おジャ魔女わかば
第49話「わかばのナイショ」
2/5
 給食が終り昼休み。若葉と筑紫は屋上へ上がっていた。学校自体が高台にあるので、そこからは虹宮の街が一望できる絶景ポイントだ。
「この街を自在に飛び回ると気持ちええやろうなぁ〜〜」
 筑紫は屋上の端の手摺りに身を乗り出しながら風を受けて気持ち良さそうに言う。筑紫の隣で若葉は微笑んで言う。
「うん。魔法の箒で飛ぶってそんな感じだろうね」
「47話読んだわ。うちの活躍がちょっと足らへんのとちゃう?」
 筑紫はジト目で若葉に指摘する。
「あれ以上はちょっと無理だよ」
「ま、良いか。若葉が書きたいんは別の所にあるもんな」
 と筑紫が言うと若葉は真っ赤になってしまう。
「あんな堅物と我侭の何処がええんか、うちにはわからへんけどさ」
「そんな事、言わないでっ」
 筑紫の言葉に若葉はちょっと拗ねて見せる。筑紫は話題を変えるように言う。
「で、次、最終回なんやろ。でも展開は、今回のでもう終ってるわな」
「うん。だから、いきなり一ヵ月後って事にして、その後の皆を描いていこうと思ってるんだ」
 と言って、若葉は黙り込んでしまう。筑紫はちょっと心配そうに若葉の顔を覗きこむ。
「どうしたん?」
「……次のお話を書いたら、それで終りかと思うと……何と言うか」
 若葉は感慨深く呟く。筑紫は思い出したように言う。
「もうすぐ一年やもんな」
「筑紫ちゃんが引越してきてから?」
 若葉は確認する様に言う。
「それもあるけど、若葉がそれを書きだしてから」
「筑紫ちゃんが居たからだよ。ここまで書けたのは」
 筑紫の言葉に若葉は嬉しそうに微笑んで答えた。
「それはそれは、どういたしまして。ウチも楽しませて貰ってるねんで。若葉の書く“おジャ魔女わかば”には。なぁ、これケータイ小説としてネットにアップしたらええのに」
「えっ、それは……」
 筑紫の提案に若葉は顔を真っ赤にしてしまう。拒否の合図だ。若葉はこういう奴だと知っている筑紫は苦笑いするのだった。

 若葉は内気で、自分の想いを言葉にする事が極端に不得手な少女だった。それ故に友達も少なかった。中学に入ってからは、当時の友人達が部活やその他、自分のやる事を見つけて熱中していく中、取り残されて一人で居る事が多かった。そんな所に筑紫が引越してきた。中2の一学期だった。筑紫は最初、若葉の後ろの席に座らされた。それがきっかけで二人は友達になった。
「筑紫ちゃんが私の後ろの席じゃ無かったら……」
 若葉は不安そうに呟く。筑紫は軽く言う。
「ん、そんなん、わからんて」
 若葉はあまり外に自分を出さない代わりに内側に物凄い勢いで溜め込むタイプだった。若葉と仲良くなった筑紫はそんな若葉の内面に触れるのが楽しかった。
「噛めば噛むほど味が出るスルメみたいなやっちゃ」
「それは酷いっ」

 去年のゴールデンウィーク明けだった。若葉はノートの端っこに絵を描いていた。
「何、描いてるん?」
「えっ」
 若葉は慌てて隠す。筑紫はニヤニヤしながら若葉の手を引っぺがす。
「これって……どっかで見たなぁ」
「……魔女見習いだよ」
 見覚えがあるみたいで首を傾げる筑紫に若葉が白状する。
「あっ、何年か前、日曜の朝にやってた奴やね。……確か、おジャ魔女何とかって」
「うん」
 思い出した筑紫に若葉は頷く。筑紫は感心して言う。
「絵、上手いなぁ」
 突然、褒められて、若葉は真っ赤になって照れてしまう。
「でも……これってもしかして、美浦?」
 筑紫は尋ねる。若葉が描いていた絵の魔女見習いは長い黒髪が特徴だった。さらに前のページにも何かが描かれているのが写っているのを見つけた筑紫はノートを捲ってみる。
「こっちは若葉か」
 そこにはツーテールの魔女見習いの姿があった。
「うん。描いていたら物語も浮かんできちゃって」
 と、若葉は語り出す。わかばという少女がダムの畔の占い屋の魔女を見破り、魔女見習いとなって魔女修行を始める。その修行の中で友達が出来て、その内にあずさというカッコイイ魔女見習いと出会い、あずさと友達になる事が目標になって行くと。
「まんま、おジャ魔女何とかって訳じゃ無いんか。それおもろそうやん、漫画にしてみたらどない?」
 話を聞いた筑紫はサラッと言う。若葉は慌てて言う。
「漫画……無理無理、漫画描ける程、画力無いもん」
「それじゃ、小説とか。勿体無いわ、若葉の心ん中に閉じ込めとくの。何か、形にすべきやで。それから、新キャラ追加や。モデルはウチ!」
 と言う筑紫に若葉は苦笑いして頷く。こうして、若葉は細々と小説を書く事になった。ツールは携帯電話のメモ機能。テキストファイルとして保存して行った。

「あれから、もうすぐ一年だよね」
 若葉と筑紫は、この物語を綴り始めた頃の事を思い出していた。
「それにしてもキャラ増えたよな」
 筑紫はニヤニヤしながら言う。メインキャラのほとんどは身近な人等がモデルになっているのだ。特に魔女見習いは……若葉、梓、筑紫、優輝、さらに桜先生、アイドルのみると……そして。 「筑紫ちゃん、次の時間、体育だよっ」
 若葉は思い出したように言う。次のチャイムまでに体操服に着替えてグランドに集合していないといけないのだ。ここでゆっくりしている暇は無いのだ。何故、若葉が突然、それを思い出したかと言うと、魔女見習いのモデルの7人目が体育の先生を蘇雲先生だからだ。

***

 李蘇雲先生。中国の人だが、日本語はバッチリ。しかし一部、テレビや漫画に出てくるようなディフォルメされたような中国系の訛りというかイントネーションを持った喋り方をする。しかし、運動能力は桁外れである意味超人的な事をサラッとやってのけてしまう謎の人物だ。でも、気さくな性格と退屈しない面白さから生徒からの人気は高かった。
 この日の体育、女子は持久走が行われていた。1000メートル分、トラックを走り、タイムを測定するのだ。とにかく疲れるので体育で行うテーマとしては人気の無い方だろう。しかし、生徒達は楽しそうに走っていた。それは、先生である蘇雲も一緒に走っているからだ。タイム計測は見学の生徒に任せて一緒に走り始めた蘇雲先生。その走りは生徒達が到底ついていけるものでは無く、あっという間に周回遅れになってしまう。さらに走りながら、バク転や逆立ち、カンフー等のアクションを取り混ぜて生徒達を楽しませているのだ。