おジャ魔女かぐら
第11話「休日の魔女」
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 続いてかぐら達は次の目的地を目指して箒で飛んでいた。
「何、あれ」
 かぐらは丘の向こうに広がる禍々しい風景に釘付けになっていた。深雪も同じだ。
「あれは……呪いの森ですか、初めて見ました」
「呪いの森は不定期に場所が変わる奇怪で恐ろしい森。入ると二度と出れない。こんな所にあったなんて」
 ナスカが説明しつつ森に接近していく。ちょっと気になるのだ。
「でも、なんでこんな森が……」
 かぐらはどんどん大きくなる森に対して恐る恐る呟く。
「先々代女王の呪いと言われているけどね……ん、何か居ますわ」
 ナスカは地上に何かを見つけた。それはトボトボと暗い影を背負って丘を降りて行く白い者。その長い耳を見てかぐらは思い出した。
「あっ、試験で会った足の速いウサギさん」
「ああ、かぐらにプロポーズして、無残に玉砕した奴ですわね」
 ナスカも思い出して言うと、かぐらは複雑そうに言い訳する。
「あれはクロが勝手にぃ」
「あちらは私達に気付いていないみたい。このままそっとしておいてあげましょう」
 深雪がそう言うと、かぐらとナスカも頷いて、この場を離れようと箒を操作する。
「あれは多分、傷心の旅ですわね。下手にかぐらの姿を見せるのは酷かもしれませんね」
 ナスカはニタニタ笑いつつ、そう言って次の目的地を目指した。

***

 かぐら達は農場にやってきていた。そこでは頭に一本角のある馬、ユニコーンが育てられていた。
「凄い凄いっ、一角獣だ一角っ」
 ある意味、田舎者のかぐらははしゃいでいる。
「ここにいるのは養殖だけどね。野生のは物凄く数が減っていてね」
 牧場で世話をしている大柄の魔女がかぐら達の方へやってきて話しかけてくれた。かぐらは何故と首を傾げていると、ナスカが付け足す。
「ユニコーンの角は非常に貴重品ですので、一時期、乱獲されたのですわ」
「ふーん。可哀想。……ところで深雪ちゃんは?」
 かぐらは思い出したようにキョロキョロする。側にいると思った深雪が居ないのだ。
「あの〜ここなんですけどぉ〜」
 小さく声がする。その方向を見ると、深雪に大勢のユニコーンが寄ってきてじゃれている。
「物凄く懐かれてますねぇ」
 ナスカは半分羨ましく、半分お気の毒にという表情で笑っている。
「ユニコーンって暑がりなのかな」
 かぐらはポツリと呟く。ナスカは“それは違う!”という表情で苦笑いをかぐらに送るしかなかった。

 牧場の魔女の助けでユニコーンから解放された深雪。その後、三人は牧場の建物の横のベンチに座ってソフトクリームを口にしていた。
「ここの名物のキャロットソフトですわ」
「えっ、キャロットってニンジンっ」
「イチゴかオレンジかと思ってたけど」
 二人にソフトの正体を教えたナスカはその朱色のソフトを上品に舐めて食べる。かぐらと深雪は躊躇している。
「二人とも、ニンジン駄目でしたっけ?」
 ナスカが尋ねると…。
「かぐらはちょっと苦手なんだよね」
「私は大丈夫ですけど…」
 二人はそれぞれ最初の一口が食べれないでいる。ナスカがじれったそうにしていると、向こうから上品な声が聞こえてきた。
「ここに来たら名物のキャロットソフトを食べなくて価値がありませんわ」
 それは黄緑色の魔女見習い服を着たフランス人形の様な気品のある少女、名古屋さくらだった。その後には白い魔女見習い服の如月みると、桜色の魔女見習い服の李蘇雲が不思議そうに付いて来ている。
「蘇雲さん、さくらさん……それからみるとさん?」
 深雪が三人の魔女見習いを見つめ呟く。さくらと蘇雲とは前に雪の世界で出会っているのだ。その時、一緒じゃ無かったみるとだが、さっきステージを見ていたので確認するように尋ねる。みるとは初めて会う魔女見習いが自分の事を知ってくれているのが嬉しいとばかりに笑顔で頷く。
「雪の世界ではどうも」
 かぐらも思い出した様に挨拶する。
「私達もキャロットソフトを買いに行きましょう」
 さくらはそう言うと楽しそうに牧場の建て物の方へ向って行く。

 こうして魔女見習いが六人、牧場で楽しくソフトクリームを食べつつお喋りを始める。
「うわ〜、意外にいけるのね〜」
 最初は戸惑っていたみるとだったが、一口食べたキャロットソフトに舌鼓を打つ。隣で蘇雲はパクパクとソフトを食べている。その両手にはソフトが二刀流。
「あらあら、魔女見習い教習所って楽しそうですわ」
 かぐら達から教習所の話を聞いたさくらは興味を抱いている。
「でも、明日が一級試験なんだ……私も早く一級試験受けたいな」
「みると何言ってるカ、ワタシらももうすぐ一級試験に挑戦できるヨ」
 みるとと蘇雲の会話に深雪が尋ねる。
「みるとさん達、今日、2級試験でしたよね。どうでした?」
 ステージでのみるとの台詞を思い出したのだ。そんな深雪の問いにさくらがサラリと答える。
「今、試験中ですの」
「って、何、のんびりお喋りしてますのっ」
 試験中と聞いてナスカが立ち上がって焦りまくって問い詰める。
「そう言えば、ここに来たのも、さくらがこの牧場に手がかりがあるかもって言うから」
 みるとはだいぶ前の事を思い出す様に言う。お喋りが楽しくてすっかり忘れていたのだ。
「そう言えば、試験官の逃げ出したウサギを捕まえるっていうのが試験だったネ」
 短くなったソフトのコーンを口に放り込んで蘇雲が試験内容を口にする。
「そのウサギって、4級試験で対決する“勤勉なウサギ”さん?」
 驚いてかぐらが確認する。
「そうですわ。ウサギさんなら、このキャロットソフトが大好物な筈なので、ここに何か手がかりがあると思いまして」
「えっ、それだけの理由でここに来てたのっ。そぉも何とか言ってよ」
 さくらの言葉にみるとは驚いて問い詰めるがさくらはニコニコするだけ。みるとが話を振った蘇雲は姿が見えない。ソフトクリームのおかわりを買いに行ったみたいだ。