おジャ魔女わかば
第50話「さよなら魔女界」
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「そ、そんな事ではありません!これは重要な事でございます!」
 ムキになる“みるとファンクラブ”会員のアニニーテをルキアは押さえた。
「あの時、大魔法使い界を飲み込もうとしていたブラックホールの原因を取り除いたのはいいが、予想以上に大きな反作用の為、激しい爆発が起こりました。その爆発の中、私達が無事に帰還できたのは彼女達の魔法のおかげでした」
 ルキアは語った。
「…あの爆発の中、わかば達も全員無事だった。お互いを助けたいという強い意思のこもった魔法が奇跡を起した。…でも、ひきかえに彼女達の水晶玉は傷つき輝きを失った」
 ゆうまはそう語り、注文したコーヒーを口にした。
「水晶玉の力を失った彼女達は、魔女ではなくなり、それでも魔女界との関係は絶ちたくないと…強いて言えば魔女見習いの立場として師匠の魔女ガエルを助けているのです…償いの様に…彼女達が不憫で不憫で…」
 そう言った所でアニニーテは再びわんわん泣き出した。
「魔法使用も魔女界に来るのも必要最小限にして…、みるとちゃんも魔女界で芸能活動続ける気にはなれなかった…アニニーテさん泣かないで、彼女達を励ましに行きませんか!」
 ゆうまはアニニーテに提案した。“それだ”とばかりに勢い良くアニニーテは立ち上がった。

***

 あずさとゆうきは魔法堂に辿り着き、その扉を開いた。
「いっらしゃいませ〜ってあずさちゃんとゆうきちゃん、ちぃ〜っす」
 わかばは営業用スマイルから友達用スマイルレベル松に切り替え、二人を出迎える。
「マジョミカ、ごめん、ちょっと抜けるね」
 わかばはマジョミカに断って店を出ようとするがマジョミカはそんなわかばを刺す様に睨みつける。
「いいじゃないの、お客なんて居ないんだから」
 ゆうきがさらっと言ってのけるが…。
「なんじゃとぉ〜」
 それがマジョミカの逆鱗に触れてしまう。タイミング良くそこにつくしが割り込んできた。
「まぁまぁ、そんな時のためのメカを開発したんや! 名付けて占いメカ“わかばMk-2”なんと占い的中率はオリジナルの3倍!」
 つくしはわかばの占い席に上半身だけのわかばに似せて作ったロボットを置いて説明を始めた。それは前につくしが作った占いメカの発展型の様だが…。マジョミカは疑わしげにつくしのメカを見ている。わかば達はその隙に外に出た。

 市街地より高地にある魔法堂前のダム敷地内にある公園から、目前に広がる虹宮の街を見下ろしながら、3人は雑談していた。
「何よ、オリジナルの3倍ってのは!それにあの“赤い服”はっ」
 わかばはさっきのつくしのメカについて不満を述べていた。
「まぁまぁ…わかば落ち着いて」
 怒るわかばをあずさがなだめるという、ちょっと不思議な光景をゆうきは物珍しそうに眺めていた。
「ところで、二人ともどうしたの、お揃いで」
 わかばは気を取り直して尋ねた。
「それは……ただ駅で会っただけなのよ。私は、ちょっとわかばと話に来たのだけれど……」
 と話すあずさの横でゆうきはいきなり頭を下げた。
「ごめん、わかば。まだちゃんと謝ってなかった気がしたから」
「えっ、えっ何、何の事〜」
 突然の事にわかばは戸惑ってアタフタする。
「わかば達が魔女を辞める事になったの全部……私のせいだから。私、わかば達の夢をダメに」
「そんな事ないわ」
 ゆうきの言葉をあずさが遮った。
「少なくとも私は、そんな事気にしていない」
「わかばもだよ、たぶん他のみんなもそう。だからそんな顔しないで、いつもの強気で生意気なゆうきちゃんじゃないと」
「……わかばそれ褒めていないと思う」
 あずさの突っ込みとゆうきの冷たい視線がわかばに突き刺さる。
「私、わかばと出会えた事が魔女見習いをやっていて一番の収穫だったと思う。以前の私は誰も必要としなかったし、誰からも必要とされていないと思っていたわ。でもそれは違うって…わかばはあっさり否定してくれた。私は少し変わる事が出来た。別に魔女じゃ無くてもわかばの側にいる事はできるし、パティシエだって目指せるし…」
 あずさは普段決して出したりしない心の内を語った。
「…私も、わかばに救われたのかも」
 あずさの言葉に、ゆうきも自分を振り返り呟いた。
「わかば、そんなにすごい事して無いよ。反対に感謝したいくらいだよ。私、魔女見習いになる前は、小心者で内気な自分が嫌いだった。魔女になったら変われると思っていた。でも、自分を変える事は魔女になる事じゃないんだって気がついた。私、魔女見習いやっててたくさん友達が出来た。そのみんなのおかげで、私、自分を好きになれそうな気がした。だからありがとうなんだよ」
 今度はわかばが頭を下げた。3人の間に暖かい空気が流れた気がした。

「川原の石もぶつかってぶつかって丸くなっていくものだ」
 3人の会話を店の屋根から見ていた妖精のキュキュが呟いた。
「姉さん、行くの?わかばとゆうきに何も言わずに…」
 横に座っていた妖精キキが尋ねる。
「ああっ、私はあいつらとあまり関わらん方が良い」
「たまには連絡よこしてよ」
 そう言うキキに無言で頷いてキュキュは大空高く飛び上がり、すぐに見えなくなった。

***

 話を終えたわかば達は魔法堂に戻って来た。あずさとゆうきの前を歩くわかばは何処か照れくさそうだ。そんなわかばに魔法堂の扉の前で声がかけられた。
「わかば」
「かえでちゃん」
 それはわかばのクラスメートで幼馴染の川井かえでだ。彼女は魔女見習い仲間では無く。普通の人間である。わかばは不思議そうに尋ねる。ここでかえでと会う事はそうそう無いからだ。
「どうしたの?」
「一度、占ってもらおうと思って……わかばに」
 かえではわかばを見つめて言う。それにすぐにゆうきが反応する。
「わかば、お客さんじゃ無いのっ。早く案内しないと」
「えっ、えっ」
 思わず、わかばは戸惑ってしまう。あずさは扉を開いてかえでを迎え入れる。
「さぁ、どうぞ」
 ゆうきとあずさの妙なコンビネーションを不思議に思いながらかえでは店内に入った。わかばもそれに続くが、店の中ではアニニーテ達が来ていて騒いでいる。
「さぁ、さっさと励まして、本命のみるとちゃんの所へ参りますよ!」
 店の真ん中でアニニーテは張り切っていた。