おジャ魔女かぐら
第8話「夢と過去と魔女
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 教習所に戻ったかぐら達は食堂で談話していた。
「もしかしてシロさんも、カッコいい人型になれますの」
 ナスカが興味津々にかぐらに問う。
「ん〜〜、カッコいいかどうかはわかんないけど……同じ様に人型になれるよ」
「かぐらちゃんは二人とずっと一緒だったからね。たぶん見慣れてて普通なのね」
 深雪が呟く。つまり、かぐらの男を見る基準はあの二人にあるという訳だ。しかし、場所は違うがそれぞれ魔女の世界で育った三人は男と言う物はどちらかと言うと珍しい物だった。だから、いろいろと興味があるみたいだ。
「ところで、あの二人は何処へ」
「たぶん、こうなるだろうと思って逃げたんじゃ無いかな」
 かぐらはナスカに言う。ナスカと深雪の興味の対象になるのがシロとクロには分かっていたみたいだ。それで姿を消していた。
「そんな事言って、実はいつもの様にこの髪飾りの中にいるのではありませんのっ」
 と言ってナスカは乱暴にかぐらの髪の大きな橙色の髪留めを引っ張る。
「痛いよっ、ナスカちゃん、痛い」
「ナスカさん、私に任せて」
 と言って深雪がかぐらの髪飾りに手を伸ばす。その手は軽く煙っている。相当に温度を下げているみたいだ。それにかぐらはゾクっとして逃げる。
「深雪ちゃん、それもきっと痛いよっ」
「そんなの一瞬だけ。あとは気持ちの良い世界に行けるのよ」
 サラリと言う深雪にナスカは頭を抱えてしまう。そこに……。
“かぐら、すぐに職員室へ来てください”
 壁に設置されているスピーカーからマジョサリィの声が聞こえた。
「かぐらちゃん、何したの?」
「相変わらずドジですわね」
 深雪が心配そうに、ナスカが茶化して言う。
「……こ、心当たり無いよぉ」
 かぐらは思い当たる節が無く不安そうに職員室に向かった。
“トントン”
「かぐら、入ります」
 かぐらはドアをノックし扉を開いて、マジョサリィのデスクへ向かった。
「あのっ、夜中に食堂でつまみ食いしているの私です。ごめんなさい!」
 かぐらはここに来るまで怒られそうな事を必死に考えて、怒られる前に自己申告して頭を下げた。マジョサリィは最初、キョトンしていたが次第に怒りの表情を見せる。
「朝食の下ごしらえを荒らしてたネズミはあなただったのですね!」
「えっ、その事じゃないんですか?」
 かぐらは素っ頓狂に答えた。がぐらは“しまった”という表情を見せた。そしてすぐに……。
「廊下の花瓶の事ですか?」
「ほほう、廊下の花瓶に何かあるのですか?」
 逆にマジョサリィが聞いてくる。これも墓穴のようだ。もう話すしか無いかぐらがガックリしながら話す。
「みんなでかくれんぼしてた時に、あの中に隠れたんですが、後で出れなくなって、花瓶を割って助けてもらいました。今はご飯粒でくっついてるんで、いつまた割れるか……」
 かぐらの話を聞いていたマジョサリィは震えている。怒っているみたいだ。
「普通に考えてあんな花瓶にあなたの体が入る訳ないでしょ」
「だから、良いんですよ、見つからないから」
 かぐらは力説する。マジョサリィは呆れてため息をついてしまう。
「これでも無かったんですね。それじゃ……」
「まだあるんですか?」
 マジョサリィは頭を抱えてしまう。
「今日の試験でクロがやり過ぎた事かな……と」
「その話は試験官から聞いています。許容範囲内です。今日は5級と4級試験の合格について褒めようと思い、あなたを呼び出したのですが……」
「えっ、先生が褒める?」
 意外な言葉にかぐらは失礼な言葉を返してしまった。マジョサリィはムッとしてしまう。
「5級と4級は他の魔女見習いと協力しないと合格できない場合が多いです。あなた達はいつの間にか、かぐら、あなたを中心に良くまとまっています。その事を評価してあげようと思ったのですが、罰の方が先のようですね」
 かぐらは罰として今夜から食堂の後片付けを手伝わされる事になった。さらに代わりの花瓶を買ってくる事も言いつけられた。
「それと、魔法研究所からこれが届きました」
 マジョサリィはかぐらに箒を渡した。
「箒ですか?」
「ただの箒ではないわ、あなた用にカスタマイズしてもらった箒よ。これでもう暴走する事は無いと思うわ」
 マジョサリィの言葉を聞いて、嬉しくてかぐらは箒を抱きしめた。そんなかぐらにマジョサリィは目を細めながら尋ねた。
「あなた、人間界に行きたいと言いましたね。その為に魔女にならなくてはいけないと、なぜ、そんなに人間界に行きたいのです?」
 突然の質問にかぐらは戸惑ったが、かぐらは語りだした。力強く自分の夢を……。
「先生、かぐや姫っておとぎ話知ってますか?」
「人間界の日本に伝わる古い物話ですね…確か、あなた達の先祖が出てくる」
 マジョサリィがおとぎ話を知っているのを確認して、かぐらは語りだす。
「物語のラストで、かぐや姫は月に帰るんですが、愛した帝に、またいつか会えるようにと延命の薬を渡します。でも帝は、高い山に登り、その薬を焼いてしまいます。煙が月に届くように。そして誓ったそうです。薬に頼らず自分の力で、そう何度生まれ変わっても、絶対、姫と再会してみせると」
「人間界に伝わる物語と少し違うわね」
 マジョサリィが記憶を辿りながら言う。
「はい、これは月に伝わる神話です。でも、この物語の影響で月の女性にとって帝は永遠のアイドルなんです。私は運良く月の女王候補として生まれました。この神話の約束を私の手で果たしたいんです」
 かぐらは力説していた。マジョサリィは呟いた。
「子供っぽいわね」
「子供ですもん!」
 かぐらが言い返す。マジョサリィは厳しい表情を見せてかぐらに告げる。
「その神話の時代とは時代が変っています。魔法界との交流が無くなり人間は変りました。人間は自分の範疇を越える物を認められず、それを利用するか陥れる事しか考えられない生き物です」
 マジョサリィの言葉はかぐらの胸に突き刺さる。かぐらはポロポロと涙をこぼしながら叫ぶ。
「そんな人ばかりじゃ無いっ。何でそんな事言うんですかっ」
「あなたは人間界の良い部分しか見ていない様ですが、そこへ行くのであれば、陰の面も知っておいた方が良いのです。でないと……」
 と言うマジョサリィの言葉の途中でかぐらは泣きながら職員室を飛び出して行く。