おジャ魔女かぐら
第10話「海賊魔女」
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「あなたの大事な人が大変困っています。必ず助けてあげましょう。ラッキカラーは黒、ラッキーアイテムは海産物」
「黒、海産物?」
 意味深な運勢にかぐらは首を傾げた。そして切実そうに問う。
「あの、大事な人を助けられなかったら、どうなるんですか?」
「知りません」
 獅子座はあっさりと答えた。そんな獅子座にかぐらはがっくりとしつつ、もう一つ尋ねる。
「…あの、蛇使い座さんは何処にいるか知りませんか?」
「知りません…彼は新入りなので、どこで何をしているのやら…」
 やはり獅子座は素っ気無く答えた。運勢以外の事はあまり気が乗らないみたいだ。それを感じたかぐらは獅子座に頭を下げ、蛇使い座を求めて歩き始めた。かぐらの胸の中では獅子座に言われた不吉な運勢が渦を巻き、胸を締め付けていた。

***

 かぐらは天の川の川岸にやってきていた。天の川はたくさんの星がまるで川の様に見える訳だが、ここでは文字通り、細かい無数の星が水の様に流れていた。
「ここ、ホントに天の川?」
 かぐらは苦笑いして首を傾げた。そしてすぐ上流の川原にナスカがいる事に気がついた。何かを探しているみたいだ。
「大事な人が大変困っている」
 ナスカを見てそう呟いたかぐらはナスカの方へ駆けて行く。
「ナスカちゃん、手伝うよ。蟹探してるんだよね」
 かぐらはナスカにそう言って、自分も川原で蟹を探し始める。
「あなたは自分の課題をこなしなさいよ」
 ナスカはキツくかぐらに言う。しかしかぐらは……。
「ナスカちゃん、私にとって大事な人なんだよ。だから助けないといけないんだよ」
 真剣にそう言われると、ナスカは顔を赤くして照れてしまう。でも……。
「それはわかりましたけど、あなたにはあなたのすべき事があるでしょ」
「こうする事で私の運勢は上がるんだよ。だからお願いっ、手伝わせてっ」
 ナスカは半ば呆れてしまう。
“どっかの星座に変な運勢を吹き込まれたようですわね”
 そう思ったナスカはかぐららしいと、つい微笑んでしまった。

「蟹って、川原の石をひっくり返すと、よく居たりするらしいよ」
 かぐらはキョロキョロと足元を調べ、手ごろな石を探す。ナスカは首を傾げる。
「らしいって?」
「人間界の本の書いてあったの」
 あっさりと答えるかぐらにナスカは呆れてつっこむ。
「どんな本なのよ」
 そんな間抜けなやり取りをしていた二人の口がピタリと止まる。ある物の存在が言葉を無くさせたのだ。
「……」
 目の前の座布団くらいの大きさの平べったい石の下に真っ赤な蟹が隠れているつもりらしい。らしいと言うのは、赤く目立つ甲羅やハサミがしっかりと石からはみ出しているからだ。ナスカはツカツカとその石に近づいて……。
“ドガァァ!!”
 思い切り石を蹴り上げた。“バタン”と石がひっくり返り、大きな蟹がその姿を露にする。蟹は焦って足をバタバタさせ、小刻みに左右に動く。そんな蟹を……。
“ゲシッ”
 ナスカは右足で踏みつけて動きを止めた。甲羅の真ん中を踏まれ川原に押し付けられた蟹は動く事が出来ず、次第にブクブクと泡を吐き始めた。その様子にかぐらが慌てて止めに入る。
「蟹さん、苦しそうだよっ」
「この困ってる蟹はかぐらさんの大事な人ですの?」
 ナスカは嫌味っぽく言う。今日のかぐらは自分にとって大事な人が困っているのを助けなくてはいけないのだ。かぐらの動きが止まる。それが答えと知った蟹は涙目でかぐらに訴える。
「そんなの関係無いよっ」
 蟹の涙にかぐらは我に帰り、ナスカの足をどかせた。そして一瞬でも迷った自分を嫌悪し始めてしまう。
「私って最低だっ」
 こんなかぐらを“らしいな”とナスカは優しく見つめる。しかし、突然に飛び込んできた叫び声が穏やかな雰囲気を切り裂く。
「たっ、たしゅけてぇ」
 消え入りそうな幼い男の子の声だった。かぐらとナスカは声の発信源を必死に探した。それは天の川の水流、いや、この場合は星流の中からだった。小さな金髪の某お菓子のエンジェルマークの様な子供が星流に流されていたのだ。ナスカは魔法を使おうと指に力を込めるが、かぐらの方を見て動きを止めた。
「かぐら、行きますっ」
 そう言ってかぐらは天の川に向って走り出していたのだ。あの子を助ける事がかぐらにとって先程の自己嫌悪を抜け出すきっかけになるとナスカは思ったのだ。こうしてかぐらは勢い良く天の川に飛び込んだ。
“バッシャーーン………バシャバシャ”
 飛び込んだかぐらはすぐに溺れてしまう。
「ちょっと、何してるんですのっ」
 ナスカは思わず怒ってしまう。必死に手をバタつかせて、水面、いや星面に顔を出すかぐらは途切れ途切れの言葉でナスカに言う。
「月に…は、海とか…無いから、私……泳ぐの初めて」
「だったら、飛び込まずに魔法を使いなさいよっ」
 と叫んで、ナスカは指を弾いて魔法を発動させた。ナスカの魔法は子供とかぐらをフワリと空中に浮かせ、川原まで優しく運んでくれた。
「私って駄目っ子だよ」
 細かい星まみれのかぐらは座り込んで、どんよりと暗い影を背負って落ち込んでいる。一方、子供の方はグッタリしている。
「この子、双子座の片割れ、ジェニーですっ」
 蟹が子供を見て言う。
「そんな事より、処置をっ」
 ナスカはそう言って、ジェニーという子供の胸に手の付け根を当てて、軽く魔力を込めながら優しく心臓マッサージを始めた。
“ゲホッゲホッ”
 しばらくして咳き込んでジェニーの呼吸が戻る。かぐらは感心して言う。
「ナスカちゃん、凄いっ」
「教習で習ったでしょっ」
 ナスカはかぐらに手厳しく言うと、かぐらはまた落ち込んでしまう。
「やっぱ、私は駄目っ子だね〜〜」