おジャ魔女かぐら
第2話「魔女見習いとして」
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 教習所の一階にある小規模な教室。そこに、あの雪の様な肌の少女が氷の様に淡い青色の魔女見習い服を着て、椅子に座っていた。彼女は目を閉じる。すると…ある温かい感覚が甦ってくる。
「ふぅ……私」
 思うようにいかないのか、思わずため息が出てしまう。そこに扉が開いて黒マントに金髪のウェーブヘアの同年代の少女がムスっとした表情で入って来た。彼女は雪肌の少女を一瞥すると、避ける様に隅っこの席についた。その後、教官のマジョサリィがかぐらを連れて教室に入って来た。
「紹介します。あなたと同時期にここに入った、雹・深雪(ひょう・みゆき)とマジョナスカです。ナスカは魔女の子供、深雪は雪の世界の出身です。こちらは月影かぐら。月の世界の出身です」
 マジョサリィがかぐらに二人を紹介した。
「よろしくね、深雪ちゃん、ナスカちゃん」
 かぐらは笑顔で手を差し出した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 深雪は冷たい手で、握手に答えた。かぐらは一瞬、温度差にビクッとするが、すぐに笑顔を見せる。深雪は申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい。私…」
「仕方ないよ、そういうもんだもんね。私だって、そういうのあると思うし」
 かぐらの言葉に遠慮しがちだった深雪は笑顔を見せた。続いてナスカに差し出した手には反応は無く、変わりにキツい口調で返事が帰ってくる。
「おジャ魔女の分際で、私に気安く声をかけないで頂きたいですわ」
 激しい拒絶にかぐらと深雪は心に何かが刺さった感じがした。
「試験官、生粋の魔女である私が、なんで異世界の方々と共に修行しなくてはいけないんですの?私だけ別カリキュラムを要請します」
 ナスカはそう言うとかぐら達に背中を向け、マジョサリィに提案する。
「異世界って、そんなに変わらないと思う。同じだよ」
 差別された気がして、思わずかぐらはムキになってナスカの肩を掴んで訴えた。しかし、ナスカは…。
「いっ…触らないでっ」
 ナスカは力任せにかぐらの手を振り払って、逆上して言う。
「同じですって、深雪さん世界では、赤ちゃんは雪から生れるそうではありませんか、これでも同じと言うんですの?」
 深雪は自分の事を言われているのだか、そんな事より、さっき一瞬、かぐらが触れた時にナスカが見せた苦しそうな表情が気になっていた。しかしかぐらはこの言葉にカチンときて…。
「魔女だって、バラから生れるんでしょ。一緒じゃないの!」
「私達は高貴なバラから生れますのよ、あなた達とは違います。それにあなた、月のご出身でしょ、あなたこそ、人形みたいな作り物じゃありませんのっ」
 売り言葉に買い言葉で、ナスカの見下したような発言にかぐらは黙り込んでしまった。そこにマジョサリィが割って入る。
「ナスカ、やめなさい。確かに、あなたは魔女の子供の中でも強大な魔力と抜群の魔法センスを持っているわ。ですから、あなたの希望どうり、飛び級扱いでこの合宿への参加を認めました。しかしここのカリキュラムに従えないのなら、通常どうり、魔女学校に通って、時間をかけて魔女の資格を得てもらいます」
 そう言われて、何も反論出来ずナスカは黙って、席についた。こうして気まずい空気を引きずって、初日のガイダンスが始まった。

***

 ガイダンスが終わり、そのまま引き続いて、本日の実技講習の時間となった。実技講習は一日2コマあり、それぞれテーマが設けられている。そのテーマに沿った講習で、設けられた課題をクリア出来たと教官に判断された場合に教習手帳にハンコを押して貰える。そしてハンコ4つ毎に魔女見習い試験を受ける事ができるシステムだ。従って上手く行けば一日2個ハンコを貰えるので、二日で受験資格を得る事ができ、三日目に見習い試験という段取りになる。試験は通常と同じく9級から1級まで9回あるので、最短で27日で卒業できる計算になる。実際は認定玉を試験以外で2個手に入れる必要があるので、課外奉仕活動として2日分、日程が設けられている。
 今日は初日なので、魔法を使って何かを出してみようというテーマだった。
「それでは…かぐらと深雪は…」
 マジョサリィが説明を始めるとかぐらは嬉しそうに口を挟む。
「知ってます。タップをドミソドって演奏するんです」
 と言いながら、タップでドミソドを押すと、タップからステッキ状のアイテムが飛び出した。それが魔女見習いが魔法を使う為に使用する魔女界の楽器、魔女見習いポロンだった。憧れていただけにこの手の知識だけはかぐらの中に一杯詰まっているみたいだ。深雪はかぐらの真似をしてポロンを取り出す。深雪のはバトンタイプのポロンが出てきた。
「では、魔法を使ってもらいます。私が指定する物を魔法で出してください」
 と言ってマジョサリィは考える。そして…。
「知恵の輪の様に繋がったドーナツ」
 出されたお題に対してかぐらはポロンを構える。かぐらにとって初めて、ポロンを使った魔法だった。
「ピークレシェンド ププルナトゥライト 知恵の輪のドーナツよ、出て来いっ」
 かぐらの初めての呪文はどこかたどたどしく危なっかしい感じだ。隣で深雪も同様にポロンを振っていた。
「ピュールンパルン クールルンピット 知恵の輪みたいに繋がったドーナツを出して」
“ボンッ”
 二人の魔法でそれぞれ煙が噴出し、何かが出現する。それを見たマジョサリィは顔をしかめる。かぐらが出したのは八の字のくっついたドーナツ。深雪が出したのは鎖状に繋がったドーナツ。どう頑張っても知恵の輪の様に外せたりはしないだろう。
“パチッ”
 ナスカが指を弾いた。彼女は魔女の子供なので、魔女見習いのアイテムや呪文は必要なく、大人の魔女と同様に指を弾くだけで魔法を発動する事が可能だ。そしてナスカは的確にマジョサリィの指定したドーナツを出現させた。それはちゃんと知恵の輪の様に知恵をしぼれば分離させる事できる様な構造をしていた。
「流石は…って所ね」
 マジョサリィはナスカが出したドーナツをクルリと外して呟いた。