おジャ魔女わかば
第44話「つくしのつばさ」
2/6
「わかばっ、高度を下げてっ、早くっ」
 何かを感じたあずさが鋭く叫ぶ。わかばは慌てて箒の先端を下に向け、高度を下げる。すると頭上を何か大きな物が物凄いスピードで通り過ぎていくのを感じた。
「魔女見習いが二人か。そんな姿で私が油断すると思ったか。あんたら、何処のスパイ?」
 ブルーメタリックの髪のメイド――フブキが宙に浮きながらわかば達に問い質してくる。
「あなたこそ、一体っ」
 あずさはフブキを睨みながらわかばと共に脱出できるルートを模索していた。
「あの、私達、つくしちゃんの友達でっ」
 わかばが必死に訴える。
「ドクターフォロンに弟子がいる事は調べればすぐに分かる事だっ。そんな手には乗らない」
 二人が話している内にあずさが小声で呪文を唱える。
「パルーナスワン パパナノクーヘレン 煙幕よ出ろっ」
 辺りに白い煙がたち込め、周りが一切見えなくなる。
「わかば、今の内に逃げるのよっ」
 あずさは力の限り叫んで、自分も箒を急発進させる。
「これくらい空気の動きで……何っ、想定外にノイズが多い。あの黒いのっ、煙に何か混ぜているっ」
 あずさは続け様に魔法を発動させ、いくつかのダミーの人形を飛ばしていた。

 地上では……。
「データ照合完了。87%の確率でマジョミカ所属の魔女見習い桂木わかばと85%の確率でマジョリーフ所属の魔女見習い日浦あずさと断定。両者共にマスター及びつくしの関係者と認識」
 シブキが空に広がる白い煙を見つめながら呟く。

『姉さんっ、補正データを転送するから活用してっ』
 上空のフブキに地上のイブキからの音声通信が入る。
「助かる」
 フブキは短くそう言う。イブキから送られてくるデータで障害となっていたノイズが消えてクリアな索敵が可能になる。即ち、あずさとわかばの位置が丸わかりになる。
「私から逃げられるとっ」
 素早くあずさの位置に移動したフブキ。しかしそこにはあずさの作り出したダミー人形。そして。
“バシュッ!!”
 物凄い水流がフブキを吹き飛ばした。完全にバランスを崩し、水飛沫にまみれながらフブキは呟く。
「圧縮水流……イブキもグルか。こんな初歩的な手にかかるなんて……」
 そのままフブキは墜落していく。墜落地点にはイブキがスタンバっていて、難なくキャッチしてMAHO堂に戻ってくる。

 飛んで来た水流の出所を確認し、そこにMAHO堂がある事に気付いたあずさはわかばをつれてそこに着地する。そしてすぐさま、そこにいたシブキに怒鳴りつける。
「これはどういう事なのっ」
「ここは科学者マジョフォロンの施設です。機密保持の為に魔法を使って近づく未知のモノに対しては警戒しています。まぁ、データ照合の前にフブキが飛び出したのには問題が無いとは言えないのだけれども」
 シブキが淡々と説明する。わかばは申し訳なさそうに言う。
「もしかして、私達がこっそり来ちゃったから」
「まぁ、そう言う事ね。事前に連絡くれていれば歓迎していた筈よ」
 と返すシブキにあずさは不満そうな顔をしていた。そこに気絶しているフブキを担いだイブキが戻って来た。
「イブキ、悪いけど、お客さんをつくしの所に案内して。たぶん裏山の倉庫に居ると思うから」
 フブキを受け取りながらシブキがイブキに言う。わかば達と同年代という外見のイブキがわかば達に一礼して歩き出す。慌てるわかばとまだ不満げなあずさはその後について行く。

「私は悪くないわよ」
 店の奥で意識を取り戻したフブキが言う。暇そうに店番をしているシブキが答える。
「マスターが不在ですから、仕方ありませんよ」
「前は人間の組織だろ。今度は魔女界の王宮。みんなドクターを利用しようとしている。気に入らないね」
 フブキが不満そうに言う。シブキは諭すように言う。
「認められるってそういう事でしょ」
「それが良い事ばかりでも無いでしょ。私達みたいな事もあるんだから」
 フブキはそう言うと黙り込んでしまう。
「でも、おかげで今、私達は……こうしていられる」
 シブキはそう呟いて空を見上げた。

***

「あの、イブキさん達はマジョフォロンさんの弟子なんですか」
 わかばは前を歩くイブキに尋ねる。イブキは振り返る事無く答える。
「いいえ違います。私達はマスターマジョフォロンの助手なんです」
 それってどう違うのよとあずさは首を傾げていた。イブキはそんなあずさの気持ちには気付かずに告げる。
「あそこがウチの倉庫です。つくしもあそこに」
 坂道の上にプレハブの倉庫が見えてきた。中で青い髪の少女が機械弄りをしている。つくしだ。イブキが上がってきた事に気付いたつくしが手を振っている。
「イブキーーっ、どうしたん……ってわかばとあずさはん、どないしたん?」
「客人を連れ来たの」
「へへ、来ちゃった」
 イブキは小さく答え、わかばは照れながらつくしに言った。

「それじゃ……あんたら、フブキとマジでやりあったんか」
 話を聞いたつくしは驚いている。
「まったく、なんて物騒な魔法堂なのよ」
 あずさは未だに不機嫌そうだ。
「まぁ、しゃーないねん。マジョフォロンの技術を盗んで悪用しようとする奴も実際おるからねぇ。去年の秋くらいに一度、盗難に遭ってなぁ。それから、イブキら三姉妹にマジョフォロンの周辺警護と店番をしてもらってんのよ」
「そういう事なの。今回は私達にも非があるって事なのね」
 あずさはそう言って、不機嫌モードを解除する。そしてイブキを見つめて呟く。
「有能なメイド魔女が3人もいるから、つくしとマジョフォロンは発明に集中できるのね」
「ごめんなさい。私達、魔女じゃ無いんです。魔法人形マジカノイドなんです」
 さらっと言うイブキにわかばとあずさは目が点になっている。つくしは改めて説明する。
「マジカノイドって言うのはマジョフォロンが発明した魔力を動力して動く機械人形の事なんや」
 説明するつくしの横でイブキはポケットから取り出した魔法玉を口に入れ、飴玉を食べるようになめ始めた。
「すいません、バッテリーが残り少ないので、補充させてもらいます」