おジャ魔女かぐら
第9話「迷える魔女」
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“ダメっ!”
 声が聞こえた。深雪の声だった。かぐらは振り返る。魔法を使おうとした瞬間、背後の扉が閉まろうとしていた。
「そ、そんな!」
 閉まる扉と困った表情のパルナを交互に見ながらかぐらはどうしたら良いのか混乱してしまう。
“合格しなきゃ意味がないでしょ、あなた、一緒に魔女になるんでしょ!”
 また声が聞こえた。今度はナスカだ。かぐらは戸惑うように呟く。
「でも……私、パルナちゃんを助けないと」
“だったら尚更でしょ。一人前の魔女になるのが先よっ!”
“かぐらちゃん、これは心を試す試練なのよ”
 ナスカと深雪が力の限りかぐらに呼びかける。かぐらはそれに後ろ髪ひかれる思いで、扉に引き返した。
「パルナちゃん、私、絶対魔女になって会いに行くから、それまで待ってて……」
 闇の世界の扉を抜けたかぐら。その扉の隣には閉まりかけの扉があった。扉の先には二人の試験官が待っている。つまりこちらが正解の扉だ。かぐらは咄嗟に閉まり行く扉の隙間に体を滑り込ませた。
「ぎぃりぎぃり〜セーフゥで、合格ぅ〜」
 かぐらはモタモタの鐘を聞く事が出来た。かぐらは迷いを隠してナスカと深雪を見つめる。
「ありがとう、二人の声、聞こえたよ」 
「まったく、世話がやけますわ」
「おめでとうかぐらちゃん」
 ナスカと深雪はかぐらを囲んで喜んでくれた。

***

「試験中にそんな事が……」
 ナスカと深雪から話を聞いたシロは長い両耳で腕を組むようにして考え込んでしまう。そして慎重に尋ねる。
「姫はそのヴィジョンの中の少女達を何と呼んでましたか?」
「確か、パルナ、ミィズ、マリア、ホルプって言ってましたわ」
 ナスカの答えにシロは驚愕の表情を浮かべる。
「シロさん、知っているんですね、誰ですか?」
 かぐらを心配して焦っている深雪は何でも情報が欲しいと焦ってシロを問い質すが、シロはそれを遮り強引に問いかける。
「マリアはどっちについていたっ。ミィズかホルプか?」
「そう言われましても」
 かぐらの言葉から名前は聞こえたが、それがどの人物の名前なのかは彼女達を知らない深雪とナスカには答えようが無いのだ。シロはもどかしそうに言う。
「マリアは黒髪の魔女だ」
「それなら……ピンクの髪をした子供みたいなのと一緒でしたわ」
 シロに気圧されつつナスカが思い出す様に答える。その言葉を聞いたシロは難しい顔をして何か考え込んでしまった。
「ホルプと一緒なのか。……これは幻なのか、それとも現状を知らせている事なのか……何にしてもマズイ事になった」
 シロは眉間に皺を寄せて独り言の様に呟く。そんなシロの態度に深雪は少しムッとして、シロを抱かかえ思いっきり締め付けた。
「あぅ、つめっ、冷たい、凍死するっ、話す!話すから止めてくれっ」
 深雪の胸の中でバタバタと暴れるシロを深雪は苦笑いしながら解放した。
「……深雪さんの意外な一面を見てしまったような」
 固まった表情のナスカは小さく呟いた。シロは震えながら、説明に入る。
「月の女王は、13人の女王候補から選ばれる…といっても、順位が付いていて、実質可能性があるのは第5位くらいまでだ。それ以下はよっぽどの事が無い限り、女王にはなれない。そうなってくると候補の姫の中に派閥が生まれる。幸か不幸か、かぐら様は第1女王候補だ。かぐら様にあまり野心がないせいか、下位の候補姫は、かぐら様を蹴落とすべく、他の上位候補の派閥に加わった。かぐら様の味方は第7女王候補のパルナ様だけだった」
 シロが語り始めた月の王位継承システム。それはわざと作り出された過酷なお家騒動の様だった。それに深雪とナスカは複雑そうな表情を見せていた。
「月の王家も大変なのですね……でもどうしてそんなシステムが必要なの?」
 ナスカが問いかける。シロは頷いて答える。
「より強力な魔力を持つ女王が必要だからです。月世界はもとより草木も育たぬ貧困な大地。そこで生活するには強大な魔力でこの大地を変えなくてはなりません。即ち月の大地は女王の魔力で支えられています。女王になるという事は大地を支える事。安定した大地を得るためには強大な魔力が要ります。月とはそのような世界なのです」
 ナスカは理屈には納得出来たが、感情的に納得できないでいた。
「その為に、複数の魔女で競わせて、魔力を高めようというの」
 シロは話を続けた。
「女王候補の派閥は現在2つ。第2候補のアルテ派と第4候補のトワイ派。アルテ派は下位の候補を5人も取り込んだ大派閥、第6候補ミィズはその派閥の中心人物。ちなみに第10候補ホルプはトワイ派だ」
 深雪は名前と数字のオンパレードに混乱していた。
「えっえ〜っと」
「つまり、試験でかぐらが見たヴィジョンは、女王候補の派閥争いということなの?」
 ナスカがシロに確認する。
「そのとおりです。第5候補マリアは、無所属だったが、条件次第ではどこにでもつく傭兵的なところがある。その話では、どうやらトワイ派についたようだな……。かぐら様は今、月を離れている。この隙に、かぐらの親友のパルナ様を自分の派閥に引き込もうとしたのだろう」
 シロの言葉が止まる。深雪が悲しそうに言う。
「それじゃ、月でのかぐらちゃんのお友達が……」
 パルナの派閥への参加は月でのかぐらの孤立を意味しているのだ。
「パルナ様の意思が私の知っている時と変っていないのであれば、交渉は決裂している筈。パルナ様がかぐら様から離れる事は無いと思う。しかし、それが今のかぐら様にとって問題なのだろう」
「なに、どういうことなの?」
 深雪が理解できないように、キョロキョロする。
「自分の味方にならなくて、そのまま放置していて、いつかどこか他の派閥に入られるくらいなら……」
 ナスカが言い難そうにしているシロのかわりに説明した。深雪も分ったらしく。
「それでかぐらちゃん、心配してるんだ……」
 ナスカが思い出したように言う。
「でもかぐらは月の王位を捨てて人間界へ行くんでしょ、関係無いじゃないの」
「確かにそうなのだが、先程話したように、目的は魔力の一番高い月魔女を女王にする事。第2候補がかぐら様の魔力を抜けない限り、月の最高委員会が認めないのではと……そうなれば、この紛争にかぐら様が巻き込まれる事も十分に考えられる。そして何よりパルナ様は姫にとって大事な存在」