おジャ魔女わかば
第47話「嵐を呼ぶ大魔法使い界」
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 魔女界の流通を仕切っていると言われる魔女問屋の元締めにして元老院魔女の一人マジョドン。頑固者で有名で、あまり関わり合いたくない魔女の上位にランクインする常連でもあった。そのマジョドンの自宅は豪邸と呼ぶに相応しい佇まいなのだが、入るのにも金がかかるのでは無いかと言う噂が立つほどで、それはマジョドンのがめつさを物語っていた。その屋敷の裏庭には無数の扉が漂う一角があった。この扉はいろんな世界に繋がる扉だった。しかし、マジョドンが管理している以上、どの扉も訳ありと言える、いわく付きの物ばかりなのだ。そんな扉の一つの前で男が二人、何やら儀式を始めようとしていた。大魔法使いを名乗るアニニーテとルキアだ。
「…◇◇▼◇■■◆□□□◆▽▽▲▲△…」
 ルキアが人間の耳には聞き取れない言語で呪文を唱える。彼の足元には複雑な魔法陣が描かれていて、その各所に剣と鏡と珠が備えられていた。これらはアニニーテが探し求めていた三種の魔器で、二人の目の前の扉の封印を解く為に必要なものだった。 「ゆうま君、遅いですね」
 アニニーテは空を見上げて呟く。龍見ゆうまは人間界生まれの魔法使いで、魔器探しを手伝ってもらったのだ。封印解除には立ち会うと言っていたのだが、まだ姿を見せない。代わりに少女が二人、興味深そうにアニニーテ達の儀式を見つめていた。魔女見習いの椰下ウララと、昨日、魔女になったばかりの名古屋さくらの二人だ。
「……いつまで続くのかな」
 ウララがしびれをきらして呟いた。
「もう1時間、唱えっぱなしですわ、ルキアさん大丈夫かしら」
「まだ、半分ありますです。この複雑で長い呪文はルキアにしか唱えられませんです」
「ゆうまさんはどうしたのですか?」
 さくらはアニニーテに尋ねた。わからないと肩をすくめるアニニーテ。そこにアニニーテの魔法携帯電話にメールが着信する。
「ゆうま君からメールです。えっと……。わかばっちが大変な事になっているから、ちょっと来れそうにないとの事みたいですね」
 さくらは少し驚く。メールで名前が出てきたのはさくらと一緒に魔女修行をしてきた仲間の桂木わかばの事なのだ。しかし、すぐに微笑む。
「彼氏が一緒ですから大丈夫ですわね。ゆうまさん、開通には立ち会えないかもしれませんが、この扉が開けば、いつでも往復できますしね」
「そのとうりでございます♪」
 アニニーテは嬉しそうに答えた。彼等大魔法使いは過去に魔法使いと仲違いし、新たな世界を求めて旅立った一部の魔法使い達が名乗っている名称だった。旅の果てに大地を手に入れ、大魔法使い界を創造した彼等だったが、その土地は貧しく脆く、大魔法使いは自然と衰退の道を辿る事になる。大魔法使い界と大魔法使い達を救う為に王子であるアニニーテと親友のルキアは二人で長い旅をし魔女界へとやって来ていたのだった。魔女界に援助を求め、さらには封印された大魔法使い界と魔女界の扉を復活させる。それが彼等の使命なのだ。

***

 魔女ガエルの村にある魔女ガエルの医者マジョヒールの診療所。その二階の病室ではベットが四つ並べられていて、4人の少女がベットを埋め尽くしていた。無茶な魔法を使い、水晶玉を破損し、反動で大いなる眠りに陥ってしまった龍見ゆうき。ゆうきを起そうと魔法を使い彼女の夢の中に飛び込んだわかばと李蘇雲、そして如月みるとの3人だ。
「まったく、このパジャ魔女がぁ!」
 マジョヒールが寝ているわかば達の様子を見ながら呟く。同じく病室に居たゆうまが尋ねる。
「マジョヒール先生、“パジャ魔女”って?」
「悪夢の中に入りたがるお節介な魔女の事かな…夢は寝てる時、パジャマを着て見るのが普通ぞい!」
 ゆうまは苦笑いし、わかばを心配そうに見つめた。


「異物!異物!異物!異物!…」
 ゆうきの夢の中に入った筈のわかばは、白い球体に槍を持った手が生えて浮いている変な生き物に追いかけられていた。
「やっぱり、私、ゆうきちゃんに嫌われているのかな〜」
 わかばは逃げながら叫んだ。わかばはゆうきの兄ゆうまと仲が良かった。ゆうきはそれが気に入らなかった。でもわかばは既に和解している物と思っていたのだが……。逃げるのに必死でわかばは気が付いていないが、この夢の番人達の中に蘇雲とみるとが混じっていた。
「異物!異物!異物!異物!…異物はあっちに逃げたヨ、追えーっ!」
 蘇雲が命令して、変な夢の番人達は明後日の方角に駆けて行った。
「わかばちゃん、大丈夫ぅ〜」
 みるとがわかばに肩を貸す。
「もう大丈夫ヨ」
「どうして、二人が?」
 わかばは訳がわからない。
「私達も最初追いかけられたんだけど、そぉが、上手く取り入って仲間になったの。でも、そぉ何したの?」
「“裏取引”したネ、二人は知る必要ないヨ」
 みるとの説明と疑問に、蘇雲はニッと笑って答えた。
「ゆうき、多分あっちヨ、あいつらあっちに異物行かせたくない様子だったヨ」
 蘇雲が指さす方へわかば達は向う事にした。

***

「パルーナパトレーヌ!」
 高速で移動する箒上のあずさから激しい電撃が放たれた。しかし、水晶玉を盗んで逃げる盗賊魔女マジョシルフは左手を一振りするだけでこの電撃を掻き消した。その手にはあのマジョトロンが開発した増幅器付きのブレスレットがはめられていた。
「一体、どうなっているのっ」
「ウチ等の魔力に対抗するだけの魔力を何故か備えたようやな、でもこれなら!ポチットパトレーヌ!」
 今度は蒼井つくしが前に出る。つくしの魔法で巨大なロボットの手が出現した。その“手”はマジョシルフを捕まえるように握る。マジョシルフは魔法を使うが“手”は魔法を弾く。
「その手には、ロイパのドレスと同じ処理をしてあんねん。魔法は跳ね返すで」
「ならば」
 マジョシルフは魔法を使った。マジョシルフが光に包まれ、“手”を自らの両腕でこじ開け、破壊した。
「自分の筋力を魔力で増幅したと言うの」
 あずさが驚愕する。つくしの魔法の手から逃げたマジョシルフは超高速で移動し、あずさ達と距離を取った。
“さすがにあの子達も戦い慣れしてきたか。それに予想以上にこちらの消耗も激しい。何とかしなくては……”
 マジョシルフは何か探す様に心で呟いた。