おジャ魔女ひなた91
第1話「私が魔女ぉ!」
1/4
 夜の街外れの小道を二人の女性が小走りで走っている。一人は長身にとんがり帽子と軍服の様な格好。もう一人は長い銀髪のウェーブと長い白いスカートを引きずりながら、地表すれすれを滑るように移動している。顔はベールで隠されている。長身の女性が尋ねる。
「かなり…西の方へ来てしまいましたが」
「ここは虹宮という街。ここにも魔法堂がありますから、そこから魔女界へ戻れます」
 答えたベールの女性に緊張が走る。それはベールの上からでもわかるくらいだった。
「近くに、マスターがいるのですか」
 長身の女性は構えて、戦闘態勢をとる。しかしベールの女性はそれを制止する。
「マジョリン、任せてください」
 マジョリンと呼ばれた長身の女性は驚く。ベールの女性の視線の先には、黒尽くめの服装に黒マント、そして露出している顔は黒い炎の様に揺らめいていて、鋭く光を放つ目が付いている。まるで闇を擬人化したような存在が静かに姿を見せた。
「私を追い詰めるとは、余程、凄腕のピュアレーヌが動いているのだろうと思っていたが、まさかあんたが直々に動いていたとは…」
 闇は淡々と言う。
「バットカードマスター、お前の手足とも言えるVバットカードの内6枚は封印した。もう抵抗は止めて、おとなしく封印されるんだ」
 ベールの女性の後ろからマジョリンが鋭く叫ぶ。
「自分の手足の事だ、知っているさ…それにまだ7枚残っているだろ、上級のバットカードは…」
 闇の挑発的な言葉にベールの女性は頷いて告げる。
「これ以上、この世界に不幸をばら撒く事は許しません。ここで終りにします」
 ベールの女性は両手をゆっくり上げていく。
「待てっ…わかった、あんたなら、残り7枚もじきに封印するだろうな、そうなれば私は何も出来ないただの闇…いや影だ……もう終りにするよ」
 闇が勘弁したように言うと、ベールの女性はホッとして腕を下ろす。その瞬間、闇が消える。
「女王様、危ないっ」
 マジョリンは叫んでベールの女性の前に出る。そこにカードがすごい勢いで飛んで来てマジョリンを弾き飛ばす。そのカードには蛇がV字に巻きついたドクロに蝙蝠のような羽が生えたマークが描かれていた。これがVバットカード、またの名を上級バットカードと言う。
「言った筈だ、上級バットカードはまだ7枚あるって…」
 マジョリンの身を心配するベールの女性に、闇は投げつけたのちに戻ってきたカードを合わせた7枚のカードを、今度はベールの女性に投げつけた。7枚のカードは生き物の様に飛び、一瞬でベールの女性の周りに魔方陣を描き光りだした。
「7枚もあれば、あなたクラスの魔女にも呪いをかける事位はできるのです。二度と私を脅かす事が出来ないようにしてあげます」
 溢れる光の中、闇は姿を消し、7枚のカードも散り散りに飛び去って行った。光が収まり、起き上がったマジョリンはベールの女性を見て、声を漏らした。
「そっそんな…」

 兵庫県、虹宮市。緑の多い中規模の街だった。ちょうど、関西の中心地、大阪の梅田と神戸の中間に位置し、ベットタウンとした住宅街として発展していた。その山手に位置する虹宮北小学校。勾配が急な上り坂の上にあるこの小学校は毎日の登校が大変だった。今は下校の時間で児童たちはまだ桜の花の残る坂道を下って帰路についていた。
 黒髪のセミロングの髪を揺らしながら、一歩ずつ確実に踏みしめながら、この坂道を下っていく少女が居た。弥生ひなた11歳。この春から6年生だった。彼女の隣を低学年の男の子達が走り抜けていく。何人かはふざけ合って、押し合ったり、後ろ向きに走ったりしている。
「走ると危ないわよ。それにふざけてるとこけて怪我するよ」
 ひなたはすかさず注意した。
「ゲェ、注意おばさんだぁーっ」
 男子児童の一人がひなたを指さして言う。そしてそれをきっかけ全員が逃げるように走って急な坂道を下っていく。
「誰が、おばさんよぉ〜、それに走ると危ないって言ってるでしょ」
 ひなたは両手を上げながら叫ぶ。
「フフフフっ、3年生のあの子達から見たら私達なんておばさんかもね」
 ひなたは笑い声に振り返る。そこには緑かかったカールした髪にマイペースそうな瞳をキラキラさせた同学年の少女居た。
「ななみ…私はおばさんじゃ無いよ…断じてねっ」
 ひなたはやれやれという感じで答える。彼女は春名ななみ、ひなたの同級生で親友だった。彼女の微笑にはひなたをほとんど理解しきっている感じがあった。また、それはひなた自身を安心させる。それは自信に変わり、目に映った児童に声をかける。
「坂道で歩きながら本を読むと危ないよ」
 夢中で本を見ていた年下の少女は、慌ててひなたに一礼して、本をランドセルにしまって、ぎこちなく歩き出した。

 坂道を下り終わると平地になる。その辺りでひなたとななみは別れた。家がそれぞれ違う方向なのだ。分かれて間も無くななみに同級生の男の子が数人追いついて話しかけてきた。
「春名、鞄置いたら、いつもの場所に集合なっ」
 ななみはその言葉に嬉しそうに頷く。
 横断歩道の向うでひなたは振り返りななみと男子達をチラリと見た。
「ななみは、男子とも女子とも付き合い多いのよね」
 ひなたは親友として付き合いの長いななみの事をまだイマイチつかみきれていなかった。そんな時、赤信号で横断歩道を渡ってくる低学年の児童数人を見つけて、声をかける。
「信号が赤の時は渡ってはダメよ」
 さっきまでより感情的にキツメの声を上げてしまうひなた。低学年の児童達は怯えながら、道路を横断してひなたの所にやってきた。