おジャ魔女わかばθ(しぃ〜たっ♪)
第40話「輝夜の時空」
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■挿絵[120×120(5KB)][240×240(15KB)]
『私は…いずれ、月に戻らなければならない身…地上の殿方を愛する訳にはまいらないのです』
 背景音楽で優雅に奏でた琴の音色が流れてきそうな平安朝な建物の中、色数の多い豪華な十二単を纏った月影かぐらが物悲しそうにに想いを押し殺していた。こう思い続け、求婚してきた貴族達に無理難題を押し付けて諦めさせてきた。実際にはその無理難題のせいで命を落とす者もいて、それを思うとかぐらは罪悪感に押し潰されそうだった。そんな時だった帝に出会ったのは…。
 帝は、かぐらの出す、どんな無理難題も突破し、その熱意にかぐらの頑なな心が奪われるのに時間はかからなかった。そして、かぐらは自らの秘密を帝に打ち明けた。すると帝は…。
『例え、月の民を敵に回そうとも、姫は絶対に渡しはない』
 かぐらは帝のその想いが嬉しかった。しかし、かぐらは知っていた。月の民とは即ち魔女。魔法の力を自在に操る魔女と地上の人間では戦いにすらならない事を。そしてそれでも帝はかぐらの為に月の民に立ち向かうだろう事を。かぐらはやはり自分の感情を押し殺して月に帰る決意をする。
『私は、必ず…例え、何年かかってでも、あなた様の元に戻って参ります。しかし、月の民と地上人では寿命が違い過ぎます。ですから…この不老不死の薬を……”
 最後の方は涙で言葉にならなかった。叶うかわからない約束、そしてその約束を繋ぎとめる為の薬の入った壺を帝に手渡して、かぐらは天から舞い降りて来た月の船に向う。それでも帝は大勢の兵隊を率いて、かぐらを連れ戻しにきた月の船に向かい無数の矢を放つが、月の民達が使う魔法に翻弄され、結局、無力を思い知らされる結果となる。こうして、かぐらは月へと帰っていってしまうのだった。
 帝は一番、天に近いとされる山の頂上で、かぐらに託された薬を燃やした。その煙が月へ…かぐらの元へと届くようにと…。そして叫ぶ。
『私は、待つ。何年でも。例え何度生まれ変わろうとも…永遠に…』
 その山頂からは、いつまでも煙が天に向って昇り続けていた。

***

 かぐらはベットから跳ね起きた。妙にリアルな、夢とは思えない夢だった。一番重要な帝の顔は、ノイズが入った様に思い出せないが、それ以外は鮮明に憶えている…さっきまでそこに居たと錯覚するくらいに。
「どうなされたのですか…姫」
 白いウサギの様な姿の妖精シロがモゾモゾとかぐらの布団から出てきてかぐらに尋ねる。今は記憶を失っているが、かぐらは月にある魔女界の女王の一人。彼はかぐらのパートナー妖精であり、護衛を兼ねて常にかぐらの側にいる事を任務としている。多少口うるさく説教臭いのがたまにきずだが、かぐらは彼を信頼していた。かぐらは起き上がり鏡の前でストレートのロングヘアにブラシを通し始める。そして左右に分けていつものツーテールを作りながら、夢の話を全部、シロに話した。話を聞いたシロは納得して頷きながら答える。
「過去のカグヤ姫様の記憶が夢として現れたのでしょう…姫はカグヤ姫様の魔力を受け継いでいるのですから、当然です。でも何も気にする事はありません。姫は姫なのですから」
「カグヤ姫の記憶……じゃ、やっぱ本当に、ずっと昔にあった事なんだ…」
 すっかりお馴染みの髪型になったかぐらは感慨深く呟いた。シロは枕の側でまだ眠りこけている黒い妖精の耳を引っぱって起していた。彼もシロと同じくかぐらのパートナーで護衛を任務としているクロという妖精だった。
「いてぇ!」
 クロは不機嫌そうに叫んで飛び起き、すぐにシロを睨みつける。シロに対し緊張感の少ないクロだが、シロと同じでかぐらにとっては大事な存在だった。そんな二人のやり取りをかぐらは微笑んで見つめ、夢の事は置いておいて、この今の現実を頑張る事にする。
「シロ、クロ、学校行くよ」
 そう言って、かぐらは今日着ていく服を選び始めた。

***

 放課後、学校から駅方面へ続く長い下り坂。それはいつもの帰り道。少女達の話題は一年半先に進学するであろう中学校の事。
「ねぇ、みんなは中学は何処にするの?」
 一人、前を歩いていた龍見ゆうきが振り返って尋ねてきた。
「えっ…考えてないよ、まだ先の事だもん」
 桂木わかばは首を傾げて言う。彼女の特徴的な緑のツインテールの髪が傾げた首に合わせてカクッと動く。隣を歩いていた蒼井つくしは当たり前の様に答える。
「うちとわかばとかぐらはんは学区の関係で、市立の台社(だいしゃ)中学とちゃうんか?…ゆうきはんは上ヶ崎(じょうがさき)中学の学区やろ」
 わかば達の通う虹宮北小では学区をだいたい北部と南部にわけ、北部の住んでいる児童は台社中に進学する事になっている。そして南部は上ヶ崎中となっていた。
「私は、シュク女…受けるわ」
 唐突にゆうきが宣言する。シュク女とは私立淑川女学院。虹宮を南北に流れるシュク川という河川の中流に位置するミッション系の学校で、“東のカレ女、西のシュク女”と並び称されるお嬢様学校だった。
「おおっ、ゆうきちゃん凄いっ」
 思わずわかばは唸ってしまう。
「ね、わかば、かぐら、一緒にシュク女目指さない?」
 ゆうきはいきなり二人を誘ってみる。わかばとかぐらは戸惑った様に顔を見合わせて呟く。
「えっ…」
「シュク女?」
 かぐらは良くわからない様に首を傾げていた。その背後からシロが魔法で少年の姿に変化した白木輝と、同じくクロが変化した黒岩翔が口を挟む。
「まだ、1年も先の話だぜ…まったく」
「しかし、今後、姫が地上に残られるかわからないのだが、その件については多少は調査した。その結果、仮に姫が地上に残るのであれば、シュク女という学校が姫の教育に一番適していると考えられる」
 呆れている翔を無視して輝は淡々と説明する。
「でも、姫を女子校に入れて、俺達はどーすんだよ」
 翔は疑問を抱く。この二人の妖精はかぐらの護衛の為に人間の姿をしてかぐらと同じ学校に通っているのだ。
「何も、同様に学校に通う必要は無いんだ。護衛するだけなら」
「確かにそうね、かぐらの髪飾りに同化していれば済む事だしね。それになんなら、二人は台社に進学すればいいんじゃないの、台社はシュク女のお向かいだし」
 輝の言葉に賛同しながらゆうきが言う。妖精の二人は普段はかぐらのツーテールを束ねる大きな丸い髪飾りに同化している事が多いのだ。