おジャ魔女かぐら
第13話「さよなら魔女教習所」
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「おめでとう。たくさん食べてるかい」
 声をかけられた。それはかぐら達が物凄くお世話になった通称“食堂のおばちゃん”ことコック魔女だった。
「食堂のおばさん、いつも美味しいごはんありがとう。あの、電子レンジに生卵いれて、爆発させたの私です。ごめんなさい」
 かぐらはペコリと頭を下げる。おばちゃんはニッと笑って追求する。
「他には無いのかい」
「えっとえっとぉ……」
 かぐらは汗ダラダラで答えに困る。そんなわかばを深雪とナスカは笑いを堪えて見ていた。

「掃除のおばさん、いつも宿舎を綺麗にしてくれてありがとう。あの、箒に乗る練習で、何本も箒ダメにしてごめんなさい」
 次に清掃担当の老魔女に声をかける。
「良いのよ良いのよ」
 老魔女はやさしくそう言ってくれる。かぐらが箒に乗るといつも暴走していて、挙句の果てには箒を駄目にしてしまうのだ。かぐらの手にかかり再起不能にされた箒は数知れない。
「でも、デッキブラシでやっと“飛べない魔女”を卒業できましたのよ」
 ナスカが言うと老魔女は微笑みながら言う。
「さすが、トイレ掃除魔女ね」
「それは言わないで〜〜」
 かぐらは耳を押さえて拒絶してしまう。

 会場中央付近のテーブルで食事を楽しんでいる二人組。魔女見習い試験を担当してもらった試験官魔女のモタとモタモタのコンビだ。二人は試験の無い日は教習所の学科講習も担当していた。駆け寄ってかぐらはお礼を言う。
「モタさんとモタモタさんの講義、いつも寝ていてごめんなさい。でもテープに録音して、後でちゃんと早送り再生で勉強しましたから許してください」
 とにかくスローな二人の口調の講義は眠たくて仕方ないのだ。その喋りに一種の催眠効果があるのではと思えるくらいに。そしてその講義は録音しておいて、倍速で再生するとちょうど良い感じになるという。教習生の間に伝わる知恵なのだ。
「そ〜れ、どう言う意味なの〜」
 モタとモタモタはちょっとムッとして答えた。

 一通りの挨拶を終えて、かぐら達は顔を合わせる。
「後は……」
 かぐらは会場を見渡す。そしてマジョサリィを見つける。
「一番、大事な人ね」
「行きましょ」
 ナスカ、深雪はそう言って歩き出す。かぐらも後に続いた。
「マジョサリィ教官、本当にありがとうございました」
 かぐらは恩師に頭を下げる。
「あなたは、なかなか面白い生徒だったわ。これで、もう物が破壊されないと思うと一安心ね」
 マジョサリィはいつのも厳しい表情と違い、笑いながら言う。
「教官、ひどいですっ!」
 かぐらはムスッと拗ねて見せた。そんなかぐらの顔を見ながらマジョサリィはサラッと告げる。
「そろそろ良いかしらね」
 と言いながら“パチッ”と指を弾いた。すると、教習所のスタッフ達がテーブルを手際よく片付けていく。
「何、何が始まるの?」
 ナスカが驚いて回りを見つめる。かぐらは物欲しそうに撤収されていく料理を見ている。
「かぐらちゃんったら」
 深雪は苦笑いしてしまう。テーブルが無くなり広くなった体育館を見渡し、マジョサリィは口を開いた。
「これより、魔女見習い教習所卒業パーティ恒例、教習生による魔法バトルを行います」
 と、高らかに宣言するマジョサリィ。かぐら達はポカンとしている。
「このバトルに勝った者が今回の最優秀教習生よ。さ、早く各自、サークルに入って」
 マジョサリィに言われ体育館の床を見ると、ちょうど三角形の頂点にあたる位置に三つ円形の模様が床に描かれていた。そこに一人ずつ魔女が立つ事になる。
「三人同時の魔法バトル。ルールは魔法のみを使い、相手をサークルの外に出すか“まいった”と言わせる事。禁止魔法、禁断魔法の使用は当然ながら禁止です」
 ルールを説明するマジョサリィにかぐらは懇願する。
「そんな、いきなりナッちゃんと深雪ちゃんと戦えなんて無理だよぉ」
「はじめっ」
 しかし、マジョサリィはかぐらの言葉など無視して開始を宣言してしまう。
「そんなぁ」
「かぐら、何してますのっ!」
 開始と同時にナスカが指を弾く。魔法が発動しかぐらの頭上に金ダライが出現し落ちてくる。
“ガンッ”
「いたっ」
 かぐらは頭を抱えて蹲る。コントじゃ無いんだからと深雪は苦笑いする。マジョサリィは凛とした口調でかぐらに告げる。
「魔法バトルは確かに戦闘行為に違いはありませんが、魔法のみを使い自分の思う事を相手にさせるというのは、実際は高度な頭脳戦なのよ。そしてあなた達の成長具合を見るのにはちょうど良い手段なの。それにかぐら、あなたには乗り越えないといけない事でもあるのよ」
 マジョサリィの言葉を継ぐ様にナスカが続ける。
「あなた、月に何しに帰るのっ。かつての仲間、同胞と戦う為でしょ。故郷を月を変える為にっ。それが終ったら戻ってくるって言ったんじゃありませんの。その約束、果たさないつもりですの。こんな競技の場ですら戦えないというのであれば、戦乱の月ではただの標的になるしか無いのではなくてっ」
 かぐらは銀色の小さな自分の水晶玉を握り締めて震えている。ナスカに何も言い返せない。かぐらはキッとナスカを見つめ、水晶玉に魔力を込めた。
“ガンッ”
「あうっ」
 今度はナスカに金ダライがヒットする。
「よくもやりましたわね」
 かぐらとナスカが睨みあう。そんな二人の足元で光の粒子がクルクルと回る。そしてそれが弾けるとかぐらとナスカは“ズテン”と同時に尻餅をついてしまう。
「私もいる事を忘れないで欲しいです。私も気持ちはナスカちゃんと同じなんだから」
 それは深雪だった。彼女の魔法でかぐらとナスカの足場が凍りついていて、物凄く良く滑る。ナスカは何とかバランスを取って立ち上がるが、かぐらは四つん這いから起きる事が出来ない。
「とにかく、氷を何とかしなきゃ……火でろ、炎よっ」
 起き上がれないかぐらが何やらブツブツ言って魔法を使っているが足場の氷は消えない。常に深雪が魔力を放出していて、魔法で出す炎程度では溶かしても即座に再生してしまうのだ。
「やってくれますわね」
 ナスカは不敵な笑みを見せる。