や〜っと!おジャ魔女わかば
第4話「ロイガをめざして」
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 虹宮魔法堂1階の店舗スペースの奥にキッチン等を備えた居住スペースがある。そこで白いエプロン姿の月影かぐらがフライパンを火に乗せていた。
「参りますっ」
 かぐらはそう言うと、溶いておいた卵をフライパンに流し込む。“ジュー”と軽快な音を立てて、フライパンに広がった黄色がどんどん固まっていく。頃合いを見計らって、あらかじめ作っておいたチキンライスをフライパンに投入する。あとは、絶妙なフライパンさばきでライスが卵に包まれていく。それをお皿に乗っけて、かぐらは微笑む。
「ん〜上出来上出来っ。マジョミカはもっと半熟が好みだっけ…」
 かぐらは足りなくなった卵を補充しながら呟いた。今日の魔法堂の夕食はオムライスのようだ。

 キッチン横のテーブルに魔法堂のオーナーのマジョミカとその妖精のキキ、そして居候している蒼井つくしとかぐらの4人が座って、夕食を食べようとしてた。
「かぐら、すごく上手じゃないの〜」
 キキが体の小さい自分用に合わせてくれた小さなオムライスを見て感激の声をあげる。
「こりゃ、職人技やなぁ〜」
 つくしもそれを見て感心する。かぐらは照れながら言う。
「わかばちゃんに、人間界の料理、いっぱい教えてもらったからね〜」
「そうか……わかばは家事もこなしておったんじゃったな」
 マジョミカがそう言って、少ししんみりした雰囲気になる。
「あかんて、暗くなったら、食べよ食べよっ」
 慌ててつくしがそう言って、夕食が始まりかけたのだが…それは馴染みのソプラノに邪魔される。
「お〜ひさしぃ〜ぶりねぇ〜〜魔法問屋のぉ〜デラデラァ〜よぉ〜♪ん〜ん〜〜♪」
 オムライスにかけるケチャップを入れていた容器の口から飛び出したのは血まみれ…じゃ無くて、ケチャップまみれになってしまった問屋魔女のデラだった。
「やだぁ〜、何なのよぉ〜これっ」
「デラァ…それはこっちの台詞じゃ」
 食事を邪魔された挙句、そこら中にケチャップをぶちまけたデラにマジョミカは怒りの表情を見せている。
「デラぁ…何しに来たの?」
 キキがテーブルを拭きながら尋ねる。デラは何かを真似た感じに言う。
「ちわっす。魔女問屋です。御用聞きに覗いました〜」
「とは言っても、ツアー業務になってから、仕入れるものはあまり無いしなぁ〜」
 かぐらと床に飛び散ったケチャップを拭いていたつくしが言う。
「そんなつれない事言わないでさぁ〜〜」
 デラは粘る。そこに…。
「あらあら、ずいぶん派手なディナーパーティねぇ」
 それは、かぐら達の通う虹宮北小の教師、弥生ひなただった。
「あっ、ひなた先生、どうしたんですか?」
 床から、かぐらが言う。
「ちょっと魔女界にナナミに会いに行こうと思ってね。あの子、こっちから行かないと全然、顔見せ無いんだから」
 ひなたは説明する。ひなたは昔、虹宮の魔法堂で共に魔女修行したナナミという魔女に会いに行くみたいだった。

 マジョミカは小さな金庫を持って来た。
「それじゃ、デラ、これを魔法玉に替えてくれ」
 マジョミカは金庫の中の小銭を差し出して言う。
「それは?」
 ひなたが尋ねる。
「魔法堂の売り上げじゃ」
 と答えるマジョミカ、どう見てもそれは、そんなに儲かっている様に見えない量だ。ひなたは前々から気になっていた事を聞いてみる。
「魔法堂のツアー料金っていくら取ってるの?」
「えっとね〜、大人300円、子供150円ですよ」
 かぐらが思い出しながら答える。
「ツアーの内容によっては追加で料金がアップしたりするけど、基本はかぐらの言うとおりね」
 キキが付け足した。
「そんな低料金で儲けはあるの?」
 ひなたは驚いて言う。
「そこは、ミィラクルなマァジックでフォローするんじゃよ〜」
 マジョミカは何か企むような怪しい顔で言う。デラは魔法の天秤を用意して、渡された小銭を片方に、もう片方に魔法玉を積んでいく。積んでいく…結構積んでいく。やっと釣り合った頃には、そこそこの魔法玉の量になっていた。それを見てデラは言う。
「マジョミカ、ずいぶんと儲かってるみたいじゃないの〜」
「…これって」
 ひなたは少し驚いてから、思い出すように呟く。
「そうじゃ、魔女界ではモノに込められた想いが強いモノほど、レアアイテムとして価値が上がる。このお金は金額が価値じゃ無くて、ツアーに参加して感動し動いた客の想いそのものが込められていて、それが価値となるんじゃ」
 マジョミカは説明した。それは人間界の常識とは違う、魔女界独特の物だった。
「つまり、私達はお客さんの心を動かすようなツアーをすれば、それが直接、儲けに繋がるって訳なのよ」
 キキがまとめて言う。
「へぇ〜、そうだったんだ」
「どうりで、ドケチマジョミカの割にはむっちゃ低料金だと思うたわ」
 かぐらとつくしが口々に言う。
「お前等…知らんかったのかっ」
 マジョミカは呆れて言う。
「まぁ、最初は、無茶苦茶高い料金設定して儲けに走ろうとしていたマジョミカにさくらが提案した事なんだけどね」
 キキが口に指を当てて“ナイショよ”と言う素振りをしながら告げる。
「さすが、さくらちゃん」
 かぐらは感心して言う。つくしはやっぱりかと言う感じに…。
「ドケチマジョミカ健在なわけや」
「さっきから聞いておれば、ドケチドケチとっ、誰がドケチじゃぁ〜」
 マジョミカはつくしに怒鳴りつける。つくしも負けてはいない。
「あんたの事やーっ」
「2人とも、止めてよ〜。食事中だよ〜」
 2人の間に仲裁に入るかぐら。すっかり、魔法堂では良く見る光景になってしまったようだ。そしてかぐらの言葉にオムライスの事を思い出したマジョミカとつくしはテーブルに目をやると…。
「結構イケるじゃない〜このオムライス。ごちそぉ〜さま〜」
 いつの間にかテーブルについていたデラが2人のオムライスをたいらげてしまっていた。
「で…デラぁ〜貴様っ」
「ウチの晩御飯を〜」
 2人の怒りは揃ってデラに向けられた。
「わ、私のを、半分こして、ねっ」
 かぐらは残っていた手付かずの自分のオムライスを2人に差し出して必死に言う。2人はそれを持って行き、今度は半分のラインを何処にするかでケンカを始めてしまう。それを不安そうに見つめるかぐらに微笑みながらひなたが声をかける。
「ほっときなさいって。キリがないよ」
 それにかぐらもつられて微笑んでしまう。