おジャ魔女わかば
第47話「嵐を呼ぶ大魔法使い界」
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 扉が開くのを待っていたさくらは手持ち無沙汰に自分の水晶玉を覗き込んだ。横からウララも覗き込む。
「さくらさん、それが魔女の証の水晶玉ですか」
 ウララが憧れの眼差しを向ける。
「ええっ」
 さくらがウララの反応に戸惑いながら答える。
「ウララも早く、魔女になってやるですぅ〜」
「焦ってもいい結果は出せませんわ。ゆっくり自分のペースで行けばいいですわ」
 さくらは優しく語り掛ける。
「マイペースなさくらっちに言われますと、妙に説得力がありますね」
 アニニーテの言葉にさくらはムッとする。
「どう言う意味ですかぁ〜」
 アニニーテは予想外に怒り出したさくらに言い訳しようと焦っていると、魔法陣内の魔器が光りだした。ルキアがアニニーテに言う。
「王子、開きます!」 「いよいよでございますか!」
 アニニーテは気持ちを切り替えた。さくらとウララも扉に集中する。扉はゆっくりと確実に開いていった。ウララとさくらが扉の向こう側に期待を寄せる。
「これが大魔法使い界でございます」
 それは荒れ果てた荒野だった。ウララとさくらは声にならなかった。
「…そんな顔しないで下さい、これから豊かになるのですから」
 そう言って、アニニーテはルキアに肩を貸す。
「お疲れ様でございます、ルキア」
「本当に大変なのはこれからです。王子」
 二人は顔を見合わせて頷き合う。そして故郷の土を踏みしめた。アニニーテはさくら達に手を差し伸べた。
「さぁ、大魔法使い界に来た最初に魔女さん」
 二人は戸惑った。
「さくらさん」
「ウララさん、どうぞ」
 さくらに譲られたウララは嬉しそうに扉をくぐろうとしていた。その時、超高速で箒に乗った魔女が突っ込んで来て、大魔法使い界に侵入した。
「あぁっ……最初の魔女がっ」
 ウララはがっくりと肩を落とした。そこにあずさとつくしがやって来た。ちょうどロイヤルパトレーヌの時間切れで元の魔女見習服に戻る。
「今、箒に乗った魔女が来ぃへんかった?」
 つくしはさくらとウララに問い掛ける。二人は扉の向こうを指す。
「おおきに。行くでぇ〜」
 つくしはそう叫んで扉の中に入って行った。
「ちょっと、どうなっていますの!」
 さくらが訳が知りたくて叫ぶ……。
「ごめんなさい、今は時間無いの。後程、説明するから」
 と言って、あずさも扉の中に入って行った。
「アニニーテさん、私達も行きましょう」
 さくらはそう言って扉をくぐる。

「大魔法使い界って、誰もいないんですか?」
 大魔法使い界を数十分歩いて、ウララは大魔法使いと1人も会わないので、思わず呟いた。
「我々以外の大魔法使いはコールドスリープしているんですよ」
 アニニーテは笑いながら答えた。“なぜ?”という顔のさくらとウララにルキアが説明した。
「大魔法使いは絶滅の危機にあります。無駄なエネルギーを使わず、我々の帰りを待っているのです」
「それじゃ、皆さんを起してあげられるという事ですね」
 さくらの言葉にアニニーテ達も嬉しそうに頷く。

***

 ゆうきの夢の中の世界。わかば達は蘇雲の推測によりゆうきの姿を発見した所だった。
「プレーパステル クレパスピービット マジョシルフよぉ〜元の姿に戻れぇ〜!」
 そこではゆうきが魔法を使っていた。何度も、何度も、苦しそうに……。
「私は、マジョシルフを元の姿に戻したいの、お願い…お願い……私の願いを聞き入れて、私の魔法」
 ゆうきは、ずっと魔法を、同じ魔法を繰り返していた。憧れの師匠のために。わかばはそんなゆうきの側に駆け寄る。
「プレーパステル クレパスピー…」
 わかばはゆうきの水晶玉をかざした手を下ろさせた。
「もういいんだよ、マジョシルフは元の姿に戻っているんだよ、ゆうきちゃんの魔法で。もう魔法を使わなくていいんだよ」
 わかばはゆうきの手を自分の手で包み込んで語りかけた。しかし、ゆうきはわかばの手を振り払った。
「嘘よ!だったらマジョシルフは何処にいるの!」
「マジョシルフさんは……」
 わかばは言葉に詰まる。本当の事を言うべきか迷ったのだ。ゆうきは再び水晶玉を掲げた。しかしその水晶玉はひび割れ輝きを失っていた。
「こ、これは」
「それは……限界を超える力を使っちゃって水晶玉を壊しちゃったゆうきちゃんは反動で長い眠りに」
 わかばが小さく呟いた。
「それじゃ、マジョシルフは……」
 ゆうきの声は弱々しかった。
「大丈夫、マジョシルフさんはちゃんと元の……魔女の姿に戻ってるよ。でも、今、ゆうきちゃんのために……。お願い、マジョシルフさんがゆうきちゃんの憧れてたマジョシルフさんに戻れるうちに、力を貸して欲しいのっ」
 わかばは一気に説明した。ゆうきはしばらく考えて、ハッと顔を上げる。全てを理解したようだ。
「まさか、マジョシルフは……。わかば、私をマジョシルフの所に連れて行って!」
「ありがとう」
 話はまとまった様だが、その後で納得いかない様子の二人組。
「話が読めないネ」
「だいだいはわかったと思うんだけど……」
 蘇雲とみるとはブツブツ呟いていた。
「問題はどうやって起きるかだよね。どうしたら良いんだろう」
 わかばは首を傾げる。入ったのは良いが、どうやって抜け出せば良いのかわからないのだ。それに魔法負荷の反動で眠っているゆうきを連れていかなくてはならないので、尚更だ。しかし、蘇雲は不敵な笑みを浮かべていた。
「何の為に私がここにいると思うネ」


 ゆうきは目を覚ました。わかば、みるとも目を覚ます。
「おおっ、やりおったぞい!」
 マジョヒールが驚きの声を上げる。
「あの中華娘、激不味い薬を強引にぃ……って、そんな場合じゃない。さぁ、わかば、マジョシルフに会いに行こう!」
「口の中がキモチワルイ……えっ、うん、ちょっと待って、ピロリンコールで連絡取るから」
 わかばがつくし達に連絡を取ろうとしている間、みるとは今だ目を覚まさない蘇雲を不思議そうに見ていた。
「あの〜、そぉ、起きないんですけどぉ〜」
「あれぇ、繋がらないよ、どうしてだろう?」
 わかばは反応の無い携帯を持って困った顔を見せた。
「まったくぅ」
 ゆうきは苛立っていた。