おジャ魔女かぐら
第4話「金色の魔女」
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「私は、小さいころ習ってた琴です」
 かぐらは小さな子供用の琴を持ってきた。
「私は故郷から持ってきた、グラスハープです」
 深雪は大きさの違うガラスのコップが並んだ楽器を持ってきた。かぐらが珍しそうにグラスに触ると、澄んだ美しい音を響かせた。モタとモタモタは魔法でポロンと楽器を融合させる。
 ポロンが形を変え、3連の魔法玉を装填したクルールポロンへと進化した。
「おおっ、これが3倍の威力を持つクルールポロン」
 知識だけはあったかぐらが嬉しそうに自分のポロンを抱き締めて言う。
「3倍かぁ〜どうかはぁ〜わからないけど〜ぉ、今までより強い魔法が使えるのよぉ〜」
 モタが解説してくれる。
「赤く無いな」
 クロがかぐらのポロンを見てポツリと呟く。シロは呆れながらクロに告げる。
「そんな訳無いだろ」

***

 クルールポロンを手に、かぐらはご機嫌で教習所宿舎に戻ってきた。後をついてくる深雪も同じく嬉しそうだ。宿舎の門のところで、ナスカがポツンと待っていた。
「かぐらさん、ちょっと話があります。来て」
 かぐらの顔を見るなり、ナスカはそう言って強引にかぐらを引っ張って行く。さらにナスカはついて来ようとする深雪を目で制止した。その威圧感に深雪はビクッとして、歩みを止めてしまう。
「ナスカちゃん…痛い痛いよっ」
 かぐらは悲鳴の様に漏らすが、ナスカは構う事無く連れて行きながら、かぐらに告げる。
「悪いけど、妖精の二人も、待っていて欲しいの」
 ナスカの鋭い目に、かぐらの左右の髪飾りが輝き、2匹の妖精が分離して出てくる。
「何をするつもりですか」
 シロが問いかけるが、ナスカは答えず、かぐらを連れて行ってしまった。
「まるで、告白するみたいだな」
 クロは茶化す様に言ってしまい、シロに睨まれてしまう。

 かぐらとナスカ、二人きりの宿舎裏。向かい合って、かぐらを刺す様に見つめていたナスカが口を開いた。
「あなたが本当に私と肩を並べるに相応しいか、試させてもらいます。今晩、私と魔法勝負しなさい!」
「えっ…でも〜」
 思いがけない展開にかぐらは戸惑ってしまう。また、教習所では夜の外出は禁止されている。それに、かぐらは勝負というガラではない。
「私、ナスカちゃんと戦う理由が無いよ」
「それは余裕なの? 月の女王候補の自分が、ただの魔女の私に負ける筈が無いと…」
 ナスカは忌々しそうに言うと、かぐらは必死に否定する。
「違うよ。どっちが強いかとか、私はどうでも良いんだよ」
「月の女王のコピーに過ぎないくせに…元から強い魔力を与えられていて、そんな事どうでも良いなんて、馬鹿にするものいい加減してっ」
 ナスカは感情を爆発させる。かぐらは黙ってじっと耐えていると、ナスカの言動はエスカレートしていく。
「あなたも深雪さんも、月や雪の世界という限定された場所でないと完全に力を発揮出来ない、いわば出来損ないの魔女じゃありませんかっ。そんな半端者の癖にっ」
「出来損ないの半端者が努力しちゃいけないのっ」
 思わず、カチンと来たかぐらは反論してしまう。ナスカは臆する事無く言い放つ。
「そんなのが私達の世界に出しゃばって来られたんじゃ、迷惑なのよ。どうせ、対した理由も無くここにいる癖に」
「私は……確かに動機が不純だったかもしれない。でも…でも、深雪ちゃんは違うっ。深雪ちゃんをバカにしないでっ」
 目に涙を貯めたかぐらの訴えに、流石にナスカは後ろめたさを感じてしまう。
“ちょっと…言い過ぎたかしら……でも”
 ナスカは心を落ち着けて、かぐらを見つめ、考える。心の底からそう思っていた訳じゃ無い。かぐらが本気で自分と戦う様に仕向ける為の挑発だった。
「万が一あなたが私の勝てたなら、前言を撤回するわ」
「もう、あんな事は言わせないよ」
 かぐらはナスカを睨みつけて言う。ナスカはニッと笑みを余裕の浮かべ。
「勝てたらよ。私が勝った時は、あなたにはここを出て行ってもらいます!…では、今晩待っていますわ」
 ナスカは去って行く。かぐらは深雪のために戦う決意をするのだった。

***

「姫、一体、何だったんですか」
「話せよ、かぐら」
 宿舎に戻ったかぐらにシロとクロが執拗に問い質してくる。かぐらは早々に食堂で夕食を済まし、浴場に向う。女湯と書かれたのれんの前でシロとクロはかぐらが出てくるのを待っていた。痺れを切らしてクロが乗り込もうとする。
「もう待ってられんっ」
 それをシロが止める。
「止めろ、ここは共用の浴場なんだぞっ」
 月に居た頃、シロ達は護衛としてかぐらの側にほぼずっと付いていた。それは寝る時も入浴時も…だった。三人の間ではそれが当たり前になっていたのだ。但し、それはかぐらのプライベートな空間の事であり、この様な公の場では、さすがに状況を考えて付いて行けないのだった。

「ついカッとなって……あんな約束しちゃって…どうしよう」
 湯船に深く体を沈ませてかぐらは呟く。シロ達の追及をかわすのも大変なので、今日は長風呂を決め込んでいるのだった。
「何で、みんな戦いたがるんだろう。そんなに順位を決めるのが大事なのかな」
 かぐらは思い出す。こんな事は今回が始めてじゃ無いのだ。

***

 白いワンピース姿のかぐらが、同じ服を着た同年代の少女6人に囲まれていた。
「あなたが第一候補だなんて、間違いだと言う事を証明して差し上げますわ」
 リーダー格の紅色の髪の高飛車な少女アルテがかぐらを見下したように言う。そこは月の魔女学校。アルテはかぐらの次に次期女王としての資格を持つ者なのだ。そしてそんなアルテを取り巻いているのはアルテミスファイブを自称する下位の次期女王候補達だった。
「ミィズ、思い知らせて差し上げなさい」
「了解、アルテ様。さぁ、かぐら、私と魔法で勝負しなさい」
 と言って前に出てきたのは第6位の女王候補のミィズだった。彼女はアルテに忠誠を誓う忠実な部下で、魔法学科の成績もかぐらよりずっと優秀だった。
「ミィズちゃん…やめよぉよ」
 かぐらは弱気に主張するが、それを聞き入れてはくれなかった。