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「それじゃ〜始めようかしら」
モタモタがステッキを振ると、一瞬で景色が変化する。かぐら達をまとめて何処かに移動させたみたいだ。正面に大きな森、背後には巨大な液晶パネルが立っていた。そのパネルにはかぐらとナスカと深雪の顔が映し出されている。
「これは〜あなた達のぉ、状況を表示する物なのよ〜」
と説明するモタ。徐にモタモタがその巨体でかぐらを抱きしめる。すると、パネルに映るかぐらの顔に×マークが表示された。
「捕まると一目でわかる仕組みなのか」
パネルを見上げていたクロが理解したように呟く。
「これで準備は完了〜」
と言ってモタが試験開始の号砲を鳴らそうとピストルを構えると、突然、白いウサギが何かを訴え始めた。
「ウサッ!ウサウサウサーーッ!!」
「あらあら〜」
それを聞いたモタは何だか嬉しそうにしている。かぐら達がそれに首を傾げているとモタは説明してくれた。
「この子ぉ〜試験でかぐらちゃんをぉ〜捕まえる事がぁ…出来たら、結婚してぇ〜欲しいって言っているのよ〜」
「ええっ」
かぐらは思わず大声を出して驚いてしまう。モタモタは拍手して嬉しそうにしている。一方、ウサギはその場に座り込んでしまう。
「ウサウサ」
「この〜条件を認めて〜くれないと、試験には参加しない〜って言っているわ」
モタモタがウサギの言っている事を伝えた。
「何てワガママを」
「困りましたね」
ナスカと深雪は困った表情でかぐらを見つめる。しかしかぐらが一番困っていて、泣きそうな顔をしている。
「どうせ、合格するんだ。捕まらない。それでOKだろ」
クロがじれったそうに言う。シロがクロに噛み付くように言う。
「バカモン、もっとよく考えて物を言えっ」
「考えても仕方ねぇだろ」
クロが言い返し、二人はケンカになりかける。
「クロの言うとおりだよ。私、魔女になるんだから。それに魔法あるし」
かぐらは迷いを無理に隠してそう言った。こうして一気に試験が始まる。
“パンッ”
モタの空砲が魔女界特有の虹色の空にこだまして、かぐら達は森の中へと駆け込んでいく。そして10分後がウサギ達がスタート時間と設定されていた。その時間を待つウサギはじっと森の奥をかぐらの事を思って見つめていた。
***
木々が大きく生い茂り、日の光を遮ってしまって薄暗い森の中。黒々とした木陰にうっすらと人の形が浮かび上がる。それはまるで木の幹に出来た滲みの様に…。その滲みが呟く。
「どうやら、私にとって好都合な展開になってきたみたいね」
それは少し狂気じみた喜びを含んだ少女の声だった。
***
森の中。小さな丘の下の窪んだ地形にかぐら達は三人で身を隠していた。ナスカが説明する。
「あの勤勉なウサギは魔女界では有名なの。とにかく早い。そして仕事に忠実よ。普通に追いかけっこして勝てる相手じゃ無いわ」
ナスカの話にかぐらは青い顔をして叫ぶ。
「それじゃ…私はあのウサギさんのお嫁さんに…。そんなぁ…地球での素敵な運命の出会いがぁ…」
かぐらのイメージ上の背景で夢が崩れ去っていく。そんなオーバーなかぐらに深雪は苦笑いして言う。
「それは魔法を使わなければでしょ」
「そう。これは魔法の試験なのだから」
ナスカは頷く。かぐらは嬉しそうに復活して確認する。
「私、ウサギさんのお嫁さんに行かなく済むのっ」
ナスカはかぐらを無視して続ける。
「でも、ウサギは三人でチームを組んでいた。恐らく魔法に対する対策はしている筈」
「三匹同時に来られたら、たぶん、魔法を使っている暇は無いと思う」
深雪が心配そうに言うと、再びかぐらは落ち込んでしまう。
「もうっ、かぐらさんっ。鬱陶しいですわね。こっちにも対策はありますから、いちいち落ち込まないで欲しいですわっ」
終にプチ切れたナスカがかぐらに怒鳴りつけるが、何か策があるらしいナスカの手を握ったかぐらが嬉しそうにナスカを見つめていた。ナスカはかぐらにべっとりと見つめられ言い難そうに言う。
「敵を分散させる。それぞれ一対一に持ち込めば勝機はあるわ」
「つまり、ウサギさんに見つかった瞬間に私達、三方向に別れて、それぞれ対応するという事なのね」
深雪は納得したように言う。ナスカは頷く。
「そういう事」
一人になると知り、ちょっと不安そうにしていたかぐらだが、何かに気がついて……。
「来るよっ」
突然、かぐらが口にする。ナスカと深雪はかぐらを見つめる。二人には何も感じられないのだ。
「聞こえるんだ…足音が」
かぐらは自分の頭に生えているウサ耳を指さして言う。この大きな耳は伊達じゃ無いみたいだ。
「それじゃ、何があっても逃げ切る事っ」
ナスカはそう言って立ち上がり、窪みから飛び出す。
「大丈夫だよ。絶対」
深雪もそう言い残すとナスカとは違う方向へ走って行く。
「みんな、一緒に合格だよ」
かぐらは自分に言い聞かせる様にそう言うと、窪みを出た。
三方向に別れたかぐら達。しかし、ウサギ達は迷う事無くかぐらの方を追いかける。
「私達はどうでもいいって事なのっ」
立ち止まったナスカが怒りに任せて言う。そこに深雪もやってくる。
「ウサギさんの結婚がかかってるから」
苦笑いの深雪にナスカは含み笑いを浮かべて告げる。
「でも、これならこちらにもやりようはあるわ。絶対、三人で合格してやりますわ」
無視された怒りか、ナスカは異様に燃えていた。
***
「ちょっ、かぐら集中攻撃かよ」
スタート地点のモニターで様子を見ていたクロが試験官に食って掛かった。
「一匹ずつ確実に仕留める作戦か……これはハントだからな、こういうのもアリだろう」
シロが冷静に呟く。
「ちぃっ。もしかぐらが捕まるようなら……俺が……」
クロは危ない表情を見せつつ呟いた。モタとモタモタはこんな2匹の妖精を見つめて苦笑いしていた。
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