいと?」
「鏡がこの街にあったのは偶然ではないのでは思ったのですよ。剣は大地に封印されていますので移動できません。その剣に鏡が引き寄せられたのではないかと推測しています」
 ゆうまはアニニーテの推測が憶測の域を出ないのに苦笑いを見せる。そこにマジョミカがやってきた。
「まったく、いつまで人の店でくつろぐ気じゃ?」
「くつろぐだなんて、重要な会議ですよ」
 マジョミカの文句にアニニーテが反論する。
「商売の邪魔じゃ、出て行ってくれ!」
「邪魔はしていないと思いますが…」
 今度はゆうまが口答えする。
「ガーッ!わかばは試験に落ちてから落ち込むわ悩むわで、商売にならんし、変なのが店に居座るしぃ…わしは世界一不幸なマジョガエルじゃ!」
 マジョミカは先日わかばが1級試験に落ちた事で、かなり苛立っていた。
「マジョミカぁ…どぉどぉ、この二人にあたっても仕方ないわ」
 妖精のキキがマジョミカを落ち着かせる。
「わかばっち…」
 ゆうまは心配そうに呟いた。しばらくして、下の階で扉の開く音がした。
「やっと来おったか」
 マジョミカはそう言ってスコップに乗って飛んで行く。
「マジョミカ、おはよ」
 その元気の無い挨拶はマジョミカの弟子、桂木わかばだった。先日一級試験に落ち、さらに魔女と人間の寿命差を目の当りにし、魔女になる自信を無くしているのだった。一緒に蒼井つくしと日浦あずさもいる。この二人も一級試験に落ちている。
「お前等、さっさと魔女見習い服に着替えろ。特訓じゃ特訓っ」
 マジョミカに急かされる様にわかば達はポケットから出した魔女見習いタップを叩いた。陽気な音楽が鳴り、各々色違いの魔女見習い服が宙に舞う。それを着ていき、お着替えが完了する。元気が無いのか、いつもの決め台詞と決めポーズは無しだ。もっともあずさはいつもしていないが。
「ほれっ、行ってこい」
 と言って、マジョミカは蹴り飛ばすように3人を魔法堂の外に放り出す。
「試験と同じじゃ、魔法でありがとうを貰って来い!」
 と言うとクルリと回ってマジョミカは店の中へ消えて行く。
「わかばちゃん、今は何もしてあげられないけど、頑張れ」
 ゆうまは二階の窓からわかばを見つめ、そう呟いていた。

***

 わかば、つくし、あずさの3人は虹宮上空に箒で待機していた。
「それじゃ、始めましょうか」
 あずさが言う。
「あずさはん、ウチ等がただ落ち込んでいただけでない事を見せたるわ!行くで、わかば」
「う、うん!」
 街に急降下をかけるわかばとつくしをあずさは追いかける。
「お手並み拝見ね」