おジャ魔女わかばθ(しぃーたっ♪)
第1話「わかばの新学期風雲編」
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 一方、5年1組でも、転校生の紹介が行われていた。
「ウチは蒼井つくし、小さい時はこっちにいたから、もしかしたら知ってる人もおるかもしれへんけど、よろしくな!」
 青い髪の活発そうな少女が名乗った。
「趣味は機械弄りと発明。今日は挨拶かわりに便利なもん作ってきたで」
 つくしはポケットからカマボコ板くらいの大きさの機械を取り出し黒板に押し当てた。
「超振動で一瞬にして黒板を綺麗にする発明や」
 言いながらつくしは“それ”のスイッチを入れた。側面についているスライド式のスイッチがカチッと音を立てると“ガガガガガガカ”とけたたましい音とともに黒板に書かれた三人の転校生の名前が粉になって消える。さらに音が大きさを増し…“ドカン”とチョークの白い粉巻き上げ爆発してしまう。
「……改良の余地ありだな」
 チョークの粉で真っ白な顔になった香川先生がいい、消えてしまった三人の名前を再び書いていく。全身真っ白で頭部は爆発でグチャグチャの少しアフロ風なつくしが舌を出して呟く。真っ白なので舌の赤い色が目立つ。
「やってしもた」
 続いて、横の知的な印象をかもし出している少年が服を叩き、付着したチョークの粉を落としながら口を開いた。
「私は白木輝(しらきこう)。私は…ある女性を守護するためにここにい…」
 つくしが慌てて輝の口を塞いだ。そして小声で、
「お前、何言うてんねんな!」
 担任の香川は少し驚いて、
「おいおい、ケンカは止めろよ」
 輝はそのルックスと雰囲気から、すでに女子児童の間ではファンが出来そうなくらい気にされていた。そこに彼女がいるような発言に教室はザワついてしまう。
「静かにぃ。まだ終わってないんだからな。次、月影さんお願いな」
 香川は端で大人しくしている、ディープブルーの髪を後で二つに束ねた少女に話を振る。
「私は月影かぐら…私は…私は…」
 かぐらは不安そうに話し出して、言葉に詰まった。そんなかぐらに香川は優しく視線を送り、さらに再びザワつき始める教室の児童達に語りかけた。
「月影は事故で過去の記憶を失っているんだ。でもいつか何かのきっかけで記憶が戻るかもしれない。みんな暖かく見守ってあげてくれ」
 香川の説明の後、かぐらは頭を下げた。つくしと輝は辛そうにその姿を見ていた。

***

 始業式の今日は半日で放課後になり、開放される。わかばはゆうきの机のところに来ていた。
「帰りに魔法堂ね」
「ちょっと、私は行くとは…」
 問答無用とばかりにゆうきを引っ張り出すわかばだった。
「本当は嬉しいくせに」
 少し離れた所でねおんが呟き、自分はそそくさと鞄を背負って帰っていく。。そして帰ろうとしたわかば達は二人のクラスメートに道を塞がれた。
「桂木さん、新学期そうそう転校生とデキてるなんて、スキャンダラスですわねぇ」
 細身の長身の少女が気に入らないとばかりにわかばを睨んでいる。その隣で、背の小さい、ちょっとぶりっ子風の少女が言う。
「ちょっと目立ちすぎって感じっ。れいな様が戻ってきたら、言いつけてやるもん!」
 わかばは俯いて震えるだけで何も言えずにいた。代わりに呆れたゆうきが言う。
「元4年2組の玲南親衛隊の二人か…って氷村玲南(ひむられいな)はドイツ留学中なのに、なにやってんのよ、あんたら」
「れいな様は夏には戻ってくるからぁ、それまでせいぜいがんばる事ね」
 小さい方がそう言って、二人は去って行った。ちなみに大きい方が潤藤要(じゅんどうかなめ)、小さい方が田村瑞希(たむらみずき)という。
「お嬢様の取り巻きが。お嬢様帰還が近いんで、またイキがりはじめたのかしら」
 と言いながら、ゆうきはわかばを心配していた。わかばはまだ震えていた。ゆうきは側でわかばが落ち着くのをまってあげていた。実際はどうわかばに接して良いのか分からなかった。しばらくして、つくしとかぐらが合流する。その頃にはわかばは元の様子に戻っていて、ゆうきは内心ホッとしていた。そして魔法堂へ向う。

***

 わかば達の住んでいる虹宮という街の山手、カブト山という山の麓のダムの側に一軒の古びた洋風の建物があった。そこが魔女のマジョミカの経営する魔法堂という占い屋。わかば達が手伝っている店だ。この日も各自それぞれの仕事をこなし、あっという間に夕日が空を染める時間になっていた。
「時間が経つの早いね〜」
 わかばは占い装束に身を包み、客待ちをしながら呟いた。客は滅多に来ないが。
「…そーねぇ。ところで月妖精の二人はどうしたの?」
 マジョミカのパートナー妖精のキキが尋ねる。キキはリカちゃん人形くらい大きさのピンク色の妖精だ。
「今はかぐらの髪飾りに融合して休んでるわ〜。なんでもごっつう魔力を消耗するらしいわ、長時間、人間の姿するの」
 店の奥で謎のパーツをパソコンに組み込んでいたつくしが答えた。
「とんだボディガードねぇ」
 キキは苦笑いした。
「…かぐらちゃんの記憶、戻るよねぇ」
 わかばは心配そうに呟いた。
「お前がそんなに責任を感じる事はないわ…あの場合は仕方ない…」
 わかばの占い、そして魔女の師匠であるマジョミカがわかばに言い聞かせた。その姿は緑色の不恰好なカエルの姿をしている。そして、2階で魔法粘土をこねて占いグッズを製作していたゆうきとかぐらが降りてくる。
「日も暮れるし、帰るよ」
 ゆうきはそうマジョミカに言うと、
「おお、ご苦労だったな、今日はもう閉店じゃ」
 マジョミカはそう言うと店を閉める準備を始めた。
「やったぁ〜、かぐらちゃんちょっとまっててね、着替えてくるから」
 と嬉しそうに言って、わかばは店の奥に入って行った。かぐらはぼんやりとわかばを待っている。今、かぐらはわかばの家に居候していた。わかばの強い希望で…。

「んじゃ、マジョミカ、明日の放課後また来るね」
 と言って扉を開けたわかばは立ち止まった。空から光の花びらが降り注いでいるのだ。見上げると、2頭のユニコーンに引かれた桃型の馬車からマジョリンが飛び降りてきた。
「皆さん、すぐに支度を、女王様がお呼びです」
 魔女界女王の使いマジョリンは事務的に伝えた。上空の馬車の窓から、如月みると、名古屋さくら、李蘇雲、日浦あずさが手を振っていた。皆、わかば達の親友だった。