おジャ魔女ひなた91
第4話「とんだ9級試験」
1/4
「その子がマジョミィナさんの二人目の魔女見習いね」
 パニック状態の魔法堂。でも事態はフラッとやって来た、シュク女学院の制服姿のゆきの一言で収拾する。
「…私、魔女ガエルにならないで済むの?」
 半泣きで尋ねるひなたにゆきは大きく頷いて見せた。ホッとするひなた。ひなたは親友のななみに正体を見破られかけて、パニックに陥って、さらに魔法堂に連れ込んでしまいドツボにハマって居たのだった。
「そうか…その手があったんだっけ」
 思い出したように魔女ガエルのマジョミィナもホッと息をつく。ゆきはそんなマジョミィナに言う。
「今晩、9級試験がありますけど、ななみちゃん、大丈夫ですか」
「うっそ、いきなりね〜」
 マジョミィナの妖精のキュキュが困ったように言う。
「まぁ、ダメもとでも受けさせれば…」
 マジョミィナは至ってマイペースに言う。

 魔女界のピアノ型の屋台。それは魔女見習い試験の会場だった。
「今日のぉ…9級試験のぉ…課題、な〜にぃにしましょうぅ」
「いつもどおぉ〜りぃで、いいんじゃないのぉ」
 試験官魔女モタとモタモタがその日の試験内容についてのんびりと議論していた。そこに箒に乗った魔女がやってきた。その魔女は箒を降りて屋台に入ってくる。そして軽く二人にあいさつして、置いてあった書類を手にする。それは試験のスケジュールだった。そこには本日の受験者として“弥生ひなた(所属マジョミィナ)”と書かれていた。
“姉さんが魔女ガエルになったって、本当だったのね”
「おやぁ〜マジョミカじゃないの〜どうしたの〜」
 モタがその魔女に話しかける。
「今日の試験官、私と変わって欲しいんだけど」
「ダメよ〜、決まりはぁ〜決まりなのよ〜」
 モタモタが答える。マジョミカは何やらチケットを2枚出してニヤリと笑う。
「これで手を打たない?」
「魔女界健康センターの招待券じゃないのぉ〜〜、ここって一度行ってみたかったのよね〜〜」
 モタとモタモタの心はかなり動いていた。
「さ、どーする?」
 マジョミカは二人に迫る。

 虹宮の夜。空には大きな月が笑っていた。そんな月明かりに照られて、魔女見習服姿のひなたとななみが居た。
「ななみは魔女界初めてだよね、実は私も始めて、魔女の試験も初めて…緊張するよ」
 紅色の魔女見習服のひなたはモジモジと言う。一方、朱色の魔女見習服のななみは落ち着きを払って言う。
「手の平に人って言う字を書いて飲み込むのよ。そうしたら緊張もほぐれるわ」
 ななみがそう言うと、ひなたは必死に人の字を手になぞって口に運んでいた。そんなひなたを見ながらななみは楽しそうに呟く。
「人って字を書き損じて×になっちゃうと逆効果なのよね〜」
「ええっ」
 ひなたは驚いて、慎重に字を手の平になぞり始める。
「冗談よ〜もうっ、ひなたったら〜」
 ななみは笑いを堪えるのに必死そうだった。
「二人とも、そろそろ行きますよ」
 魔法堂の窓から白い上級な魔女見習服を着ているゆきが顔を出して言う。二人は頷いて店に入る。すると黒のマントと帽子で正装したマジョミィナが木製のパレットに乗って、二階に上がっていく。この魔法堂は、2階の扉の一つが魔女界に繋がっていた。ひなた達はその扉から魔女界に向った。

 色とりどりの絵の具を混ぜたようなマーブル状の空に浮かぶ音符形の雲。見たことの無い植物。そこにある物全てが不思議でたまらなかった。ひなたとななみはそんな世界・魔女界に足を踏み入れていた。
「これくらいで驚いていちゃダメよ」
 ゆきはそう言って、先へ行く。ひなたは自分の頭の高さを飛んでいるマジョミィナに尋ねる。
「キュキュは?」
「ナスカの世話があるから留守番してもらっている」
「そっか。あとね…ななみ大丈夫かな」
「基本的な事は大急ぎで教えているから、何とかなるだろうと思うけど…」
 ひなたとマジョミィナの会話にななみが割り込んできた。
「そうそう、なるようになるって〜」
 ひなたはお気楽なななみに苦笑いした。しばらくしてピアノ型の屋台・試験屋台が見えてきた。
「あそこに対照的な体格の二人の魔女が居るの……って、あれ、いないわ」
 ゆきはひなたとななみに説明しながら首を傾げる。屋台には思っていた試験官モタとモタモタの姿は無く、黒マントにオレンジ色の髪の魔女が立っていた。その魔女を見て、マジョミィナは呟く。
「あなた…」
 その魔女、マジョミカはマジョミィナに対し軽く会釈し、ひなた達を見る。
「私は試験官魔女のマジョミカだ。報告では、今日受験する魔女見習いは一人の筈だが」
「今日、突然、魔女見習いが二人になってね…何とかならんかな、ミカ」
 マジョミィナは親しげに切り出す。マジョミカは呆れて呟く。
「姉さんのおっとりは相変わらずね…本当に」
「お姉さんっ」
 ひなたは驚いてマジョミカの顔を見つめてしまう。
「お姉さん、お願いっ」
 ななみは懇願してみる。
「私はお前のお姉さんじゃ無い……安心しろ、書類は私の方から作成しておくから、試験は受けられる」
「ミカ、助かるわ」
 マジョミィナはパレットの上から頭を下げた。そんな魔女ガエルの姿を悲しそうにマジョミカは見つめていた。

 数年前。魔女学校の教師に双子の魔女が居た。容姿はそっくりだったが、性格は正反対。姉のマジョミィナは優しく何時も笑顔を絶やさない人気の先生だった。一方、妹のマジョミカはヒステリックで厳しい先生として学生の人気はイマイチだった。
「同じ双子なのに、こうも評価が違うとは…」
 職員室でそう呟いたのは、魔女学校を視察に来ていた元老院魔女で魔女教育委員会のトップ、マジョサリバンだった。
「生徒の評価がそのまま教員の評価にはなりませんよね」
 マジョミィナは苦笑いしながら言う。
「まぁ、そうだな」
 マジョサリバンは小さく呟く。マジョミカは俯いたままだ。
「ミカは教える事はキチンと教えているし、生徒の理解度も高いですよ。ミカにはミカのやり方があると思います」
「…姉さん」
「確かに成績を見ると、悪くは無いな」
 マジョミカを弁護するマジョミィナの言葉にマジョサリバンは納得する。