おジャ魔女かぐら
第1話「私、魔女志願です」
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「では、地上界に降りてからのカグヤ様を…第一候補姫に語ってもらいましょうか」
 ジィもカグラがこの物語に興味を持っている事を知っていて指名する。カグラはゆっくり立ち上がって話し始める。
「地上界の竹やぶの中に落下した小型ポットは、竹取の翁というお爺さんに発見されます。お爺さんはポットから姫様を救出し、育て始めます。3ヶ月で元の美しい姿に戻られた姫様の噂は都にまで響き、求婚者が後を絶ちません。中でも猛烈にアタックしてきた5人の貴族達。姫様は彼を諦めさせる為に無理難題を押し付けます。石作の皇子には仏が作った石の鉢を…車持の皇子には…」
「あっ、その辺は長ったらしいので、省略してくだされ」
 カグラの偏った解釈入りまくりの竹取物語のあらすじが展開する。ジィは貴族のくだりを略すように言うと、カグラは残念そうに、その部分を飛ばして話す。
「姫様の噂はついに帝様の元にまで届きます。帝様は姫様にお会いなろうとしますが、姫様は頑なに拒みます。しかし翁の説得と帝様の情熱で、お二人はメール交換…いや、歌を交換される仲になります」
「もう良いですわっ。その後、十五夜の晩に月に帰って終わりでしょ」
 カグラの長い話にアルテがヒステリックに言い、話を終わらせてしまう。ジィは苦笑いしながら解説する。
「そうですな。月では女王様のお力により、大いなる闇を封じ、また闇に仕える者達を追放する事に成功し、平和が戻りました故に、地上界へカグヤ様をお迎えに参りましたのじゃ」
 ずっと静観していた第三候補のクリス・ジャーニィという白い魔女が疑問を口にする。
「人間界に伝わる話では、カグヤ様は『天で犯した罪の為に地上へ来た』と申しますが、それは?」
「うむ…それはな。実は、不注意で月の大いなる闇を呼び寄せ、月を戦争状態にしてしまったのは、他ならぬカグヤ様ですのじゃ」
 ジィの答えにアルテミス5達は騒ぎ出す。
「信じられませんわ、伝説のカグヤ様が、カグラと同じダメ魔女だなんて」
「ちょっと、それはカグヤ様とカグラに失礼だよ。謝りなさいよっ」
 カグラの親友であるパルナがアルテミス5の悪口に怒りをあらわにする。カグラはおろおろしてパルナを止めようとする。
「パルナちゃん…やめて」
「カグラは黙っててっ」
 パルナとアルテミス5の5人の睨みあいが続く。
「各々方、やめるのじゃ。これからが重要な話なのじゃ」
 ジィが大声で叫ぶと、睨み合っていたパルナ達は慌てて、前を向いてジィに集中する。ジィは再び、小型宇宙船の模型を持って言う。
「今では、この形の宇宙船の使用はもとより製造も禁止されおるのじゃ。もちろん胎児化する呪術も同じくなのじゃ。同時に外界との交流も絶った。何故じゃと思う?」
 いきなり問われて生徒達は考え込んでいる。しばらくしてジィが答えを告げる。
「月に戻られたカグヤ様が帝殿の事を忘れられず、何度か地上界へ向おうとしたからじゃ。それで、地上界へ繋がる物はほとんど禁止となった。魔女界へ繋がる扉も封印を施し、一年に一度、必要最低限しか繋がらない様になっておるのじゃ」
「…一年に一度だけ」
 カグラは噛み締める様に呟く。その一年に一度というのがちょうど、今の時期なのだ。

***

「地上に降りたって時点で伝説なのかもしれないけど、今の若い子は憧れたりしないわ、そんな面倒な事」
「カグラさんって、ある意味オールドタイプ?」
「そんなんに私達の世界を任せるなんて、不幸よね」
「だから、我々はアルテ様を支持するのだ」
 その日の授業が終わり、放課後。アルテの席に集まるアルテミス5の面々は、嫌味の様に大声で話している。パルナはそれを迷惑そうに聞きながら、隣の席に声をかける。
「カグラ、気にしちゃダメよ……って、カグラ?」
 話しかけてみて、隣にカグラが居ない事に気が付いたパルナは教室を見渡す。しかし、何処にもカグラの姿は無かった。
「ちょっとぉ…ちゃっかり、何処かで落ち込んでるの?」
 パルナはカグラを探しに教室を出て行く。クリスは窓際にもたれかかり、そんなパルナを優しく見つめていた。そして、窓の外に目を移す。淡く白色に輝く街の上に漆黒の空が広がっている。その漆黒の向こうに小さくぼんやりと星が見える。

***

 パルナは学校の屋上に上がってきた。カグラとは魔女学校に入る少し前からの親友だ。付き合いは長い。カグラの行動はある程度予想できるとパルナは自負していた。こんな時、カグラはいつも屋上で星を眺めていたからだ。
「カグラっ、いるの?」
 屋上でパルナは声を張り上げる。しかし、屋上にはカグラの姿は無く、かわりに…。
「カグラさんを支持するのも大変そうですね…パルナさん」
「ですね♪」
 丁寧な、ある意味抑揚の無い声がかけられ、続けて幼さ溢れる声が語尾だけオウム返ししてくる。それは第四候補のトワイ・ノベンティと、彼女に心酔し支持している第十候補のホルプ・ディッセンティの二人だった。
「支持とか、そんなんじゃ無いわ。ただ、親友なだけ」
 パルナは心外とばかりに答える。
「なら、トワイ様に味方してよ。一緒にアルテを蹴落としましょ」
 ホルプは子供っぽい口調でパルナを勧誘する。パルナはまたかと言う感じに苦笑いして、くるりと踵を返して屋上を出て行く。
「もう、カグラ、何処にいるのよっ」
 屋上を出た階段の踊り場でパルナは小さく文句を言う。

***

「姫…いつまでこうしているつもりですか」
 カグラの足元で、白い兎型の真面目そうな妖精シロが言う。カグラは漆黒の空を見上げたまま何も言わない。同じくカグラの足元で寝転んでいる黒い兎型の妖精クロがわかりきったような口調で言う。
「覚悟が決まるまでだろ。お前も覚悟決めておけよ、シロ」
「私は…認める事はできない」
 シロはカグラを見上げて告げた。