おジャ魔女かぐら
第3話「魔女失格!?」
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「かぐらちゃん、飛びたいってイメージして魔力を流し込んでみたらどうかな」
 すでにだいぶ上空をゆっくりと、少しフラフラしながら飛んでいる深雪のアドバイスが降って来る。
「飛びたいかぁ…よしっ、飛びたい飛びたい飛びたい飛びたい飛び…」
 かぐらは念仏を唱えるように何度も繰り返した。すると、ある時、水道の蛇口が壊れた様に一気に魔力が流れ出した気がした。
「いっ」
 気が付くと深雪、そしてナスカさえも跳び越すくらいの高度まで一気に飛び上がっている自分に気が付いた。
「飛んだっ」
 魔女界を360度一望し、それを実感するかぐらだったが…それを味わう暇は無かった。
「ひぃぇぇぇ〜」
 突如、箒が暴走し、でたらめな方向に飛び続け、何度も急な方向転換、挙句の果てにはかぐらを振り落としてしまう。
「あぶないっ」
 と短く叫んで指を弾いたマジョサリィの魔法で、かぐらの体はゆっくりと地上へ戻ってくる。エネルギーを失ったかぐらの箒はポトリとかぐらの側に落ちてきた。
「び…ビックリした」
 かぐらはバクバクしている心臓を押さえる様に口を開いた。
 その後、地味にどんどん上達していく深雪とひきかえかぐらは、飛ぶ度に箒を暴走させて普通に飛ぶ事さえままならない状況だった。
「なんて、不器用なのかしら」
 どんどん箒を使った課題をクリアしていたナスカは地上でグダグダやっているかぐらを見下すように呟く。結局かぐらは、その日の箒を使った教習で合格のハンコを貰う事が出来ないのだった。

***

 翌日、ナスカと深雪が次の「合体魔法」というテーマの教習を受けている隣で、かぐらは一人、箒に跨っていた。つまり昨日、ハンコが貰えなかった教習を再びやらされているのだ。
「もっと、集中しろ。精神を落ち着けるんだ」
 マジョサリィは、箒が暴走するのは注入される魔力に波があるからと考え、かぐらの集中力を高めるように指導していた。
 深雪とナスカはマジカルステージシミュレーターと言う魔法陣に入って、三人以上の魔女で行う合体魔法マジカルステージの教習を受けていた。二人が立っているのは三人以下の場合、足りない分を補って仮想的にマジカルステージを体感する事が出来る魔法陣だった。そこからかぐらの様子をチラリと見てみると、かぐらは箒に跨るのを止めて、何やら座禅を組んでいる様に見えた。
「何しているの…あの子」
 ナスカは呆れて呟く。深雪は心配そうにかぐらを見つめるだけだった。

***

 さらに翌日、かぐらはマジョサリィと二人でマジカルステージシミュレーターの魔法陣の中に入っていた。昨日の精神統一の甲斐があってか、多少安定して箒を操れたかぐらはお情けでハンコを貰い、次の教習に進んでいた。一方、深雪とナスカは8級試験に出かけているのだった。
「雑念は捨てなさい」
 かぐらはマジョサリィに注意される。慌ててかぐらは返事する。
「はいっ」
 無意識の内に焦っていた。深雪とナスカに置いて行かれる自分に…。それが少しずつ大きくなって雑念としてシミュレーターの作動に影響しているのだ。
「マジカルステージは参加者が心を合わせないと発動しません」
 マジョサリィが念を押すように告げる言葉がかぐらに重たく圧し掛かる。

***

「何で、こんな事もできない子が第一候補なのよ」
 紅色の髪をした少女の見下した目と鋭い言葉がかぐらの胸に突き刺さる。それに呼応するように周りの少女達もかぐらを冷たい瞳で見下す。
“出来ない事って、そんなにいけない事なのっ”
 泣きながら、かぐらは何度も自問自答した。月での魔女学校時代、事ある毎にこうやって苛められ、自問自答を繰り返した。次第に鍛えられ、よき仲間にも出会え事で、泣く事は少なくなったと思えた。ただ、劣等感の様な感情はどんどん心の裏側の普段は気が付かない部分に降り積もっているみたいだった。

「何で、こんな時に思い出しちゃうかなぁ…」
 かぐらは思いがけず呟いてしまう。今はかぐらは8級魔女見習い試験の説明を受けている最中だった。試験官魔女のモタとモタモタは説明を中断し確認する。
「かぐらちゃん〜、聞いてるぅ〜」
「聞いてるぅぅ〜」
「はっ、はい!」
 かぐらは慌てて返事する。結局、8級試験はアシハッポーンと言う物の頭に旗を立てるというお馴染みの問題だった。
『かぐらちゃん、落ち着いてやれば平気だよ。がんばって』
 教習所を出る時に、深雪にそう励まされていた。深雪は昨日、この試験をナスカと二人で受験し、見事合格している。
『ありがとう、深雪ちゃん、頑張ってくるよ』
 かぐらはそう深雪に笑顔で告げてここにやってきた。試験の内容、アシハッポーンの正体も途中の試練も深雪に聞いていたから楽勝だった。
「それじゃ〜ぁ〜ぁ、8級試験始めぇぇ〜〜」
 モタモタがそう言って、玩具のピストルを鳴らす。銃口からはヒヨコがピョコっと出てきて試験の開始を告げる。かぐらは箒に跨り、箒を握る手に力を込めた。
“早く、深雪ちゃん達に追いつかないと…”
 かぐらの箒がゆっくりと浮上する。そして……。
「うわぁぁ〜ぃやぁあぁ〜!」
 かぐらは悲鳴の余韻だけを残して試験官の二人の目の前から姿を消した。物凄い勢いで飛び出した箒。その箒の描く無茶苦茶な軌跡。それは今まで以上の暴走っぷりだった。箒にしがみ付くのがやっとのかぐらはすっかり乗り物酔いしてしまっていた。
 かぐらの箒はある空間に突っ込んだ。そこは何も無い何処までも真っ白な空間だった。この試験前に試験官がかぐらにお願いした“あなたの嫌いな物は”というアンケート。これが試験中の試練として出現すると深雪から聞いていたかぐらは対策として『なし』と記入していたのだ。それが反映されたのが今飛んでいる世界なのだ。しかし、この何も無い空間はそれだけで確かに怖いものがあった。
「ここから抜け出さなきゃ」
 かぐらはやっとの思いで胸のタップでドミソドと演奏し、出てきたポロンでメロディを紡ぎ出した。
「ピークレシェンド ププルナトゥライト 私が進む道を示して!」
 ポロンから溢れる光がかぐらの箒を包んだ。それに呼応し箒は今以上に物凄い勢いで飛んで行く、かぐらは両手両足を箒に絡ませて落ちないように踏ん張る事しか出来なかった。
「また、失敗したかも〜」
 何も無い空間にかぐらの声がドップラー効果を巻き起こし、遠ざかっていく。